2.5章
第1話 公爵様がそれを言ったら、聖女の力で浄化すると思う。
24話後の時系列になります。よろしくお願いいたします!
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「今日でドミナス地方は回り終わりました。過剰収穫ということもなく、問題は特にないようです」
「ああ、分かった。明日からは別の地域に行ってもらうことになるが、いくつか候補地があって……」
夕方。領地の仕事が終わって公爵邸に帰ってきたので、私は公爵様に今日の仕事の報告をしていた。
これは瘴気の問題解決のために動いていた時からの習慣である。報告の後は、次の日の動きを軽く確認する。明日からは新しい地域を回るので、少し長めの打ち合わせになった。
「……ということで、明日から大丈夫か?」
「はい。分かりました。任せて下さい」
「ああ、頼んだ。それじゃあ、お疲れ様」
「お疲れ様でした」
というわけで、本日の業務が無事に終わって、私は公爵様の執務室から出ていった。
「なーんか、ジゼル様と公爵様って仕事の話ばっかりですよね」
「え?」
自室に戻るまでの道のりでリーリエから、そう声をかけられた。私は首を傾げる。
「そうかな? 次の晩酌で出す予定のおつまみについて話すこともあるよ」
「そういうことじゃないんですよ! もっと恋人らしい会話というか、甘いひと時というか……。公爵様から“愛してるぜ、ハニー”“今日も美しいね”的なことを言われたりとかないんですか⁉」
「それを公爵様から言われたら、普通に困るな」
というか、公爵様が何かに取り憑かれちゃったんじゃないかと疑う。めちゃくちゃ疑う。それは多分公爵様じゃないし、聖女の力で浄化しようとすると思う。
「リーリエ姉さん。お二人にはお二人の関係があるんですから、あんまり口出しすることじゃないですよ」
偶然通りかかったレンドール君がリーリエを注意する。それに対して、リーリエは頬を膨らませた。
「でも、せっかく両思いになったのに、仕事か晩酌の話ばっかりじゃないですか! もっと恋人らしく過ごせばいいのに!」
彼女の言う通り、晴れて両思いになった私たちは特に変わらない関係性でいた。いつものように仕事して、週末は晩酌をする。仕事の時は上司と部下として話すし、晩酌の時は飲み友達として軽口を言い合う。その関係に変わりはない。
強いて言うなら、休日に一緒に過ごすことが少しだけ増えたかな?ってくらい。その時も一緒に食事をするばっかりである。元々婚姻関係を結んでいることもあって、恋人同士の甘い期間というものがないのだ。
そして、両思いになったのに今までと変わらない関係でいられる理由には、少しだけ心当たりがあって……。
「多分だけど、それは私に合わせてくれてるんだと思う」
「合わせてる⁇」
「うん」
リーリエに聞き返されて、頷く。
私は恋愛事に慣れている方ではない。前世の社畜時代はもちろん恋愛には縁がなかったし、今世に関しては生まれてからずっと教会畜だったから……。正直、私はそっち方面には疎い方だと思う。
「今まで仕事と晩酌のことばっかりで私が恋愛事に慣れてないから、公爵様が合わせてくれてるんじゃないかなって。公爵様は優しいから」
「それって公爵様がただのヘタ……」
「シッ、言っちゃダメ!」
リーリエが慌ててレンドール君の口を押さえる。
「え、どうしたの?」
「いえ、なんでもありません。気にしないで下さい。公爵様が優しいのは、同意します」
レンドール君は早口で答える。なんだったんだ……。
「とにかく両思いになったんですから、もっと特別なことをしたいとか思わないんですか? いつもの晩酌だけじゃなくて!」
「うーん。どうだろう……」
リーリエに言われて考えてみる。
正直、今の関係が居心地よくて気に入っているんだよね。でも、このままずっと変わらくていいのかって聞かれると、ちょっと分からない。恋人らしくなりたいという気持ちもなくはないし。うーん。
「じゃあ、アベラルドと一緒に旅行にでも行ってきたらいいんじゃないかな」
「え?」
「やっほ~、ジゼルちゃん」
聞き慣れた声に振り返ると、そこにはイアンさんがいた。公爵様の友人である彼は陽気に手を振っている。
ちょっと前に、自宅に戻ったはずのイアンさんが公爵邸に来たということは……。
「えっと、また彼女さんに追い出されたんですか……?」
「違うよ⁈ 今日はちゃんと用事があっただけで、追い出されたわけじゃないよ! そんなにしょっちゅう追い出されるわけじゃないからね⁈」
「あ、そうだったんですね。てっきりまた彼女さんを怒らせたのかと」
「ジゼルちゃん辛辣じゃない⁈ アベラルドの影響かな⁈」
彼はゴホンと咳払いをする。
「えっと、そうだ。旅行だよ。二人でのんびり旅でもすれば、何か変わることもあるんじゃないかな」
「旅行ですか?」
「うん。環境を変えれば、二人の関係が進展するしれないし。もちろん、何も変わらなくてもいいしさ。そこはジゼルちゃんたちのペースで」
「な、なるほど」
「いいじゃないですか! 私は賛成ですよ!」
リーリエが顔を輝かせる。
「さっすがリーリエちゃん、話が分かるね。旅行に行くなら、港町のティドゴとかオススメだよ」
「港町ですか?」
「栄えてるし、距離的にもちょうどいいんじゃないかな。海の幸が新鮮で美味しいよ」
海の幸。すごく心が惹かれる……。
「あと、これは勝手な俺のお願いなんだけど……実は、ジゼルちゃんに行って欲しい店があるんだよね。うちの商会が支援してる店なんだけど、ちょっとジゼルちゃんの意見を聞きたくてさ」
「私の意見を? どうしてですか?」
「新商品を提供し始めたんだけど、伸び悩んでてね。ジゼルちゃんはポテトチップスとか米とか、新しい物を生み出したり目を付けたりするのが上手だからさ。もちろん俺からの頼みだから、旅費も出すよ」
「……」
彼からの提案を受けて、考えてみる。
彼は私を過大評価してくれるけど、ぜんぶ前世の知識から得たものだから、申し訳なくなってしまう。
でも、これまでイアンさんにはすごくお世話になったし、前世の知識があるからこそ何か役に立てるかもしれない。それに何より……、海の幸を食べたいよね……っ!
「分かりました。公爵様がいいと言ったら、一緒に行ってみます」
「ありがと。じゃあ、アベラルドには俺から話しておくから」
その後、公爵様からもOKが出たということで、私と公爵様は休日を使って港町ティエゴへ行くことになった。
港町。そういえば、ずっと前に公爵様と旅行しようと話したことがあった。あれは確か、瘴気の問題が解決したばっかりの頃だったかな。あれから孤児院に行ったり米探しをしたりで、日々があっという間に過ぎてしまっていた。
果たして、この旅行で公爵様と恋人らしい関係性を築けるのだろうか。
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