第5話 トラブル発生が2回も⁉︎





 イアンさんの許可を得たことで、私たちの作戦は実行されることになった。新しい料理を提供し始めることを宣伝し、いよいよ新装記念オープンの日がやって来た。


 宣伝の効果が存分に発揮されたらしく、たくさんの人が店を訪れてくれた。


「今まであんまりいい噂聞かなかったけど、すごい美味しかったね」

「また行きたいよね。てか、友達にも教えてあげよ」


 などと言いながら店を後にする人も多く、知り合いからの評判を聞きつけた人たちが更に店にやって来ることで、順調に客足を伸ばしている。


 更に、店の外から店内の様子が覗けるようになっているので、回転寿司の様子が見れるようになっていて……


「うわ、なんだあの装置! 皿が回転してるぞ」

「ここにしかないって、ポスターに書いてあるわよ」

「せっかくの観光だし、ここで昼食にするか」


 と、回転寿司の珍しさで観光客もゲット。様々なお客さんが来てくれるので、店内はなかなかの忙しさだ。


 店主のピーターさんは、手際よく魚を捌いている。私も手伝い要員として、必死にお寿司を握りまくっていた。

 ちなみに、公爵様も店員として働いてくれている。高貴な公爵様のエプロン姿、申し訳ないことにちょっとだけ面白い。


 寿司と海鮮丼は同じくらいの売り上げを叩き出していた。というのも、私のとある作戦が効果を出したみたいで‥‥‥。



 店の奥で黙々と寿司を握っていると、お客さんの声が少しだけ聞こえてきた。


「ねえ、このポスター見て。『記念日には海の宝箱、“海鮮丼”を食べよう! 今日だけ特別価格』だって」

「特別価格なら食べてみようかな。通常の倍の量の海鮮を載せたスペシャルメニューもあるんだ。記念日で食べられたら嬉しいかもね~」


「“記念日に海鮮丼”、いいかもしれないないな」

「おれ、誕生日にこれたべたーい」

「じゃあ次の誕生日はここに来ましょうよ」


 店内の至る所に、大きな海鮮丼のイラストと「記念日には海の宝箱、“海鮮丼”を食べよう! 今日はオープン記念特別価格!」という文言のポスターが貼られている。


 実は、これが作戦会議をした時に考えた、お寿司と海鮮丼の差別化を図りながら、2つを売るための作戦である。


 回転寿司というインパクトの強さと手軽に食べれるということから、お客さんはお寿司の方が手に取りやすいことが予想できた。逆に、海鮮丼は売れづらくなる可能性があった。


 そこで、公爵様の「ワクワクする」「特別感がある」という言葉を聞いて、「海鮮丼を特別な日に食べる」という風習を作ってしまえばいいのではないかと考えついたのだ。


 例えば、日本の製菓会社の戦略でバレンタインデーにチョコをあげる文化が作ったり、夏場にうなぎを売るために土用の丑の日ができたみたいな感じで。

 「〇〇の日は海鮮丼!」みたいな感じで売り出したいと思ったのだ。


 そんな先人達の知恵を応用して、ちょうど新装オープン記念だったので、今回は「記念日には海鮮丼」という新たな記念日の祝い方を提示したのである。


 海鮮丼についての反応を聞いていると、お客さん達は結構受け入れてくれているみたいで安心した。前世の文化を応用した形になるから、受け入れられるかちょっと不安だったんだよね。


 この文化が順当に受け入れられれば、たとえ「回転寿司」というインパクトがなくなった後も、この店にはお客さんが入ってくれるはずだ。


「この“海鮮丼”、たくさん海鮮を味わえて嬉しい~というか美味しい~」

「海鮮丼で気に入ったネタをお寿司で食べるのもいいかもね」

「それいい! 店員さんに頼まなくてもいいから恥ずかしさもないし、私は追加でサーモンとマグロを2つずつ取ろうかなぁ」


「このマグロ、とろける食感で、うまいなぁ!」

「こっちのイカも歯ごたえがあって美味しいぞ。というか海鮮丼も気になってきた」

「ちょうど海鮮丼が流れてきたし、取ってみたら?」


 こんな風に、それぞれのお客さん達が海鮮丼と回転レーンの上を流れてくるお寿司を楽しんでいる。

 やっぱり、回転寿司方式にしたのもよかった。注文を聞いて運ぶ手間が省けるので、少ない人数で店を回せる。いずれ人を雇う必要はあるだろうけど、少人数で済むはずだ。



 お昼過ぎくらいの時間になると、少しだけお客さんの数も落ち着いてきた。


「そろそろ食材がなくなってきましたね。ちょうど客足も少なくなってきましたし、このタイミングで私が買いに行ってきますね」

「え? いいんですか?」

「ピーターさんは、この店を留守には出来ないですよね? それなら、食材のことを熟知している私が行くのが最適かなと思います。回転レーンの上のネタもしばらくは尽きそうにないですし」

