第17話 久しぶりだね
私は、引き続き図書館通いを続けていた。図書館の中は、相変わらず静かで穏やかだ。お米の手がかりは、なかなか見つからず、情報収集に進展はない。
その中で変化したことと言えば、私が聖女であるということが周知の事実になったことくらいである。
特に最近は、図書館に行くと、強い視線を感じていて……。
「見て。聖女様が、また調べ物をされているわよ」
「本当だわ」
司書さん達が私を見て、ひそひそと囁き合っている。
「ここ最近は、毎日来ているわ。きっと勤勉なのね」
「さすが聖女様よね」
ごめんなさい。違うんです。ただ、お酒とおつまみのことしか考えていないんです。勤勉とかじゃないんです……。
そんな私の心を知らず、司書さん達は私に尊敬の眼差しを向けている。私が資料を探すために声をかけると、すぐに対応してくれるし、罪悪感がすごい。
集中力が途切れてしまったので、ちょっとだけ別の本……料理本でも読もうかな。今度の晩酌では、公爵様とクリームシチューを作ろうと約束している。ビーフシチューのリベンジをしたいんだって。せっかくだし、あらかじめレシピを確認しておこう。
その場を後にしようと立ち上がると、後ろから肩を叩かれた。振り返ると、そこには……
「やっほー。久しぶり、ジゼルちゃん」
「イアン様⁉ お久しぶりです!」
そこには、公爵様の友人であるイアンがいた。
「どうしたんですか?」
「風の噂で、聖女様がここに通ってるって聞いてね。もしかして、ジゼルちゃんかな~って思って、来ちゃった」
「そうだったんですね」
そんなに噂になっているのかと、苦笑いしてしまった。
「アベラルドは、元気?」
「はい。元気ですよ」
「ジゼルちゃんは、毎日楽しい?」
「はい。おかげさまで」
「二人は、デートには行ったの?」
「は……」
ナチュラルに聞かれて、流れで頷きそうになってしまった。私はゴホンと咳払いをして、慌てて言い直した。
「一緒には出かけましたよ」
「どう? 楽しかった?」
「た、たのしかったですよ」
なに、この質問攻めは……!
質問の意図が分からないし、イアンはニコニコと上機嫌だ。
「その時に、アベラルドから何か言われたりしなかった?」
「えっと……」
思い出すのは、公爵様に服装を「似合ってる」と言われたこと。そして、酔っ払った時の褒め殺しの数々だ。
顔が赤くなった私を見て、イアンは「お」と眉を上げた。
「アベラルドもやるね~。……なんて言われたか教えて欲しいな~」
「オシャレしたら、か、かわいいって褒められました」
私はその時のことを思い出して、顔を赤くしたんだけど。
「え、まだそんな段階なの?」
「え?」
「え?」
私たちの間に微妙な空気が流れる。
「まあ、二人のペースがあるからね。ゆっくりでいいと思うよ! ……アベラルドには、もっとしっかりしろって言いたいけど」
最期の方の言葉がよく聞こえなかった。聞き返したけど、「なんでもない」と流されてしまった。
「ところで、ジゼルちゃんは、どうしてここに?」
「えっと、実は探しているものがあって」
そこで、私は詳しい事情を説明し始めた。商会を営んでいる彼なら、何か知っているかもしれない。
一通り話を聞いたイアンは、うーんと考え込む。
「白くて、もちもちしている、粒状の食べ物? 聞いたことないな……」
「そうですよね……」
やっぱり、この世界にはないのかな。そう思って俯くと、イアンは「でも」と言葉を続けた。
「新しい作物の種みたいなものを売っている人は、見かけたことがある気がするんだよね」
「本当ですか⁉」
「うん。朧気な記憶だし、ジゼルちゃんの探しているものと一致するかは分からないけど……。ちょっと俺の方で調べてみるよ」
「ありがとうございます! 私は、毎日この時間にいるので、何か分かったら教えて下さい」
「うん。でも、最近は物騒な事件も続いているし、ジゼルちゃんも気をつけるんだよ」
「はい!」
この時、私はうれしさに目が眩んで、気づいていなかった。私たちの会話を盗み聞きしている人がいることに。
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