2章

第1話 ほくほくコロッケで、久しぶりの晩酌を



今回から本編です。よろしくお願い致します。

―――――――――――――――――――――




「公爵様、今日はコロッケ祭りですよ!」

「ころっけ‥‥‥って、どういうことだ?」


 私の言葉に、公爵様が首を傾げた。


 公爵様と新たな契約を結んで、一ヶ月ほどが経過した。現在の私は、領地で作物がよく育つように、各地を回って豊穣の祈りを捧げている。


 新たに与えられた仕事は概ね順調で、領地内の作物はすくすく育っている。

 収穫が早い土地からは、類を見ないほどの収穫量だと報告も上がっているくらいだ。


 私自身も、領地の人達と交流しながらの仕事は楽しくて、やりがいを感じている。


 それに、領地の人から収穫した作物のお裾分けをもらうこともあって‥‥‥


「実は、大量にジャガイモをもらったんです。早めに消費したいので、たくさん食べましょう」


 私はジャガイモが入っている袋を公爵様に見せる。袋の中にはジャガイモが、ざっと2〜30個は入ってる。


「多いな」

「ちなみに、あと3箱分あります」

「本当に多いな」


 前にジャガイモのお裾分けをもらった時にフライドポテトを作ったことがあるが、今回はその比じゃない。

 公爵家全員で食べないと、消費が追いつかないくらいの量だ。


「ということで、ジャガイモを使った“コロッケ”を大量生産しようと思います。晩酌はその後でも、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ」


 ということで、私はさっそくキッチンで準備に取り掛かった。

 ふかしたジャガイモに衣をつけて、油で揚げる。ジュワジュワと耳心地いい音がキッチンに響いた。



 今日は、久しぶりの晩酌の日である。


 教会との一件について、私はしばらく王宮からの取り調べを受けていた。仕事の合間に王宮に通う日々だったので、ここ一ヶ月は公爵様と飲む時間を持てなかった。


 ずっとお酒を飲めなかった分、今日は思いっきり晩酌をしたい。私は晩酌を思いっきり楽しむためにも、改めて気合を入れて調理に取り掛かった。



 コロッケの大量生産を終えた私は、使用人達にお裾分けをしてから、公爵様の待つ部屋へと向かった。


「お待たせしました〜」

「ああ、お疲れ様」


 部屋の中では、既に公爵様が晩酌の準備をして待っていてくれた。


 用意されたお酒とグラスを見て、どうしようもないくらい私の胸は高鳴った。


「公爵様、ワクワクしますね!」

「そうだな」

「晩酌するの、久しぶりですよね!」


 公爵様がクスクス笑っている。いけない。はしゃぎすぎたかな。


 それでも、お酒の魅力には抗えないのだ。私は嬉々として、ビールをグラスに注いだ。


「じゃあ、乾杯!」

「乾杯」


 グラスをぶつけて、ぐいっとお酒を飲み干す。キンキンに冷えたビールが喉を通り過ぎていった。


「はぁっ〜〜! うんまぁ」


 アルコールが駆け巡る感覚に、身体が熱くなるのを感じた。くぅ。今日も最高にビールがおいしい。


「よし。早くコロッケも食べましょう」

「そうだな」


 今日のおつまみであるコロッケに、さっそくパクついた。


 サクッ、ザクザクッと、軽快な音が響く。


「おいし〜」


 サクサクの衣に、ホクホクのじゃがいも。塩胡椒が効いていて、ビールとの食べ合わせが最高だ。


「熱々でうまいな」

「はい、出来たてですから」

「何かソースを付けても美味しそうだ」

「公爵様、お目が高いですね〜!」


 私が公爵様の前に、コロッケにかける用のソースを置いた。公爵様が「おぉ」と感嘆の声をあげる。


 香ばしいタレをかけて、再びコロッケを頬張った。


「おいしいですね」

「そうだな、美味しい。美味しすぎて、泣けてくる‥‥‥」

「公爵様、酔うの早くないですか?」


 酔うと泣くことに定評のある公爵様が、いよいよ意味の分からない理由で泣きそうになってる。美味しすぎて泣くなんて、相変わらず公爵様は面白い。


 それにしても、いつもの公爵様だったらもう少しは飲めるはずだ。


 久しぶりだから、酔いが早いのかな?


「大丈夫ですか? もうやめておきますか?」

「いや、大丈‥‥‥」

「本当ですか?」


 至近距離で顔を覗き込んで、彼の顔色を確認する。

 ちょっと顔が赤いが、まだ涙目にもなっていないし、目元もいつも通りだ。パッと見は、大丈夫そう。


 安心して公爵様から離れると、彼は気まずそうに目を逸らしていた。というか‥‥‥


「さっきより、顔が赤くなってますよ。やっぱり酔ってますか?」


 突然、公爵様の顔が真っ赤になってしまった。近づかなくても分かるほどで、耳まで真っ赤。


 彼は、顔を片手で隠しながら、首を横に振った。


「少し酔っただけだ。意識はハッキリしてるから大丈夫。というか、今、ハッキリした」

「そうなんですか?」

「ああ。ダメだったら、言うから」

「ほどほどにしておいて下さいね」


 公爵様の「酔ってない」は基本的に信用してないんだけど、会話は成り立っているし、とりあえず大丈夫なのだろう。


「それより、早く二つ目を食べるぞ」

「そうですね!」


 公爵様がさっそく二つ目のコロッケに手をつける。サクッと一口目を食べたところで、彼が目を見開いた。


「ん? 何か入ってるぞ」

「そうなんですよ」


 実は、今回のコロッケ。私は三種類用意をしていた。


 一種類目は、普通のコロッケ。

 二種類目は、チーズが入っているコロッケ。

 三種類目は‥‥‥


「これは、卵か?」

「そうです。ゆで卵を入れました」


 いくつかのコロッケの中に、半熟のゆで卵を入れていた。一口食べれば、とろっと黄身が溢れ出すはずだ。


 公爵様がもう一口食べてから、再び口を開いた。


「黄身とジャガイモが混ざり合って、濃厚な味わいになっているな。それに、食べ応えがある」

「美味しいですか?」

「ああ。美味しいよ」


 私も二つ目のコロッケを口にする。私が食べたコロッケには、チーズが入っていた。


「お、私の方はチーズでした。こっちも美味しいですよ」

「もしかして、食べてみるまで、中身が分からないのか?」

「はい」


 何が入っているかは、食べてみるまでのお楽しみだ。こっちの方が、食べている時にワクワクするからね。


「こういう食べ方は初めてだ。本当にワクワクするな」

「そうですよね」

「でも、三種類も作るのは大変じゃなかったか?」

「久しぶりの晩酌だったので、張り切っちゃいました。美味しくお酒を飲むために、手は抜きたくないですし」

「本当に酒が好きだな」

「はい!」


 公爵様は呆れて笑っているけれど、事実だから仕方ない。それに、公爵様との晩酌が何よりも楽しいから、どうしても張り切ってしまうのだ。

 そのことを伝えると、公爵様は「俺もだ」と言って、嬉しそうに笑っていた。


 その後も、二人でコロッケを食べ比べて、楽しく晩酌は終わった。







 晩酌のおかげでリフレッシュ出来たし、また仕事を頑張ろう。


 そう決意を新たにしたんだけど‥‥‥


 次の週、向かった領地で思わぬ言葉を投げかけられることになる。


「聖女さま。もう領地には来ないでくれないか」

「え?」

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