第22話 新しい契約を
「~~~っ、俺はジゼルのことが……」
そこで言葉を止めた公爵様は、意を決したように私の手を取って、私を真っ直ぐ見つめた。
真剣な表情に心臓の鼓動が早くなる。
そういえば、「大切な飲み友達」って公爵様が言ってくれた時、私は何を期待していたんだっけ……?
「……俺は、辛い過去を乗り越えてきたジゼルのことを守りたいと思うし、悲しんでいるときは誰よりも早く気づきたい。酒に一直線すぎるところは困る時もあるが……そういうところも可愛らしいなって思ってる」
公爵様は一旦言葉を句切って、私を見つめた。彼の顔は真っ赤になっていて、彼の緊張が伝わってきた。
「そう思うのは、ぜんぶ、ジゼルが好きだからなんだ」
公爵様の言葉に目を見開く。公爵様が伝えてくれた気持ちは、ぜんぶ、これまで私が公爵様に対して思ってきた気持ちと同じだった。
この気持ちを何と呼ぶのか考えたことがなかっただけで……
周りからは「言った」「言い切ったぞ」「脱・ヘタレ」というヒソヒソ声が聞こえてくる。
その場にいる全員が私に集まる中、私は口を開いた。
「私も責任も過去も一人で背負ってきた優しい公爵様の側にいたいって思ってますし、泣いている時は近くで励ましたいって思ってます」
「……」
「私だって、酔ってる姿が可愛いって思っちゃうくらい、公爵様のことが好きなんですよ」
「好き」という言葉に、今度は公爵様が目を見開いた。
「本当か?」
「本当ですよ」
「ここで断っても、ジゼルの不利益にならないように契約を更新するぞ?」
「その心配はしてませんよ!」
なぜか信じてくれない。仕方がないので、私は公爵様に近づく。そして、彼の背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめた。
「ジゼル……?」
早鐘を打つ彼の心臓の音が聞こえてくる。
その音がくすぐったくて、嬉しくて、ほわほわと高揚感に包まれる。この感覚は……
「お酒を飲んだときと同じ感覚がします」
「もっと他に表現なかったのか」
「でも、もっとずっと幸せです」
私の言葉に答える代わりに、公爵様はぎゅっと抱きしめ返してくれた。
その日の夜。私たちは再び契約を結び直した。
お酒を飲みながら、思い思いに好きなことを書き連ねていく。
「いってきます」と「おかえりなさい」は毎日言おうとか。喧嘩をしたら次の日には仲直りをしたいとか。
そういう堅苦しさのない、子どもの約束事みたいなのを、思いつく限り。新しい契約の内容はめちゃくちゃで、多分、人にはくだらないって笑われてしまうだろうけど。それでも、新しい契約書は、私たちの距離が近づいた証な気がして、嬉しかった。
そして、契約書の最後は、私たちらしい言葉で締めくくった。
「ずっと一緒にお酒を飲む」と。
――――――――――――
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
終わりの雰囲気出てますが、連載はまだ続きます!もう少しお付き合いいただければ幸いです。
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