番外編 居酒屋飲み会コース風おつまみ
「今日はいつもより多いな‥‥‥?」
「ちょっと張り切って作りすぎちゃいました」
公爵様の言葉に、苦笑いで答える。
今日は、週末の晩酌日だ。
私たちの目の前には、6、7皿分のおつまみがある。いつもは1、2品だけなので、今回は3倍以上の品数があるということだ。公爵様が心配そうに私を見た。
「作りすぎて疲れたりしてないか?」
「もちろん大丈夫ですよ! それにビールを飲んだら、疲れなんて吹き飛ぶじゃないですか」
「まあ、確かにその通りだが」
公爵様はすぐに納得した。
‥‥‥なんというか、公爵様が段々私の考えに染まってきている気がする。ちょっと前までの公爵様なら、「そういうものか?」って言ったと思うのに。
でもまあ、仕方ない。ここまできたら、とことん飲みに付き合ってもらおう。
公爵様がテーブルの上にあるおつまみを見ながら、口を開いた。
「サラダに枝豆にフライドポテトに唐揚げに‥‥‥あとはなんだ?」
「つくね、かぼちゃの煮物、魚の塩焼き、シメの焼きうどんですね。
今回のテーマは、ズバリ飲み会コース料理風おつまみです!」
「なるほど?」
そう。今回のおつまみは、居酒屋を意識したおつまみを作ってみた。居酒屋でちょっとずつ食べるおつまみほど美味しいものはない。
会社の上司がいる飲み会では遠慮してあんまり食べられなかったりするけれど、“飲み友達”の前では遠慮する必要はない。せっかく沢山用意したし、沢山食べるぞ〜と気合を入れる。
私たちはグラスを掲げた。
「それじゃあ、乾杯〜っ」
まずはビールを一杯。冷たいビールの苦味が口いっぱいに広がる。この喉越しがたまらない。
ビールを飲みつつ、おつまみもつまんでいく。まずは枝豆・サラダ・フライドポテトあたりから。
シーザーサラダにはベーコンやクルトンも入っている。フライドポテトにはディップのできるソースも付けているので、これだけでも飽きがこない。
「枝豆はおでんの時も食べたよな?」
「食べましたね〜」
「フライドポテトは言わずもがなだな」
「たくさん食べましたね‥‥‥っ」
ビールと塩っけのあるおつまみたちの相性は抜群だ。永久に食べられるし、飲めてしまう。
アルコールによって食欲が更に湧いてきたので、続けて唐揚げをとる。サクッとした衣とジューシーな鶏肉に舌鼓を打つ。同時にビールを飲むと、さっぱりとした苦味がまた美味い。
公爵様がポツリとつぶやいた。
「唐揚げを初めて食べた時は感動したな。こんなに上手い食べ物はないって思った」
「そんなにですか?」
「そんなにだ」
公爵様は力強く頷いた。こんな家庭料理に、そこまで感動してくれるなんて思わなかった。確かに唐揚げは魅惑の食べ物だから、夢中になるのも頷ける。
次につくねを取った公爵様は、すぐに目を見開いた。
「ん、何か入ってるぞ⁉︎」
「つくねには、卵の黄身を入れてます」
私もさっそく鶏つくねを噛む。とろっと卵がとろけて、口の中が多幸感に包まれる。
色んなおつまみを食べながら飲むビール、どんなに最高なことか。ここに幸せがつまっていると言っても過言ではない。
こんな感じでおつまみを楽しんでいたんだけど‥‥‥そろそろがっつり炭水化物も食べたくなってきた。
「まだ他の料理残ってますけど、シメのうどんを先に食べちゃいますね」
「“シメのうどん”なのに、それで締めなくていいのか?」
「自由な順番でつまめるのが宅飲みのいいところなので‥‥‥」
お行儀が悪いわけでもないし、そこはご愛嬌ということで。
焼きうどんには、野菜と豚肉も入っている。醤油や砂糖で味付けされた濃い味のうどんが、これまたビールに合うのだ。
それぞれが好きなものを自由に食べつつ、ビールを飲む。
しばらくすると、お酒によって若干の顔を赤くしている公爵様が尋ねてきた。
「ところで、なんで急にこんなに作ろうと思ったんだ?」
「あー‥‥‥」
公爵様の質問に少しだけ言葉に詰まる。
「今日のおつまみのラインナップ、前に出したことがあるものばかりじゃないですか?」
「確かに懐かしいものが多かったな」
「実は、前と同じおつまみを出すことに気が引けてしまっていて‥‥‥」
相手のことを考えて料理を作るのはとても楽しくて、幸せな時間だと思っている。
けれど、どうしても考えてしまうのだ。この料理は前に出したばっかりだなとか。同じ料理を出して飽きちゃわないかなとか。
1人で晩酌をしていた時は自分の気分で作っていたので、考えもしなかったことだ。
それに、公爵様が毎回新鮮な反応をしてくれるから、なるべく新しいおつまみを提供したいと思っている。
それでも、前に食べたおつまみを食べたくなることはあるので‥‥‥。
だったら、飲み会コース料理風にして、色んな料理を一気に提供すれば新鮮かなっていう、ゴリ押し作戦を実行するに至ったのだ。我ながらなかなかのパワープレーだと自覚はしてる。
「あと単純に、いつも晩酌に付き合ってもらってますし、感謝の気持ちを表したいな〜と思ってたんです。豪華にしようと何品も作っていたら、こうなりました」
「なるほどな」
私の説明に頷いた公爵様は、グラスをテーブルに置いた。
「俺はジゼルの作ってくれる料理に飽きたことはないし、多分、今後同じつまみが出ても嬉しく感じると思う」
「そうですか?」
「ああ。ジゼルの料理なら1ヶ月毎日同じでも食べられると言っても過言ではないだろうな」
「それは過言じゃないですか⁉︎」
私がツッコむと、公爵様はクスッと笑った。
「俺だって晩酌を楽しんでるんだぞ。お礼を言わなきゃいけないのはこっちの方だよ。ジゼル、美味しい晩酌をいつもありがとう」
公爵様の言葉が嬉しくて、自然と口元が緩む。こう言ってくれる公爵様と一緒だから、毎週の晩酌が楽しいのだ。だから、私も公爵様と目を合わせて感謝を言葉にすることにした。
「こちらこそ、いつもありがとうございます。公爵様のお陰で、毎週すごく楽しいです。これからも一緒に晩酌しましょうね」
「もちろん」
私たちは笑い合って、コツンとグラスをぶつけた。
――――――――――――――――――――
大変ありがたいことに、先日、聖女晩酌のフォロワーが1000人達成しました!
いつも応援してくださる読者の皆さま、本当に本当にありがとうございます。こんなにたくさんの方に読んでいただけるまで連載を続けられたのは、皆さまのおかげです。
今回は最大限の感謝の気持ちを込めて番外編を投稿させていただきました。これからも楽しんでいただけるように頑張りますので、聖女晩酌をよろしくお願いいたします。
(最近時間に余裕ができたので、ずっとお返事できていなかったコメントに、少しずつご返信をしていこうと思います。なので、数ヶ月前のコメントにいきなり返信がきても驚かないでいただけると幸いです…!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます