第23話 試食会





 その後。誘拐犯たちは、正式に公爵家で雇うことになった。

 初犯であり、私自身が許しているということもあって、今回のことは公にはせずに、公爵家内で処理することになった。


 とはいえ、最初、公爵様にはかなり渋られた。ジゼルに危害を加えた奴らを許すわけには、と。

 しかし、何度も話し合いを重ね、最終的には「どうしても、米を収穫できる人材が欲しいんです」と泣き落とししたことで、許してもらえた。

 その瞬間に立ち会っていたレンドールは、「惚れた弱みですね」と呟いていた。



 そして、今日。私たちは、馬車に乗って移動していた。


「見て下さい。きれいな花畑が見えてきましたよ」


 馬車の窓の外を指さして、隣に座る公爵様に話しかける。


「花を見ながら米を食べるんだよな? 楽しみだ」

「はい。楽しみです」


 今日は、手に入れた米を使って作った米料理の試食会を行う日である。

 試食会自体は公爵家で正式に米を取り扱う方策を練るためのものなんだけど、「どうせなら前に話していたことのあるお花見もしたい」という話になった。

 そこで、「お花見会兼試食会」として予定を立て、今日決行されるに至ったのだ。


 メンバーは、私と公爵様、レンドールとリーリエのいつもの四人だ。


 私たちの向かい側に座っているレンドールとリーリエは、「ジゼルさまの新しいおつまみ、楽しみだよね」「今日は試食会ですよ。真面目に食べて下さい」と相変わらずの会話をしている。


 目的地に着くと、色とりどりの花が爛漫と咲いていた。目に優しい光景に、日々の疲れが癒やされていく気がする。


「きれいですね」

「そうだな。ところで、何ていう花なんだ?」

「え? 知らないです」


 花より団子。ということで、風景を楽しむのもそこそこに、さっそく試食会を始めることにした。


「“おむすび”というものを作って持ってきました」


 お弁当箱を開く。中には、沢山のおむすびが入っている。他には、卵焼きとたこさんウィンナーだけ入れた。定番のお弁当スタイルだ。

 おむすびの具材は、鮭、たらこ、昆布、ツナマヨ。こちらも定番の四種類。どれが入っているかは、食べるまでのお楽しみである。


 変わり種の具材を入れてもよかったんだけど、まずは手堅い具材から食べてもらおうと思う。

 さっそく、各々がおむすびを手に取って、食べ始めた。


「ぷちぷちしてる……。これは?」

「たらこだよ」


 まず口を開いたのは。レンドールだ。

 彼が手に取ったのは、たらこだった。彼は初めて食べる食感に、不思議そうな顔をしている。しかし、しっかり美味しいと感じているみたいで、無言でおむすびを頬張っている。

 彼のおむすびをのぞき込んだリーリエが、「いいなあ」と声を出した。


「たらこ、美味しいよねえ。私は、この中だとたらこが一番好きな具だなあ」

「ん? リーリエ姉さんは、既に全部の具材を食べたことがあるんですか? まさか味見を? 誰よりも先に? 公爵様よりも先に?」

「ああー、えっと……、あ! 私は鮭が入ってましたよ。ジゼル様‼」

「話を露骨に逸らさないで下さいよ」


 二人の会話を笑って聞き流しつつ、私は隣に座る公爵様に話しかけた。


「公爵様は、何が入っていましたか?」

「これは……何だ?」

「それは、昆布ですね」

「昆布? 確か、おでんの具材にも同じ名前のものがなかったか?」

「ありましたよ。同じ食材から作ってますから」

「こんなに味が違うのに……?」


 公爵様も不思議そうな顔をしたが、ペロリとすぐに一つ食べ終えてしまった。彼は「ふむ」と頷く。


「食べ応えがあって美味しいな。米は無味なのかと思ったが、しっかり塩の味がついているし、具にも塩っ気があるから飽きがこない。なにより、色んな具が楽しめるのも良い。全種類制覇したくなる」

「ぜひぜひ全種類食べて下さい。どれも美味しいですよ」

「ジゼルは、何を食べてるんだ?」

「ツナマヨです。マヨネーズを使っているんですけど、これがまろやかで美味しいんですよ」

「マヨネーズを? 想像できないが、確かにうまそうだな」


 すぐに公爵様は次のおむすびに手を伸ばす。

 協力しながら、公爵様はなんとか全種類を制覇することが出来た。


「最初は半信半疑だったが、これだけ手軽に食べられるなら、広く受け入れられそうだ。美味しいし、飢饉対策にもなる。ジゼルは、すごいものを見つけてきたな」

「見つけられたのは、ほとんど、たまたまでしたけどね」

「後は、公爵領の特産品にできるよう、大量生産を出来ればいいんだが……」

「そこが問題なんですよね」


 他領と取引したり、領地内に普及させることができるだけの米の量は、まだ収穫できていない。

 誘拐犯たちは、外国の商人から種籾を買ったと言っていたのだ、その商人を見つけられれば、種籾を買い取って稲作ができるんだけど……


 その時、遠くから「おーい」という声が聞こえてきた。




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