第2話 魚介スパゲッティと白ワイン
旅行は1泊2日の予定だ。私と公爵様は港町へと向かう馬車に乗っていた。
「ここから遠いんでしたっけ?」
「到着は昼過ぎくらいになるだろうな」
「じゃあ、3時間くらいですね」
出発前はリーリエとレンドール君が見送ってくれた。ちなみに、元誘拐犯・現稲作要員として雇われてる人達は、『アネキの料理が丸2日食べられないなんてえええええ』と叫んでいた。公爵家での仕事と調整しながらだけど、ほとんど毎日まかないを作ってたから……。
「1日目は観光しつつ、夜にイアンの支援してる店に行くんだよな?」
「そうですね。閉店後の時間に約束してるそうなので」
「2日目はどうする?」
「うーん……。せっかくなので、新鮮な魚を買って帰りたいです」
「分かった。帰りがけに買っていこう。何か魚料理を作るつもりなのか?」
「たとえば……」
二人で軽く計画を立てつつ、談笑する。
こうして話していると旅が楽しみになってくるが、ちょっとだけ不安もある。
イアンさんの商会が支援しているお店の役に立てるのかどうか、とか。イアンさんには“店の料理を食べて感想を教えるだけでいい、出来ればアドバイスもしてくれたら助かる”って言われてる。果たして有益なアドバイスなんて出来るのかなと考えてしまう。あと、公爵様との関係云々もあるし……。
「ジゼル、そんなに気を張らなくても大丈夫だ」
「え?」
「イアンの頼み事は、あくまで友人からの“頼み”だし、正式な仕事じゃない。アイツも気負わずに、まずは楽しんで欲しいって言ってたぞ」
「……私、もしかして顔に出てましたか?」
「ちょっと不安そうだったな。せっかくの旅なんだし、俺は一緒に楽しみたいな」
私は気持ちを切り替えるように、パンッと頬を叩いた。ちょっといつもの調子が出てなかったみたいだ。
「じ、ジゼル?」
「公爵様の言う通りですね。せっかくですし思いっきり楽しみましょう!」
休日に考えすぎるのはよくない。仕事で疲れた体を癒やしながら、公爵様との旅行を楽しもう。こういう時は深いことは考えずに楽しんだもん勝ちだ。
☆☆☆
目的地にたどり着き、私たちは馬車を降りて、町中を散策し始めた。潮風が心地よくて、遠くの方から船の音が聞こえてくる。港町にやって来たのだと実感した。
「お腹が空きましたね」
「まずは腹ごしらえだな」
「そうしましょう!」
時刻は既に12時を回っている。旅先で美味しい物を食べたいと思って、朝ご飯を少なめにしてきたので、お腹はペコペコだ。
「せっかくなので、魚介を使った食べ物を食べたいですよね」
「そうだな」
歩きながら、いい感じの店を探す。観光地なので、飲食店はもちろん、お土産屋さんやレジャーグッズの販売所などたくさん店がある。
ふと目に入ってきたのは、パスタ屋の看板だった。
「あ、こことかどうですか? 魚介のパスタが名物で、窓側の席では海も見えるらしいですよ」
「酒もあるみたいだしな」
「そういうことです……!」
ということで、私たちはパスタ屋で昼食をとることにした。窓際の席に座ると、外には瑠璃色の美しい海が広がっていた。
メニューには、新鮮な海の幸をふんだんに使ったパスタの名前が連なっている。
「俺は貝を使ったヴォンゴレにしようかな」
「私は……海老が美味しそうなのでペスカトーレにします。あと、白ワインも」
「了解。飲もう」
それぞれの頼んだ料理が運ばれてきたところで、食べ始める。フォークでパスタを巻いて、口に入れる。濃厚なトマトソースがパスタに絡む。ぷりぷりの海老と歯ごたえのあるイカがたっぷり入っていて、食べ応え抜群だ。せっかくなので、頼んだ白ワインの香りを楽しんでから、舌の上でころがす。
「ワインの酸味が豊かで、パスタとの相性が抜群ですね。本当に美味しい」
「そうだな。特に新鮮な魚介を使ったパスタはここでしか味わえないから、より美味しく感じるしな」
「旅の醍醐味というやつですね!」
それぞれパスタを食べ終わったところで、公爵様が口を開く。
「この後はどうする? 海でも見に行くか?」
「海は見に行きたいですね。あと、ここにたどり着くまでに、シーグラスを使ったお皿とかグラスを売ってる店を見かけたので、そこに行ってみたいです」
「お土産に買うのか?」
「そうですね。何か形に残るお土産を買いたいのと、リーリエとレンドール君の分もお土産で買って帰りたいです」
「いいな。……でも、リーリエやレンドールは、ジゼルが料理を作った方が喜びそうだけどな」
「ここで買った食材で料理はどっちにしろやるつもりなので、やっぱり別の物も買いたいかなって思います」
「じゃあ、一緒に土産を探しに行こう。まだイアンに頼まれた店に行くまで時間も充分にあるし」
「そうしましょう!」
というわけで、その後は公爵様と観光を楽しみつつお土産を物色した。あっという間に時間が過ぎて、すっかり夜になってしまった。約束の時間が近づいてきたので、私たちは約束の店に向かった。
まだ寝るには早い時間なので、人通りはそれなりにある。しかし、目的の店が近づくにつれて、すれ違う人の数は減っていった。
「確かこの辺でしたよね?」
「イアンの地図を見ると、もう少し先みたいだが……」
イアンさんからあらかじめ渡されていた地図に従って、道を歩く。しばらくすると目的地の方角から声が聞こえてきた。
「~~~~だろうが!」
「……………」
「~~~で、~~~なんだよ!」
ただならぬ雰囲気で数人の男性達が言い合いをしていた。というか、一人を複数人が囲って責め立てているような……?
「様子がおかしいですね」
「誰か人を呼ぶか。ジゼルは安全なところに……」
その時、ドゴッと鈍い音が響いた。遠目だからよく見えないけれど、まさか殴られたりしてないだろうか。だとしたら、すぐに癒やした方がいいよね。
「ちょっと、様子見てきます!」
「は⁉ まて、ジゼル!」
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