「分かりました。ありがとうございます」


 買い出しに行くため、公爵様に一声かけようとする。しかし、公爵様はお客さんのお会計に対応しているようだった。


「おねえさーん」

「はい?」


 会計が終わるのを待とうか迷っていると、他のお客さんから声をかけられてしまった。

 もしかしたら何かトラブルがあったのかもしれないと、呼ばれたところに行く。すると、数人でカウンター席に座っていたうちの一人が机の上に置かれた海鮮丼を指さした。


「ねえ、海鮮丼の中に髪の毛が入ってたんだけど、どうしてくれんの?」

「それは……」


 確かにそこには髪の毛が入っていた。けれど、その髪の毛は、目の前にいるお客さんの髪色と同じだ。彼らはニヤニヤとふざけたように笑っているし、言いがかりをつけられていることは明白だった。


「聖女の力で綺麗にしてもらえねーの?」

「ぎゃはは、そんなこと出来るわけないじゃん! 聖女って人の怪我を治すことしか出来ないんでしょ⁈」

「それもそーか‼」


 下品な笑い方に嫌な気分になったけれど、とりあえず頭を下げる。

 ザワザワと他のお客さんもこちらに注目し始めている。この店の悪評を増やさないように、なんとか穏便に済ませたい。


「大変申し訳ございません。すぐに他のものを用意します」

「いやいや、俺たちびっくりしちゃったからさ。別のもの用意するだけじゃ足りないなぁ」

「……何かお望みでしょうか?」

「そうだな。例えば……」


 その時、彼らの言葉を遮るように、誰かの手が彼らのテーブルの上に乗せられた。

 果たしてその手は、お会計の場所から戻ってきた公爵様だった。彼はコソッと私に耳打ちをする。


「ジゼル、買い出しに行くんだろう。もう行ってこい」

「は、はい」


 私が下がると、公爵様が彼らに言葉をかける。丁寧な言葉遣いで、しかし、視線は鋭くして。


「お客様、何か問題があるのでしたら、こちらに申しつけ下さい」

「いや、俺はこのお姉さんに」

「こちらに」

「ハイ」


 そのお客さんは公爵様に睨まれて固まってしまっている。あとは公爵様に任せて大丈夫そうだ。私は公爵様に目で「ありがとうございます」と伝えて、その場をあとにした。





☆☆☆





 足りなくなってしまった食材を買い足して、店に戻って行く。さっきの失礼なお客さん、もう流石にいなくなってるかな。


 あの時の公爵様の対応はすごかった。

 背が高くて鍛えているから牽制しやすかったのもあるだろうけど、それにしても他の客に迷惑をかけないように素早く丁寧に、対応していたから。

 私もトラブルが発生した時、もっとスマートに対応できるようにしなければ。


 そんなことを考えながら歩いていたら、通りかかった人にいきなり肩を掴まれた。

 複数人の男性が私の行き先を塞ぐ。


「な、なんですか?」

「おい。お前、あの店に手助けしている聖女じゃないか」


 そう言われて気づいた。彼らは、初めてこの店に来た時に、店主であるピーターさんを殴ろうとしていた人たちだった。


 彼らは今日も酔っている状態みたいで、少しだけお酒くさい。私の肩を掴んでいる男はニヤリと笑って、口を開いた。


「俺たちの仲間を、あの店に送り込んだんだけど、どうだったよ? 店の雰囲気を最悪にしてただろ?」

「なんのことですか?」

「髪の毛が入ってるって文句つけたヤツいなかったか?」

「あれ、あなたたちが仕組んだことだったんですか⁈」

「そうそう。どうだったよ」


 まだ懲りずに嫌がらせをするつもりなのかと、怒りが湧いてきた。


「こちらで適切に対処させていただいたので、問題ありませんでした」


 あくまで私は冷静に事実を告げる。すると、彼らは明らかに機嫌が悪くなった。


「今日はなんか変わったことをやってるらしいけど、どうせ貴族様の入れ知恵なんだろ? あの店ばっかりズルくね?」

「というか、俺にもイアン様を紹介しろよ。それかお前たちが考えたアイディアを俺らの店に渡せよ」


 彼は私の肩を掴んで離そうとしないし、どんどん掴む力は強くなっている。けれど、私はキッパリと断った。


「やめて下さい。卑怯なことをするあなたたちに、何かを提供することはありません」

「なんだと?」


 私の拒否に、彼らの顔色が変わった。


「お前、瘴気の原因解明とかポテトチップスとかでチヤホヤされてるみたいだけど、調子乗んなよ⁈」

「というか、こいつを人質にすれば、こっちの要求に応えてもらえるんじゃないか? どうせこの女は抵抗なんて出来ないだろうし」







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来週は発売日前なので、この話の続きと番外編2つを投稿させていただきます。よろしくお願いいたします!

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