第6話 魔物出現!

 歩けど、歩けど周りは木々だらけであった。そんな中を二人は、田中の用意した帽子をかぶり、歩を進めていた。

 森の中とはいえ、水を飲む頻度は上がり、鞄の中身も大分無くなってきてしまっていた。そんな中を目の前にいる田中はペースを落とさずに進んでいく。しかも、彼は全く水を飲んでいなかった。何度か、ラズは水を飲む事を勧めたのだが、田中が水を口にする事はなかった。地球の人間は水を必要としていないのだろうか

 ラズも体力に自信がある方ではあったが、田中の体力は異常であった。彼に追いつくのに必死なラズに対し、田中は全く余裕の表情をしていた。

「参っちゃうね。中々、森を抜けないな」

「はあはあ」

「ははっ、最初の頃とは違い余裕が無くなってきたな。さっきまでは、地球の質問コーナーが繰り広げられていたのにね」

「ふん。お前の地球は間違っておる。何処の星と勘違いしておるのだ」

 ラズの肩に乗っているグレンが不機嫌な表情で言う。

 確かに田中の言う地球はグレンが話していたものとは全く違うものであった。彼が言うには地球には魔法や魔物は存在しない。科学が制する世界であり、ソマリナの世界観に近かった。違うのは、多くの人間がおり、動物が言葉を話すような事は無いらしい。

 グレンが言う地球は人間と魔物が争っている世界らしい。魔法を使える魔物の力は強力で、人間は味方する魔物と共闘してようやく対抗できているらしい。

 二人が話す地球の認識の違いは何なのだろうか。地球が二つあるのか。または、どちらかが間違えた認識をしているのだろうか。

 ただ、ラズは田中の見せてくれた数枚の写真に興味を持っていた。その街の写真は、ソマリナよりも高い文明を持っていたように思えた。

 しかし、最早、そんな事を聞いている余裕はラズには無くなっていた。この森を抜けたいという気持ちが先行していた。

「んっ? あれは何だ?」

 田中が遠くを指差す。確かに、人影の様なものが見える。

「人だとしたら、ありがたいな。向かおう」

 田中の提案にラズも同意し、三人は彼が指差した方に向かう。

 ラズは近付くごとに、そこに異形の者が存在している事に気付く。田中もそれに気付いたようで、足が止まっていた。

 そこには数人の生物が存在していた。全身が緑色で、耳は尖っており、半開きの口には鋭い牙を持っていた。そう、よく漫画などに出てくるゴブリンそのものである。

 ゴブリン達はこっちに気付いていないようで、三人は息を潜めて、その一行の様子を見る。

「おいおい、魔物人形くんのファンタジー地球に出てきそうな生き物がいるよ」

 田中が小さな声でグレンに話しかける。

「うむ。確かに低俗な魔物がいるな。魔力が小さすぎて充満している魔力に紛れて検知できなかった」

 グレンは魔力を検知できる事から、魔物も同様に感じる事が出来るのかもしれない。

 ゴブリン一行は木の枝を集めて、何かをしようとしていた。そして、その近くには猪人の様な生物が倒れているのが目に入った。それは全く動かずに命を失っている様に思えた。

「魔法を使われると厄介だな」

 グレンが小声で言う。

「とりあえず、奴らには見つかりたくないね。別方向に進もう」

 三人はゴブリンたちとは別方向に歩を進めようとした。しかし、その時だ。一人のゴブリンが手をかざしたかと思うと、彼らが集めた木の枝に火が灯り始める。

「何したんだ?」

「炎の魔法だろうな。やはりな。こいつらがこう言う魔法を使うから、星が魔力に溢れておるのか」

 田中の小さな声にグレンも小声で答える。魔法を使うと魔力が溢れると言う事だろうか。

 ゴブリン達は先ほどの猪人の様な生物その炎の近くに置く。

「お食事タイムってか。俺らもランチのメニューに加えられちまいそうだ。早い所ずらかろう」

 田中の言葉に従い、三人はゴブリン達を背にする。

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