番外編 流しそうめんとビール
暑い。領地内を回るために外に出ると、すぐに汗が滲むほどの暑さだ。
公爵領は比較的穏やかで寒暖差の激しくない気候をしているんだけど、どうやら、今年の夏は例を見ないほどの猛暑らしい。とにかく毎日暑い。
涼しいものを食べたくなったので、私は公爵様に提案をした。
「明日はせっかくの休日ですし、そうめんを食べながら、お酒を飲みませんか?」
「そうめん……ってなんだ?」
私の提案に公爵様が首を傾げる。
「小麦粉で出来ていて、パスタに似てるんですけど、もっと軽くてちゅるちゅるしてるというか……うーん、食べてみたら分かります。とにかく、涼しくなりましょう! 明日、空けておいてくださいね」
「分かった」
というわけで、次の日の朝、私はそうめん作りを開始した。小麦粉、水、塩、油を使って、そうめんを自作していく。しょうゆ、みりん等も使って、なんとか前世の味を再現しためんつゆも完成した。
さて。どうやって食べるかなんだけど……せっかくなので、「流しそうめん」をするための装置をあらかじめ発注しておいた。
流しそうめんの装置の全長は、大体2メートルくらいで、そこそこの規模になっている。これ、魔法道具になっていて、あらかじめセットしておいたそうめんや野菜を勝手に流してくれる仕様になっている。これを発注した時、受け付けた人が「何に使うんだ」って不思議そうな顔をしていたな……。
ちなみに、木製である。本当は竹を使って、流しそうめんをしたかったんだけど、流石に竹はこの世界になかったからね。
装置は届けられた時に家の中に運び入れてしまっていたので、これを外に出さなければならない。装置は見た目通り重くて、運び出すのに苦戦していると、ちょうど公爵様と遭遇した。
「大丈夫か? これを外に運ぶのか?」
「はい、そうです」
公爵様は私から装置を受け取って運び始めた。
「ありがとうございます」
「俺は料理を手伝ってないし、これくらいはな」
「料理は私が好きでやってることですから。でも、運んでもらえるのは助かります」
と、公爵様が外に流しそうめんの装置を運び、私は食材やグラス等を持って行く。
一通り運び終えて、ふぅと息を吐いた。涼しくなるために始めたはずなのに、逆に暑くなってないか……という疑問はさておき。
さっそく実食である。
グラスに自作のめんつゆと氷を入れて、装置の側面に待機。
「それで、何をするつもりなんだ?」
「それは、これから分かりますよ。公爵様、よく見ててくださいね」
起動ボタンを押すと、装置の上流から、そうめんが流れてきた。
「これをキャッチして、食べるんです」
と、私が箸(これも自作)でそうめんを取って、めんつゆにつける。そのままちゅるちゅるっと麺を啜った。すると、すぐに次のそうめんが流れてきた。
「公爵様も、とってください」
「は……っ、うわ、あぶな」
「ナイスキャッチです!」
「トマトも流れてきたぞ⁉」
「それも取っちゃって下さい!」
と、二人でワイワイと、流れてきたそうめん、トマトやキュウリなどを楽しむ。しばらくしてから、公爵様が納得したように頷いた。
「なるほどな。目と耳と口から涼を楽しめるということか」
「そういうことです」
水の流れる景色や音、冷たいそうめんによって、爽やかな瑞々しさを体感することが出来るのだ。
「これ、憧れてたんですよね」
「そうなのか?」
「こんな装置、なかなか作れないですもん」
やってもみたいと思っても、手間もお金もかかるし、なかなか出来ることじゃない。
「これからは、いくらでも一緒にやっていこう」
「本当ですか? 私、調子乗っちゃいますよ」
「そのくらいで調子乗ってるなら、可愛いものだな」
「じゃあ、また別のことも思いついた時にやりましょうね」
公爵様と約束しつつ、私はグラスにあらかじめ持ってきておいた飲み物を注いだ。
そう、私たちに欠かせないものと言えば……。
「そして、お待ちかねの……冷えたビール!」
乾杯をしてから、グビグビとビールを飲む。
「っくぅぅぅぅぅう、きくぅ」
装置を運ぶために汗をかいた後だから、冷えたビールが尚更美味しい。体に沁み渡る。そうめんとビール、最高……。
「あ、ジゼル様が何か楽しそうなことやってるーっ」
ビールとそうめんを堪能していると、屋敷の窓からリーリエが手を振っているのが見えた。手を振り替えしつつ、彼女に聞いてみる。
「リーリエも一緒に食べる?」
「食べたいです! レンドールも呼んで来ますねーっ」
「はいはーい」
その後はみんなで楽しくそうめんを食べて、夏を満喫した。
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