第10話 神がおわすところ

 ラズ達は宿屋から窓の外を見つめていた。そこには暗闇の夜の空間が広がっていたが、異質な事があった。天から赤い雨が降ってきているのだ。

「ラズ君が言う様に本当に赤い雨が降ってきたね」

 ベッドに座っている田中が言う。

 田中はラズ達よりも先に宿に帰ってきていた。彼が事情を話すと、田中は素直に宿に籠ってくれた。

「まるで赤い結晶の様な色だな」

 グレンの言葉に田中が立ち上がる。

「赤い結晶だと? この星にもあるのか。あんなクソッタレなものが」

「赤い結晶を知っているのか?」

 田中の言葉にグレンが驚いた表情をする。

「ああ。あれを使うと、とんでもない代償を払う事になる」

 その時。扉をノックする音が聞こえてくる。

「入りますよ。宜しいですか?」

 外から宿屋の男の声が聞こえてくる。グレンが急いで、ラズの鞄の中に隠れる。

「どうぞ」

 田中が許可すると宿屋の男が部屋に入ってくる。手には皿の様なものがあり、その上には何個かのパンが載っていた。美味しそうな匂いがしたが、ソマリナにある様な菓子パンとは違い、味気ない色合いをしていた。

「小腹が空いたでしょう」

 宿屋の男は机まで移動すると、その上に皿を置く。

「何か言いたくて、入って来たんじゃないかい?」

「何か赤い雨のことを話していらした様で」

「この雨は何なんだい?」

 田中の言葉に宿屋の男が真剣な眼差しを向ける。

「そう、この雨は神の呪いなのです。争いをしようとする様な者がいると、この雨が降ると言われています。魔物達がいるので、永遠に定期的に降るのでしょうね」

「はっ。中世の人間が言う様な発言だね。科学的な理由があるに決まっているだろ?」

 田中が馬鹿にした口調で言うと、宿屋の男が曲がった笑みを浮かべる。この男のこの笑みは、ラズは好きではなかった。

「聞かれたから答えたまでですよ。それよりも、雨が止んだら、宿を出て行って頂けませんか? 金塊との差額はギロでお返ししますので」

 クレアも含めて、ここの村人達はラズ達を追い出したい様だ。

「何か、今日、ハッピーなイベントがあるとか言ってなかった?」

「私も軽率でした。皆に怒られてしまいました。やはり、和解の儀式の際に貴方達が居るのは良く無いかと」

「和解の儀式?」

 宿屋の男が頭を掻く。

「また、口が滑りましたね。忘れてください。とりあえず、雨が止んだら、出て行ってくださいね」

 宿屋の男が言うが、ラズはその儀式の内容が気になっていた。クレアと関係があって思えてならなかったからだ。

「儀式の内容を教えてください!」

 ラズが言うと、宿屋の男が困った表情をする。

「この星には神が住んでいるのですよ。地球から来て頂いたね。その方に、我々と魔物が和解した姿をお見せしないとならないのです」

「ふーん、あの星に、そんな高尚な知的生命体がいたかな?」

「まあ、忘れてください。後、貴方達は何も知らない様だから、忠告して差し上げますよ。この村の近くにある、森の中にある一軒家には近づかない方がいい」

 宿屋の男は急ぐように部屋を出て行ってしまう。

「勝手なお方だね。まあ、出て行く気はないがね。ここは、良い拠点だからね。ギロなんかもらってもしゃあないし」

 田中はベッドに寝転ぶ。

「儀式って何なんだろう」

「さあね。どうせ、くだらない儀式だろうさ。神様ー。どうかご慈悲をー。みたいなね」

 田中はふざけた口調で答えるが、ラズにとっては深刻だった。先程のクレアに関係がある様に思えて仕方なかったからだ。彼女に災難が襲いかかるなんて、想像するだけで背筋が凍る。

「ふむ。まあ、神が何なのか分からんが、宿屋の男が言う様に地球が関わっている可能性が高いな。魔物、人に似た知的生命体。これだけの共通点があるのだ」

 鞄から出てきながら、グレンが言う。確かに、彼の言う人間に近い存在がいる、魔法が存在する、魔物が存在する、共通するものが多すぎる気がした。

「君の言う地球ではね。地球にはそんなものはいない。ましてや天国なんかでは無いさ」

 田中はいつものからかうような口調ではなく、真面目な口調で言う。

「だが、お前も赤い結晶を知っていたではないか。他の星にもあるのかもしれんが・・・」

「赤い結晶? そんなこと言ったかな? まあいいさ。明日も宇宙船のことで色々と行動しないとならない。そろそろ休もう」

 田中はそう言うと、それ以上口を開くのを止めてしまう。

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