第12話 デートなのか‥‥‥?


今回から数話、この作品が珍しくラブコメしてます。


――――――――――――――――――――




 今日は、公爵様とでかける約束の日だ。私はソワソワして、部屋の中を行ったり来たりしていた。


 だって、今世はもちろん、前世だってデートなんてしたことがない。そもそも、これがデートと言っていいのかも分からない。


 前に公爵様と飲み屋に行った時とは、ちょっと違う気がしている。あの時は、「仲のいい上司と飲み屋に行く」だけだったけど、今はもっと‥‥‥


「ジゼルさまー! 入りますよ!」

「っ、はーい」


 扉の向こうからリーリエの声が聞こえてきて、慌てて答える。

 すると、リーリエが満面の笑みで部屋に入ってきた。


「ジゼルさま〜、聞きましたよ。今日は公爵様と出かけるんですね」

「うん。そうだよ」

「じゃあ、今度こそデートですねっ」

「ちが‥‥‥っ」


 違うとも言い切れない!


 どこか意識してしまっている自分がいて、「デートじゃない」と言えなかった。


 だって、前よりも今はもっと、距離が近くなった。

 週に一回と決めた晩酌の日も、少しずつ多くなって、お互いの考えていることが分かることも増えた。


 そして、一緒におでんを食べた時に、公爵様の過去を知った。あの時、真っ直ぐ見つめる公爵様の視線にドキドキしてしまったのだ。



 でも、ちょっと仲のいい男女が遊びに行くだけでデートなんて言っていいのか、まったく分からない。何より、公爵様には「そのつもり」がないかもしれないし‥‥‥


「ジゼルさま。今は難しいことを考えず、とにかくお洒落をしましょう!」

「え? でも、もうこの服で行こうと思っているよ」


 私は着ている服を指さす。仕事に行く時も使っている、いつもの普段着だ。


「ダメです。せっかくだから、特別感出しましょう!」

「でも、何を着たらいいのか分からなくて」


 何せデートなんてしたことないから。前世と今世を合わせて数十年生きてるはずなのに、悲しいことに人生経験がまったく役に立たないのだ。


 しかし、そんな情けない私とは違って、リーリエは自信満々に胸を叩いた。


「私に任せて下さい! いくつか可愛い服を持ってきましたから、貸しますよ!」

「え、いいの?」

「もちろんです!」

「リ、リーリエ姉さん‥‥‥!」


 リーリエが頼もしい。いつもは妹みたいって思ってたのに、今日はなんだか神々しく見える。

 今日からはレンドールに倣って、「リーリエ姉さん」って呼ぼう。そうしよう。


「その代わり、今度のおつまみは私の好きなものにして下さいね!」

「もちろんだよ!」


 私たちは、がっしり手を握り合った。





⭐︎⭐︎⭐︎






 約束の時間になり、馬車の前で公爵様を待つ。しばらくして、公爵様がやって来た。


「ジゼル。すまない、遅くなっ‥‥‥」


 そこで公爵様が言葉を止めた。


「いつもとは違うな」

「はい。リーリエに選んでもらったので」


 私が着ているのは、淡い色のワンピースだ。

 そして、いつも下ろしている髪は、編み込み&ポニーテールに結んでいる。全部リーリエがやってくれた。


 いつもだったら着ないような服と、しないような髪型。似合っているかどうか不安に思いながら、公爵様の前に進み出た。


 公爵様が目を泳がせる。そして。


「その‥‥‥。似合ってる、ぞ?」

「あ、ありがとうございます」


 慣れない会話に、二人で顔を赤くする。


 ほら、いつもはお酒とおつまみのことしか話してないから(そんなことはない)


 微妙な雰囲気に、私たちが二人でもじもじしていると、後ろからリーリエとレンドールのヒソヒソ声が聞こえてきた。


「二人とも、もどかしいね」

「そうですね。いい大人が情けない」

「大人には大人の事情があるんだよ、坊や」

「誰が坊やですか」


 こっちの二人は、いつも通りの会話だ。というか、私は本当に情けないと思う。

 気恥ずかしくて、公爵様の顔がまともに見れないのだから。


 いよいよ痺れを切らしたリーリエが私たちの背中を押して、馬車に押し込んだ。


「さあ、早く出かけちゃって下さい!」

「ちょ、リーリエ」


 まだ心の準備が、と手を伸ばすも、無慈悲にも馬車の扉が閉められる。


「遅くまで帰って来なくても、別に大丈夫ですから」

「なんなら、明日の朝まで帰って来なくて大丈夫ですよ!」


 二人は窓の外から手を振る。


「楽しんで来てくださいね!」


 こうして、私と公爵様のデート(?)が始まった。


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