第8話 ジゼルの提案
公爵邸に戻ってから、私は飲みたい気分になったので、おつまみとしてジャーマンポテトを作っていた。ジュワジュワとジャガイモを揚げる音がキッチンに響く。
「よし。できた」
揚げ終わったポテトをお皿に取り出す。出来たてほやほやのポテトのにおいが、辺りに充満する。
そっと周りを見渡すと、キッチンの中には誰もいない。
「ここで食べちゃおうかな」
自分の部屋に持って行って食べてもいいんだけど、キッチンから持って行くとなると、ちょっと遠いんだよね。その間にポテトが冷めちゃいそうだ。
うん、食べよう。
そう決めて、私はジャーマンポテトを口に放り込んだ。
「あちち」
まだちょっとだけ熱かったけれど、外はカリカリで、中はホクホクの食感がたまらない。そして、熱々のポテトと一緒に飲む、冷たいビールも最高だ。
「あ~、しあわせ」
仕事終わりの一杯が身にしみる。一人で浸りながら飲むのも、なかなか乙なものがある。
ポテトをつまみに飲んでいると、あっという間に一杯飲み終えてしまった。
もう少しだけ飲もうかどうしようか。私が迷っていると。
「ジゼル、何か作ってるのか?」
「あ」
公爵様がキッチンに顔を覗かせた。彼は、私の顔とビール瓶を見比べる。
「飲んでるのか?」
「あはは。ちょっと飲みたい気分になっちゃったんですよ。よかったら、公爵様も飲みますか?」
「‥‥‥じゃあ、一杯だけいいか?」
「もちろんです」
公爵様は少し葛藤する様子を見せた後、「一杯だけ」とビールを飲み始めた。ジャーマンポテトにも手をつける。
「ほくほくしていて、うまいな。にんにくが効いてるから、ビールとよく合う」
「はい。やっぱり、その味付けがビールに合うかなって」
「やっぱり、ビールに合う味付けを意識してるのか?」
「そうですね。味付けは濃いめにして‥‥‥」
一人で飲むのも乙だけど、やっぱり一緒に飲んでくれる相手がいると、こうして感想を言い合えるから楽しい。
「でも急に飲むなんて、どうしたんだ? やっぱり何か嫌なことでも言われたのか?」
「いいえ。何もないですよ」
ただ、ちょっと教会にいた時のことを思い出しただけだ。やっぱり、聖女が贅沢してると色んなところで吹聴されていたんだなって考えてちゃったりね。
でも、前ほどトラウマのような震える感覚はなくて、自分でびっくりするくらい気持ちは安定している。孤児院に行っても、教会のことはもうほとんど思い出さないし、あの時のことはもう過去に出来ているんだろうなと思う。
それも全部、公爵様が大司教に対して怒って制裁を下してくれたから。だから、今、私は平気なんだ。
「それよりも、ですよ。実は、いい案が思いついたんですよ」
私はずいっと身を乗り出す。
「いい案?」
「はい。明日、考えをまとめてから提案しようと思っていたんですけど‥‥‥」
「せっかくだし、今、言ってくれ」
公爵様が促してくれたので、遠慮無く私の考えを話し始めた。
「孤児院で、ポテチを売るのがいいんじゃないかと思ったんですよ」
「孤児院で? どういうことだ?」
男の子は、言っていた。「早く働きたい」「勉強する意味が分からない」と。
それなら、お金を稼ぐことができ、勉強の成果を実践できる催しを開催すればいいんじゃないかと考えた。
ポテチを作る時には計量が必要になるし、売る時にはお金の計算が必要になる。
宣伝のための看板やポスター作りも頼めば、文字の練習にもなる。
このようにお金を稼ぎながら、勉強の大切さを学べるはずだ。
幸い、ジャガイモはたくさん余ってる。子供たちがたくさん使うことができるだろう。
「なにより、子供にとってもいい経験になると思うんですよね」
「なるほどな。今なら、イアンにも相談できるしな」
「そうなんですよ!」
イアンは、商売のノウハウを知っている。彼が公爵家に滞在している今だからこそ、彼に教えを乞うことができるだろう。
「子どもが作るものだし、安い価格で販売するのか?」
「いえ、値段はあえて高くします」
材料費の問題もあるが、儲けは孤児院の運営費と子ども達のお小遣いにしたいと思う。
使い道が分かっていれば、寄付のような感覚で買ってくれる人もいるんじゃないかな。
「それなら、細かい価格設定はイアンに聞くとして‥‥‥」
こうして公爵様と作戦を練り、次のことが決まった。
・価格設定を高くして、儲けた分は孤児院の費用と子どものお小遣いにする。
・あくまで子ども達の参加は、希望制
・料理は危ないので、上級生のみ
「うん。これで大体いいだろう」
「そうですね。あとは、孤児院で許可をもらってから、イアン様に相談しましょう」
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