第11話 モルガン

モルガンはアーサーの言葉に感動していた。正直幼馴染であり付き合いも長いが、彼のことは世間知らずの皇子という評価であり決して高くはなかった。

 問題だらけのブリテンだというのに、圧倒的な権力を持ちながら貴族にいいように使われて、我儘ばかりの彼の在り方は彼女からしたら尊敬する対象ではなかったのだ。



「だけど本当は違かったのね……」



 彼はひたすら牙を研いでいたのだ。誰にも警戒をされないように貴族たちの言う事を聞いて油断させ、いつの日か、その知略を使ってこの国を救うために色々と調べていたのだろう。



 実はモルガンはメイドが絡まれている時のアーサーとゴーヨクのやり取りを一部始終見ていた。家政婦はみたならぬモルガンは見ていたである。

 彼女は貴族が権力に笠に着るのを嫌悪していた。彼女のモットーはノーブレスオブリージュ、権力が高い人間ほど、その義務として努力すべきだと思っている。

 だから、ゴーヨクがメイドに何か文句を言っているのを見て助けようと思ったのだ。アーサーもやってきたようだが、彼女は気にも留めていなかった。

 なぜなら、これまでの彼だったら興味なさそうにスルーするか、ゴーヨクの言いなりになると思っていたからある。

 だけど、彼は予想外の行動を取ったのだ。


 

「そのことならば俺が悪いんだ。すまなかったな。だから、お前も怒りを収めてはくれないか?」



 そう、メイドの……しかも、平民のために頭を下げたのである。それは貴族と平民の格差の大きいブリテンではありえないことだった。

 貴族が何かしでかしても、相手が平民や格下の身分の場合は怒鳴り散らすのが当たり前だったからである。

 そして、驚くことはそれだけではなかった。



「すまない……最近モルガンのやつから小言を言われてな。皇子たるもの多少は仕事もしろとのことなんだ。俺の財産の帳簿を持ってきてくれないか?」



 あの常に言いなりだったアーサーがゴーヨクに意見を言ったのである。しかも、わざわざモルガンの名前を言ってだ。これで彼女はピンときた。

 おそらくアーサーは私が見ていることに気づいていたのだろう。そして、暗に私に動けといったのだ。



 まかせておきなさい。



 モルガンはこちらの意図が伝わるように微笑んで行動に移る。彼女の笑顔を見て、アーサーがそそくさと行ってしまったのを疑問に思ったが、彼女は即座に動きゴーヨクの不正の証拠をつかむことに成功したのだった。


 そして、彼は絶妙なタイミングでモルガンの元に訪れたのだ。しかも、ゴーヨクを断罪する手伝いでしてくれた。

 これが……彼が本格的に動き出すという合図だったのだろう。



 そして、アーサーと話し合い、それは確信へと至る。彼の指摘した問題はモルガンも薄々感じていた。だけど、彼の言葉ほど具体的ではなかったし、どうすればいいかもわからなかったのだ。

 しかし、彼は約束をしてくれた。自分の権力と発言力を高めて行動すると言ってくれたのだ。



「私の方がずっと愚かで子供だったわね……」



 モルガンは自分の口が悪いという事を知っている。そして、それが反感を抱く要因となっていることも……それは幼くして父の後を継いだため、舐められないようにするためのたちまわりなのだが、反感は免れない。

 それにアヴァロンを継いだばかりの彼女には強力な後ろ盾がなく、何か新しいことをしようとしても、他の貴族に妨害されることは目に見えていた。アーサーがわざわざ顔を出して、味方になってくれたという事実が大きい。

 これまで、自らを貴族の言いなりになる無能と演じていたくらい頭の回る彼のことだ。ゴーヨクが自分の元へ抗議をしに来ることも予想していて、タイミングを見計らっていたのだろう。



「あなたは私を手に取るに値すると認めてくれたのね……」



 すでにいないアーサーが座っていた椅子を見て、彼女はうっとりと見つめる。ずっと一人で戦う事になると思っていた。だけど、味方は近くにいたのだ。それが本当に嬉しい。

 

 そして、彼の存在もあの孤児院を救えば一気に注目されるようになるだろう。だって、あそこは彼にとって特別な孤児院なのだから……



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