第24話 これからのこと
「おーい、アベラルド! ジゼルちゃーん!」
果たして、声の主は、公爵様の友人のイアンだった。彼は、遠くの方で、大きく手を振っている。
やがて、彼は私たちの元までやって来た。
「やあやあ。久しぶりだね、アベラルド」
「何をしに来たんだ?」
「公爵家に行ったら、ここにいるって聞いたから、びっくりしちゃった。あ、ジゼルちゃんはこの間ぶり~」
「急に来るなんて、何かあっただろう?」
「いや、そんなことは」
「何か、あったんだろう?」
公爵様が詰め寄ると、イアンは勢いよく頭を下げた。
「……恋人に追い出されちゃったので、泊めて下さい‼」
「またなのか」
「いやあ、ちょっと他の女の子と仲良くしすぎたっていうか、女性には優しくする主義っていうか……」
「自業自得だな。野宿でもしてろ」
公爵様が冷たく言い放つ。相変わらず、公爵様はイアン様には辛辣だ。
しかし、イアンはめげない。
「ほら、今回も手土産を持ってきたから。それもとびきりのやつ!」
「物には釣られないぞ?」
「多分、釣られちゃうと思うな~。なんてったって、持ってきたのはジゼルちゃんが探していた作物だからね!」
「え⁉」
思わぬ言葉に、私は勢いよく顔を上げた。イアンが差し出してきたものを見ると、確かにそれは米だった。
「ジゼルちゃんと話した後に、色んな人に聞いて回ったんだ。そしたら、新種の作物を売っている、外国の商人を見つけることが出来たんだよね。話を聞いてみれば、ジゼルちゃんの言っていた作物の特徴と似ているみたいだし、これは……と思って、持ってきたんだ」
「これです、これを探してました!」
「お、当たりだったみたいだね。よかった」
イアンはホッとしたように笑う。
「……これの種とかって、仕入れることは可能ですかね?」
「もちろん。その商人とは連絡先を交換してるからね。我が商会が仲介するよ」
「ありがとうございます!」
これなら、米を大量生産することも夢じゃない。公爵家の特産品になることがグッと現実味を帯びてきた。
そこで、イアンはニヤニヤと揶揄うように公爵様を見た。
「ところで、二人は晴れて両思いになったんだね」
「な、なんで、それを知ってるんだ?」
「なんか幸せそうだし、あとは二人の距離が近くなったよね」
そう指摘されて、私と公爵様は顔を見合わせる。意外と相手の顔が近くにあったことに気づいて、私たちは慌てて距離を取った。
「あはは。初心だね~! 二人とも、顔が赤いよ」
「うるさい」
「アベラルドは、もっと女性をリードする術を身につけた方が……」
「イアンは、家を追い出されないために、もっと一途になった方がいいんじゃないか?」
「おっと、雲行きが怪しくなってきた。邪魔者は退散しまーす」
彼は、リーリエとレンドールのところに行って、「入ーれーて」と混ざりに行ってしまった。ちゃっかりおむすびも食べ始めている。
そんな彼の姿に、公爵様は「まったく」と再びため息をついた。
「イアンが悪いな……って、酒を飲んでるのか⁉」
「あはは。無事にお米を生産できそうなので、祝杯です。あと、せっかくのお花見ですし。公爵様も飲みます?」
「飲むに決まってる」
持ってきたビールをグラスに注いで乾杯をする。
風がそよそよと凪ぎ、心地良い。隣には公爵様がいて、ビールも美味しい。
心が幸福感に満たされていく。
「私、お米を使ったお酒を探したいんです。もし、見つからなければ、新しくお酒をつくろうと思うんですよ」
「そんなこと出来るのか?」
「出来るかは分かりません。でも、やってみたいんです」
なにせ、お酒づくりなんて初めてのことだ。いつもやってる料理とは勝手が違うから、作成は難しいだろう。それでもやってみたい。そう思うのだ。
「なんと言っても、寒い日に飲む熱燗……! もう一度、味わいたい!」
「まるで、飲んだことがあるみたいだな」
おっと、危ない。私は慌てて話を逸らした。
「他にも、やりたいことが沢山あるんです。お米を広めるために、色んな領地と提携してご当地お米料理を開発してみたいですし、試したいおつまみもたくさんあるんです」
この間は親子丼をつくったけど、これから色んな丼物に挑戦したいとも思ってる。カツ丼、天丼、海鮮丼……。どれをとっても美味しそうだ。
それに、おつまみだってまだまだ作りたいものは沢山ある。
「本当にやりたいことが沢山だな」
「だめですかね……?」
不安になって聞き返すと、公爵様は首を振って笑った。私を安心させるための、いつもの優しい笑顔だ。
「ジゼルの好きにすればいい。俺もできる限り手伝うから」
「ありがとうございます!」
公爵様が助けてくれる。これほど心強いことはない。
前世、最後の願いは「誰かと一緒に飲みたい」というささやかなものだった。公爵様のお陰で、それを叶えることができて、思わぬ労働改善に心に余裕もできた。
公爵家の人や領地の人と関わっていく中で、公爵家での仕事にやりがいも生まれた。
そうして人と関わっていく中で、やりたい、やってみたいと感じることが増えていった。私は、いつの間にか欲張りになってしまったみたいだ。
「来週も頑張りましょうね、公爵様」
「ああ。頑張ったら、週末は晩酌だな」
これからも公爵様の妻として、公爵様の隣で働いていく。
そうして、めいいっぱい頑張った後は、二人で一緒にお酒を飲もう。そうしよう。
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いつもお読みいただきありがとうございます!
応援やコメントなど、いつも励みにさせて頂いてます。(最近はコメントに返信できておらず、すみません……)
来週はいつもと違う曜日に投稿するかもしれないです。お楽しみにしていただけたらと思います!
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