第15話 餃子を食べよう
キッチンにジュワジュワと焼ける音がする。今、私は餃子を作っていた。
今日は晩酌の日ではないんだけど、餃子を食べたくなってしまったので、作ってみようと思ったのだ。
「ジゼル。何か作ってるのか?」
餃子を焼いていると、公爵様がキッチンに顔を出した。
「はい。ちょっとだけ作っちゃいました。せっかくですし、一緒に食べましょう」
「いいのか?」
「もちろんです。どうせなら、お酒も少し」
「いいな、それ」
公爵様と一緒に餃子の乗った皿を運んで行く。今日は約束している晩酌の日じゃないけど、ちょっとだけ飲んじゃおう。
「今日のメニューは、餃子です!」
「ぎょうざ?」
公爵様が首を傾げる。餃子って、この世界にはないもんね。
「どんな食べ物なんだ?」
「百聞は一口に如かず。とりあえず食べましょう」
「分かった」
私たちはそれぞれ餃子をとった。そして。
パリパリッ、ジュワッ
餃子に噛み付くと、すぐに肉汁が溢れ出してきた。出来たての熱々で、餃子のハネがパリパリしている。
「うっまぁ」
そのままビールをグビグビ飲んだ。アルコールが身体を駆け巡り、ほわっと身体が熱くなる。
「美味しいですね、公爵様」
「‥‥‥」
「公爵様?」
「ハッ」
公爵様がフリーズしてた。私が声をかけると、すぐに公爵様は話し始めた。
「ああ、美味しいな」
「今、意識飛んでましたよね?」
「最初はパンみたいなものかと思ったが、まったく違う。外はパリパリ、モチモチ。中には肉が詰まっていて驚いた」
「意識、飛んでましたよね?」
公爵様は少し顔を赤くした。
「美味しすぎるのが、いけないだろう」
「あはは」
相変わらず公爵様は面白い。
彼は恥ずかしそうにゴホンと咳払いをして、話を変えた。
「それにしても、晩酌の日じゃないのに、今日はどうしたんだ?」
「実は、今日は図書館に行ってきたんですけど」
「図書館に?」
「はい。そこで懐かしいレシピを見つけて、作りたくなっちゃったんですよ」
実は今日、仕事帰りに領地の図書館に寄っていた。
そこでレシピ本を読んでいると、餃子に似た食べ物を見つけた。そして、どうしても食べたくなってしまったのだ。
「餃子って美味しいから、無性に食べたくなる時があるんですよね〜」
「確かに、これは定期的に食べたくなりそうだ」
公爵様が苦笑する。すっかり餃子の魅力に取り憑かれてしまったみたいだ。
「でも、なんで急に図書館に? 何か困っていることでもあるのか?」
「いえ。ただ、ちょっと調べてみたいことがあっただけで‥‥‥」
私は言葉を濁す。
実は、ちょっと気になっていることがあった。
私が気になっていること。それは、公爵様と出かけた時に見かけた「桜の盆栽」である。
あの時行った屋台通りは、他国との交易が盛んになったために、人で賑わっていた。
そして、フラワーショップで、見つけてしまったのだ。桜の盆栽に似たものを。
一瞬だったから、あれが本当に私の知っている「桜」なのかは分からない。
だけど、もしかしたら、「桜」があるなら、“アレ”もあるんじゃいかって思ったのだ。
白くて、ほかほか。日本人なら誰もが大好きな、あの主食。
そう、お米だ。
お米があれば、おつまみの幅が広がる。丼もの、おむすび。チャーハンもできるし、オムライスもできる。他にも、たくさんレシピは思い浮かんでくる。
それに、何より米が見つかったら、私はやりたいことがあるのだ。
「日本酒」で晩酌を‥‥‥!
これまでも日本食を食べるたびに、思っていた。日本酒を飲みたいなぁって。
でも、流石にこの世界にはないだろうなって諦めてたのだ。
だけど、桜が見つかったなら、米も見つけられるはず。そして、米が見つかったなら、日本酒も見つかるはずだ。
もし日本酒がなくても、「お米があるなら、私が作ってやる」くらいの熱量は持っている。
そういった熱意と考えの元、お米があるのかを調べるために、今日は図書館に行ってみたのだ。
まあ、完全に当初の目的を忘れて、レシピ本に見入ってしまったんだけどね。
「しばらくは図書館通いを続けるつもりなので、ちょっとだけ帰りが遅くなるかもしれないです」
「分かった。それなら、今度の晩酌は‥‥‥」
「晩酌がどうしたんですか?」
「いや、なんでもない」
公爵様が首を横に振るが、確実に何かを言いかけていた。
もしかしたら、公爵様は気を使って晩酌をなしにしようとしたのかもしれない。けれど、図書館に行っても、晩酌の時間はしっかり確保するつもりだ。おつまみ・お酒開拓のためとはいえ、週一の楽しみがなくなったら、本末転倒だからね。
ということで、しばらく仕事帰りに図書館に立ち寄る日々が続いた。
何冊か気になった本を手元に置いて、調べていくが、なかなか上手くいかない。
読み終わった本を閉じて、ふぅとため息を吐いた。
「‥‥‥この本にも、何も書かれてなかったな」
他国との交易って言ってたから、別の国について書かれている本を探している。
違う国の言語で書かれている本なら何か手掛かりがあるのかもしれないけれど、読むまでに時間がかかってしまいそうだ。
「すみません。閉館の時間なのですが‥‥‥」
「あ、はい。すみません!」
夢中になって調べていたら、あっという間に時間が経過してしまった。もう既に外は暗くなっている。
そういえば、今日は公爵様と晩酌の日だったはずだ。急いで公爵邸に戻らなければ、晩酌の時間に間に合わなくなってしまう。
今日は作るおつまみも決めてなかったし、早く帰ろう。
私は慌てて本を片付けて、図書館を出て行く。すると‥‥‥
「いやーーーーーー!」
外に出た瞬間、女性の悲鳴が聞こえてきた。
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