第19話 聖地への準備
「聖女に実力を認めさせるか……どうやればいいんだろうな?」
次の日の昼間、中庭にある椅子に座りながら、ノートのようなものを片手に唸っているアーサーを見て、ケイは満足そうに頷いた。
アーサーはいつもは部屋にいるのだが、ケイが『たまには外に出ないと病気になっちゃいますよ』と連れ出したのである。
生まれてこの方病気になったことはないのだが、ケイのいうことには逆らえないアーサーだった。しかし、外でもやることは部屋にいるときと変わらないところは生粋の引きこもりである。
「そういえば聖女様にお会いに聖地エルサレムに行かれるんですよね。お土産話を楽しみにしていますね」
一生懸命何かを考えているアーサーを見つめながらケイは空になったカップに紅茶を淹れる。
「何を言っているんだ? ケイも一緒にいくんだよ」
「え……ですが、平民に過ぎない私が外国についていくなんて……」
当たり前のように言うアーサーの言葉にケイは目を見開いた。
この方はなにをいってらっしゃるのだろう?
ケイが驚くのも無理はない。外国に遠出をするとなると、ついてくることができる人数も限られてくる。そのうえ王城とは違いイレギュラーなことが起きる可能性があるのだ。
こういう場合は、ベテランのメイドや、きちんとした貴族出身のメイドがついていくのが定石なのである。
「アーサー様、申し出は本当にうれしいのですが、私よりも適任の方がいると思います。それこそマリアンヌさんとか……」
アーサーが自分に親愛の感情を抱き、信頼してくれているというのはもうわかっている。だけど……だからこそ、自分の知識や力のなさで彼に恥をかかせたり、危険な目に合わせるのは嫌だったのだ。
だから断ろうとしたのだが……。
アーサーの寂しそうな目に気づき、言葉を止める。
「俺はほかのメイドじゃいやなんだ。ケイと一緒に行きたいんだ? だめかな?」
「もう……そんな風に言われたら断れるはずがないじゃないですか!」
アーサーに頼られ、ケイのお姉さんゲージが一気にたまる。こんなにも信頼されて、頼られて断るなんてお姉さんとしても、専属メイドとしても失格じゃないの!!
そして、彼女は自分に活を入れるとアーサーに笑顔で答える。
「わかりました!! ご一緒させていただきます。そのかわり、外国の料理が口に合わなくても好き嫌いは許しませんからね!!」
「ああ、ありがとう」
「では、私はちょっとやることを思い出したので失礼しますね、用があるときは遠慮なくお呼びください」
頭を下げてケイは城の方へと歩いていく。彼はこんなにも私を頼ってくれているのだ。知識がないのならば、アーサーに恥をかかさないために今からでも学べばいいのだ。
そう、熱い思いをかかえ専属メイド(お姉ちゃん)としてがんばるのだった。
「よかったーーーー」
アーサーは何やら気合を入れて城に向かうケイを見て安堵の吐息をもらす。実の所……というか、彼はあまり知らない人と会話をするのは得意ではなかった。だから正直外国へ行くとなるとかなり不安だった。しかも、今度は聖女をわからなせなければいけないのだ。無言ではいけないだろう。
以前はゴーヨクが勝手に喋ってくれていたので場がもったが、彼は今や牢獄である。まあ、本性を知った今あいつを頼る気はさらさらないが……かと言ってモルガンなんかに頼れば一分に一度は説教されそうだし、胃が痛くなりそうでしんどい。
そうなると頼れるのはケイしかいないのである。
それに…彼女には俺のカッコ良いところを見て欲しいしな。
まだどうするかは決めていないが、アーサーは聖女にその実力を見せひれ伏せさせるのが目的なのである。
そもそも、俺が聖女ごときに治癒能力で負けるはずはないしな……と 約束された勝利(自称)に頬を緩ませていると、声をかけられた。
「引きこもりのお前がここにいるとはな。いったいどんな風の吹き回しだ?」
声のほうを向くと、アーサーに似た金髪の青年と、無表情なメイドが立っていた。
「ん……ああ、ロッド兄さんか……」
「ロッドお兄様だろ? 俺は王になる男だぞ。治癒能力があるからといって、調子に乗っているんじゃない。なあ、メイド十五番よ」
「はい、ロッド様のおっしゃる通りです」
にやついた笑みを浮かべるロッドにメイド十五番と呼ばれた少女は無表情に答える。
「ちょっと話をしようじゃないか、アーサー。メイド十五番よ、茶を注げ」
そういうと彼はアーサーの向かいの椅子に座るのだった。
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