第9話 高カロリー高リターン(震え)
瘴気の原因が「新しくできた工場」という説が浮上し、改めて調べ上げてみた。
すると、ここ数年で完成した工場の設立時期と瘴気の発生時期は一致することが分かった。
なぜ工場が瘴気の原因となっているかについては、追加で調べていく必要があるのだが。
ここで、ひとつの問題にぶつかった。
「教会所有の工場?」
「そうだ。瘴気の発生時期と一致していた工場のほとんどは、教会所有のものだった」
公爵様から説明を受けた時、ドキリとした。
教会所有ということは、その工場で教会孤児達が働かされているという可能性が高いのだ。
「教会と貴族の権利は、まったく別のものになっている。いくら公爵家と言えども、無理に調査することは出来ない」
「なるほど‥‥‥」
教会にだって面子がある。
瘴気を浄化する側であるはずの教会に原因があったとしたら、領民からの非難は免れないだろう。「瘴気の原因が教会のせいかもしれないので、調べさせて下さい!」と言っても、簡単に応じてくれるとは思えない。
「とりあえず、これ以上瘴気を広めさせないために、工場の周りに結界を張っていきましょう」
結界の外に瘴気が漏れ出ることはない。それに、結界の中に溜まってしまった瘴気は定期的に浄化すれば大丈夫だ。
「しかし、それも教会は拒否するかもしれない」
「それなら領地すべての工場に結界を張っていきましょう。
領地内の工場に結界を張ることを伝えれば、教会だけに責任の追及をしているとは思わないはずです」
調査のことは、結界を張りながら探っていけばいい。
もしかしたら、結界を張っている最中に、そこで働いている人から話を聞けるかもしれないし。
「しかし、領地中すべての工場となると君の負担が大きくないか?」
「スケジュールを組んで調整を行っていれば、大丈夫です」
確かに、領地内にある数百の工場すべてに結界を張っていくのは骨が折れる作業だ。
しかし、元社畜のポテンシャルを侮るなかれ。この仕事を完遂してみせようではないか。
私はニッと笑って、ビールを飲む仕草をした。
「その代わり、仕事終わりにはとびきり美味しいお酒を飲みましょう」
私の言葉に、公爵様は小さく笑った。
「ああ。分かった」
⭐︎⭐︎⭐︎
ということで、日々結界を張る作業に勤しんでいる。
私は本日のノルマだった結界を張り終えて、公爵家に戻ってきた。そして、早速キッチンに向かった。
そこではコックさんが待っていてくれて、唐揚げの乗った皿を差し出してきた。
「ジゼル様。『からあげ』というものを作りました」
「わー、ありがとうございます」
「これで大丈夫ですか?」
「完璧です」
私はグッと親指を突き出した。ここ最近は忙しくて、おつまみを作ることが出来ていない。
なので、仲良くなったコックさんにレシピを渡して作ってもらうことをお願いすることが多くなった。
「こちらの我儘に付き合ってもらって、ありがとうございます」
「いえいえ。こちらもレシピをもらえて勉強になりますので」
私は唐揚げを持って、晩酌をする部屋に向かった。
「おつまみ持って来ました」
「ありがとう。今日のつまみは‥‥?」
「鶏肉に衣をつけて揚げた、唐揚げですね」
「からあげ‥‥‥」
公爵様は、ごくりと喉を鳴らした。
部屋の中には、すでに唐揚げの香ばしい匂いが充満し始めている。
私はビールを少しだけ飲んで、さっそく唐揚げにパクついた。
サクッ
その瞬間、ジュワッと肉汁が溢れてくる。
「ん〜っ」
衣はサクサクで、鶏肉はぷりっとしている。肉汁がジューシーで、冷えたビールとよく合う。
人が作ってくれる料理って、なんでこんなに美味しいんだろう‥‥‥
目の前を見ると、公爵様もあまりの美味しさに悶絶していた。
私は、そんな彼の目の前にそっと「とある調味料」の入っているお皿を置いた。
「これは?」
「マヨネーズというものです」
唐揚げにマヨネーズなんて太りそうだけど。美味しい物を美味しく頂きたいなら、カロリーなんて気にしないのが大事。
高カロリー高リターン(美味しさと体重)なのだ。
‥‥‥‥‥‥‥‥うん。明日は運動しよう。
さっそく唐揚げにマヨネーズをつけた。まろやかな口当たりに、口の中が幸福感に包まれる。
「おいし〜しあわせ〜〜!」
「そうだな。これはレンドールが好きそうな味だ」
「そうなんですか? じゃあ、少しだけ取っておいて、明日あげましょうか」
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