7 校外実習(二) ③
シーナは窓の外を確認したが、カクリスの四人組は見る見るうちにコート・ヴィラージュへと近付いている。あと五分も歩けば、村に到着するだろう。そうすれば、彼らの目的が果たされてしまう。
再びシーナはジェイクの目を見つめた。
「相手は四人。私たちも四人。なら、ここで応戦することもできるはず」
「無茶だよ。カクリスの連中は知らないが、僕たちは実戦演習をほとんど受けていない。負けることを予定して戦いに挑むなんてことはできない」
「でも、何とかして彼らを止めないと、村まですぐに到着してしまうわ。私たちがここで分裂しているわけにはいかない」
「シーナの言うことはわかる。でも、私たちに何の縁もない村でしょ? だから、私たちが無茶する必要もないよ」
「そうだ、落ち着け」
ルアとグレアが連続してシーナに告げた。シーナは三人からの視線を
「わかった、……わかったわ」
「大丈夫、まずは僕たち自身の身の安全を確保することが大事だから」
ジェイクはシーナの肩に手を添えて、続けようとした。
「村に迅速に戻る方法だけど……」
「私一人でやるから、みんなはダランに連絡しておいて」
シーナはジェイクの話を遮ってそう述べた。続けて、彼女は小屋の出入り口に向かった。
「四人もいるんだから、分担作業だってできる。三人はダランに連絡しておいて。私は彼らを止めに行くから」
それだけ言葉を残して、シーナは小屋の扉を開いた。
「待つんだ、シーナ。無謀なことはわかっているだろう? それに、ナイフのような武器も何も持っていない」
「私が失敗したら、先生たちには、あいつが馬鹿だったって言ってくれていいから。あと、武器は、滞在している家にはいろいろとあったはずだから、そこから調達するわ」
シーナは小屋を駆け出した。ルアも何か言っていたが、シーナはそれを聞くために立ち止まることはせず、前を歩く四人から離れた場所に迂回しながら村に戻った。
◇◆◇
無事にカクリスの四人組より先に村に到着したシーナは、真っ先に滞在先の家に駆け込んだ。そして、キッチンに置かれていた牛刀を手に取り、再び家の外へとやってきた。
何も知らない村人たちは、あちこちで
すぐに四人組の姿が見えた。いくらかの木々が村を囲っているため、村の方向からは彼らの姿が見えにくかったが、その木の壁を通れば彼らがすぐそこまで来ていることは理解できた。彼らが村に到着する前にギリギリ間に合ったということだった。
カクリスの四人組は、突然シーナが目の前に現れたことに驚いたようだった。それは、彼女がダランのローブを羽織っていたからに他ならない。
「ど、どうしてダランの生徒がこんなところに?」
「それはこっちのセリフよ。どうしてカクリスの生徒たちが、観光地でもない場所にいるの」
「人間が歩き回ることに対しては何も問題はないだろう」
「いいえ、問題しかないわ。あなたたちが、これからこの村を襲おうとしていることはもう知っている」
リーダーのカイは驚いたようだった。先ほどの話を聞かれていたなどとは全く想像もしていなかっただろう。
「私たちは、すでにダランの教員たちとも連携している。教員たちがここに来るのも時間の問題。潔く投降して」
「なるほどな。どこかで話を盗み聞きされて、先回りされていたということか」
カイは顎を撫でた。至って冷静な表情だった。
「まあ、どうだっていい。こちらとしては、邪魔する人間は消して構わないという命令だからな」
「学校からの命令?」
「そういうことだな。というわけで、残念だが、邪魔するなら命をいただくこととなる」
シーナは身構えた。あと数分ほどすればきっと教員たちが来るだろう。その間を何とか持ち堪えることができれば、それだけでよい。
「そもそも、ここに来て何がしたかったわけ? あなたたちの望みは何?」
「リラをより強くすることだな。リラ地方自体はそこそこ広いが、農業に適した場所、漁業ができる場所は限られてる」
「産業の発展のためにアールベスト地方の一部を
「そういうことだな」
「ということは、他にも同様のことが行われている……?」
「察しがいいな」
シーナはルアたちに伝える必要があると感じたが、
仕方がないが、きっと他の場所でも、ダランの生徒たちがうまくやっているだろうと見越して、彼女はこの場に対処することとした。
「さて。俺たちにも時間がない。そこを
「……あいにく、どちらも選択する気はないわ」
シーナは滞在先から持ってきた牛刀を構えてみせた。
「物騒なものを持っているな。ユウキ、手加減する必要はない。やってしまえ」
最初にコート・ヴィラージュの村長の家にフィーレの炎を放てと言われていたユウキがニヤリとした。
直後、フィーレの炎がシーナの足元から立ち昇ってきた。咄嗟に
走って逃げているところに、マスクがナイフを握ってやってきた。ナイフにフィーレの炎を被せている。敵にナイフを刺すと同時に、傷口を
「今投降しておけば、命は保障してやるよ! 命はな!」
気味悪く叫びながらナイフを振り回すマスクの攻撃を
「そんな程度じゃ、俺たちの勝ちだな! かわいい顔だが、残念だったな!」
マスクのナイフがシーナの首筋を掠めた。わずかな血が宙を舞った。あと少しでも距離が近ければ、首を掻き切られて命を落としていた。
「先生たち、早く来て——」
しばらく精一杯攻撃を
対して、カクリスの四人組は動きを鈍らせない。普段から実戦演習を重ねていたのだろう。シーナは限界を感じ始めていた。
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