「あは、あはははは! あはははははははははははははっ!」

 工事を進めていた職人たちも、周りにいる生徒会のメンバーですら眉をひそめる程、僕は大声を上げて笑った。笑い続けた。喉が裂けるかと思うぐらい笑っているのに、壊れた蛇口から溢れる水みたいに、笑い声が止まらない。

「ひっ、はははっ、ひっ、い、いいだろう。あはは、ぐ、グラウンドの、ふひっ、中には、入れて、やるよ。うふふ、あははははっ!」

 僕は帝一を嘲りながら、全力で更に笑った。

 それなのに――

 

「二流上等、一流重畳」

 

 そう言って帝一は立ち上がると、まるで自分の膝に蟻が乗っていた事に今気づいた様に膝の砂を払い、平然とした顔で旧校舎のグラウンドの中へ進んでいく。その後ろを、古戦さんは皇帝に家臣が当たり前にかしずくような仕草で、帝一の背中を追った。

 ……何だ? 一体、何が起きているっていうんだ?

 混乱しているのは、僕だけではなかったらしい。大藤さんも戸惑っている様子だったが、やがて意を決したように、帝一の向かう方向へ走り出した。僕も焦りとともに、彼女の背中に続く。

 ……わからないけど、何か僕にとって良くないことが起こっているに違いない!

 いくら実家を勘当されているとは言え、分家の僕に土下座をしたにもかかわらず、帝一は全くこたえている様子がない。

 それどころか、グラウンドに入る許可さえもらえるのであれば、後は瑣末事だとでも言わんばかりの振る舞いだ。

 ……まさか、グラウンドから地下教室に入れる入り口でもあるのか? でも、そんなもの旧校舎の設計図にも乗ってなかった。地下教室に行く道なんて、存在しない!

 やがて帝一は、グラウンドの旧校舎近くで、その歩みを止める。そして、後ろを振り返ることもせず、淡々と口を開いた。

「桜。旧校舎のグラウンドに朝礼台を置くとしたら、大体の位置はどこになる?」

「そうですねぇ」

 むむむむむっ、と桜は腕を組み、首をひねった。

「朝礼台の大きさは――」

「結論は?」

「あそこの辺りですっ!」

 ビシっ! と古戦さんは、グラウンドの一角を指差した。それを確認すると、帝一は、ふむ、と小さく頷く。

「あそこだ、大藤」

「え?」

 

「あそこに、手帳が埋まっている」

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