エピローグ その後の二人の晩酌




「ボ、ボーナスですか?」


 季節が徐々に移ろっていく中で、それは晩酌中に切り出された。


「ああ。君の浄化と調査のおかげで、瘴気をほとんど払うことが出来た。褒賞として、追加の給金を渡したい」

「う‥‥‥」

「嫌か?」


  私は首を横に振った。


「うれしいです!!」


 教会はもちろん、前世いた会社でもボーナスをもらったことがほとんどなかった。いつも毎月のお給料でやりくりしていたために、高いお酒を買えたこともない。

 でも、今回は臨時収入。いつもは手を出せない高いお酒を買おう。そうしよう。


 自分の働きが正当に評価されるって、こんなに嬉しいんだなあ。

 

「楽しみです、お酒」

「酒を買うことは決定事項なんだな」

「はい」


 私は上機嫌に、酒に口をつけた。


「公爵様は、いつもお金をどういったところに使っているのですか?」

「あまり金は使わない方だと思うが‥‥‥本はよく買うかな」

「じゃあ、趣味は読書?」

「ああ。休みが取れた日は本を読むことが多いかもしれない。後は、剣術の練習だな」

「おお~」


 私の場合、いつも休みの日は「寝るか・食うか・飲むか」の三択。お察しの通り、欲に忠実に過ごしているのだ。

 体を動かしたり、教養を深めるために休日を使っている人を見ると、自然と尊敬の念が湧いてくる。


 そんなことを考えながら、私はおつまみに手を伸ばした。


 ちなみに、今日のおつまみは天ぷらだ。


 こちらの世界では食べ物を揚げる風習がないので、いつも揚げ物を作るときは驚かれる。それは今回も例外ではなく、海老を揚げると言ったときは、公爵様が絶望的な顔を見せていた。


『魚介類を揚げるとは一体‥‥‥』

『騙されたと思って、食べてみて下さい』


 味が想像できないと顔をしかめていた公爵様だったが、一口食べたらすぐに夢中になっていた。おもしろい。


 私も海老の天ぷらに塩をつけて食べる。


 さくっさくっと、軽快な音が発せられる。


 新鮮な海老がぷりぷりしている。つけた塩が、上品に天ぷらの美味しさを引き立ててくれている。


「さすが公爵家。取り寄せた海老が新鮮で美味しい。天ぷらにせずに、生で食べてもよかったかも」

「生?!」

「はい。お刺身というものがありまして‥‥‥今度はそれにしましょうか」


 信じられないとでも言いたげな公爵様。次もきっといい反応をくれると思うと、楽しみである。


「でも、魚を取り寄せるのって意外とお金がかかりますよね」


 沿岸部から取り寄せる際には、ここの領地に持ってきてもらうまでの間、冷凍保存が必要だ。それがかなりお金を必要とするものだった。私のお給料の大部分が消し飛ぶくらい‥‥‥


「それなら、沿岸部に直接行かないか?」

「え?」

「これまでのお礼も兼ねた旅行。レンドールも連れて行って、夜はゆっくり美味しいお酒とおつまみを堪能したくないか?」

「したいっっっ」

「よし、決定だ」


 公爵様から外出の提案は二回目。けれど、今回は旅行である。旅先で珍しい物を食い倒れ。そして夜は思う存分晩酌を堪能する‥‥‥


 ああ、考えただけで涎が出そう。


「うわあ~、すごい楽しみです」

「そうだな。それまで仕事頑張ろうな」

「すごい現実に戻してくる」

「あはは」


 二人でくだらない話をして、笑い合う。その時間が楽しくて、愛おしい。



 願わくば、こんな日々がいつまでも続きますように。









――――――――――――


約一ヶ月間、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

皆様が読んでくださったこと、また、いただいたレビューや感想が執筆の励みになりました。この場をお借りして、お礼申し上げます。


この話は中編コンテスト用に書いたものですので、ここで完結になります。けれど、名残惜しい気持ちもあるので、またどこかで二人の晩酌を書けたらなと思っています。

その時はお付き合い頂けましたら嬉しいです。


それでは、またどこかでお会い出来たら嬉しいです。重ねてにはなりますが、本当にありがとうございました。

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