第7話 アーサーとケイ

「うーん……なんか重いな……」



 翌朝アーサーは重さとともに柔らかい感触を感じて、目を覚ました。不思議と久々に心地よい目覚めだった。最近見るあの処刑されるときの夢をなぜか、見ないで済んだのだ。

 そして目を開いたアーサーはすーすーと気持ちよさそうな寝息を立てているケイの寝顔が目に入って……



「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



 思わず女の子のような悲鳴をあげてしまった。そう、人生をやり直しているというのに前回もこれまでもこの男は異性関係の経験がほぼないのである。



「待った、待った、これはどういうことだよ。え? 俺なんかしちゃった?」



 元々がその治癒能力のおかげで特別な扱いであった上に婚約者との仲も最悪だったのだ。そして、革命がおきたおかげでついそういう経験をすることをせずに人生を終えているのである。

 そんな彼からしたら寝起きに女の子が同じベッドで寝ているというのは刺激が強すぎたのだ。



「あ……申し訳ありません。私まで寝てしまいました。すぐに朝ごはんの準備をさせていただきますね」

「あ、ああ……そのなんでケイがここに……?」



 予想外の状況に動揺しているアーサーを見て、ケイが楽しそうにクスリとわらった。



「うふふ、やっぱりマリアンヌさんの考えすぎだったんですね。ちょっとアーサー様の事がきになって様子を見に来たんです。それよりも昨日はよく眠れましたか?」

「昨日か……」



 確かに久々に熟睡できた気がする。それは彼女がいてくれたおかげだろうか? きっとそうに違いない。前の人生で俺を心配してくれた彼女がいたから悪夢から解放されたのかもしれない。

 アーサーは前の人生だけでなく、今回の人生でも救ってくれる彼女という存在に感謝し礼を言う。



「ありがとう、おかげでぐっすりと寝れたよ。よかったらまたこんな風に手を握って一緒に寝てくれないか?」

「え? 一緒に寝る……? それって……」



 顔を真っ赤にするケイを見て、自分の言葉の意味に気づいてアーサーの顔もまた真っ赤に染めながら、あわてて言い訳をする。



「違うんだ。その変な意味じゃなくて……俺が寝るまで手を握っているだけでいい。もちろん、俺は何にもしないから」

「ああ、そういうことですよね。うふふ、アーサー様はやっぱり甘えたかったんですね……」

「甘えたかったか……」



 アーサー自身そういわれるとしっくりくる気がする。彼にとって甘える存在というのはいなかったのだ。家族だって他人とはあまり変わらなかった。母は彼を産んですぐにどこかに消え、父は仕事で忙しくかまうことはしなかった。

 兄は時々話しかけてきてくれたが、弟のモードレットとあったことは数回しかない。こんな風に一緒に寝てくれる人なんていなかったのだ。



「でも、そうですね、私はあなたの母にはなれませんが姉にならなれると思いますよ」

「え、母? 姉?」



 ちょっとかみ合わない会話にアーサーは怪訝な顔をする。そもそもアーサーは母の顔すら覚えていないし、姉にいたっては存在すらしないのだ。どんな感情も抱いていない。

 まあよくわからないが、ケイが姉っぽく振舞いたいならばいいだろう。彼女の忠義にはなんでも答えるつもりである。




 それに……誰かに甘えるなんて、前の人生では考えられなかったが、彼女にこうしていると不思議と心が落ち着くんだよな。



 そう思ってアーサーは頷いた。



「ああ、じゃあ、それで頼む」

「はい、もちろんです。その代わり……私にアーサー様の事をもっとおしえていただけますか?」

「俺のことを……?」



 ケイの言葉を思わず聞き返す。今までアーサーの事をそんな風に知りたいという人間はいなかったからだ。誰もが彼の能力だけを気にしていたのだ。

 前回の人生での専属メイドも彼を知ろうとしなかった。彼が望めばほしいものをくれたけど、彼の好みを知ろうとはしなかった。だから、その言葉が嬉しくて……



「本当にケイを専属メイドにしてよかった」



 アーサーは心の底からそう思い、胸が熱くなってくるのを感じる。



「うふふ、そんな事を言われちゃうと照れてしまいます。専属メイドの私にもっと頼ってくださってもいいんですよ、アーサー様」



 そして、アーサーは彼女に色々な事を話す。自分が世間知らずだということがわかりちょっと気にしている事や、前の人生でケイに教えてもらった露店というものに興味があること、好きな物や嫌いなものだ。

 たいして面白くもないはずなのに、ケイはずっと嬉しそうに聞いてくれた。そして、それがアーサーには新鮮で、とっても嬉しかったのだ。

 そうして、ケイは本当の意味で彼の専属メイドになったのだった。

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