7 校外実習(二) ②

 四人は、村長の家にある昨日の客間に通された。そして、やはり昨日と同じお茶を用意される。


「昨夜はよく眠れたかな? 知っていると思うが、今日は実習ということで、少しだけ作業をしてもらうんだ」


 村長は作業の説明を続けた。曰く、村のはずれに雨水の貯まっている湖があるらしく、そこから水を汲んで畑に運んでほしいというものだ。


 民家には、近くを流れる川から浄水施設を通して水が供給されるが、民家の集まっている場所から少しだけ離れた場所にある畑には水を供給するようになっていないらしい。そこで、平時は畑の管理人が水を汲んでくるとのことだが、その作業を魔法を使ってやれということだ。


 至って単純で、コントロール系魔術の彼女らにとって容易たやすい作業だった。


「わかりました、村長さん。任せてください」


 ジェイクは笑顔を見せた。


 その後、村長は四人を例の湖に案内した。そして、そばに建っている小屋を指差して説明を続けた。


「この中に、バケツがたくさん入っているから、それを使ってくれ。さっき通ってきた畑の場所は覚えているよな?」


 四人はコントロール系魔術を使って、バケツに水を汲み畑に運ぶという作業を開始した。無論、この程度の作業には何も苦労することなく、難なく四人は作業を進めていたが、ジェイクの言葉によって平穏な空気は突如消え去った。


「あれ、カクリスの生徒?」


 彼が指差した先を見ると、遠くて具体的なことはわからないが、確かにダランのものではないローブを羽織った人影が四人いる。一体何をしているのか、そもそも誰なのかなど、わからないことだらけだった。


「カクリスの生徒だとして、どうしてここに?」


 ルアは不審そうな顔をした。自然なことだ。


「わからない……。が、あのローブ、見えにくいけどカクリスのものに似ている気がする、たぶん」


 ジェイクの記憶はきっと正しいのだろうが、であれば、どうしてここにいるのか。全くもって観光地ではない。


 私服でもないということから察するに、カクリスの生徒としてやって来ているのだろうが、やはり疑問が湧くばかりだ。


「こっちに向かってきているね」


 ルアの言うとおりだ。彼女はやはり不審そうな顔をしている。きっとシーナ自身もそうなのだろう。


 彼らは、放っておくと彼女たちの元までやってくるだろう。真っ直ぐこちらに歩いてきている。


「ちょっと小屋の中に隠れておこう?」


 シーナは他の三人にそう告げながら、小屋の中へと入っていった。他の三人も急いでバケツ類を端に寄せると、小屋へと身を寄せた。


 それからしばらく時間が経ってからだった。カクリスの生徒たちが順調にここまで歩いてきたようだ。


「……この辺りだったよな?」

「もう少し先だった気がする」

「確か、オームしかいない小さな村だろ? 簡単だろ」

「だな。さっさとやってしまって、戻ろうぜ」

「何が起こるかわからない。油断はするなよ」


 四人組の男子生徒であることを確認した。そして、聞くところによると、四人組はコート・ヴィラージュに向かっているのだろう。そして、そこに着いた後は、何らかを行うようだ。単なる観光ではないようだ。


「もう一度攻撃の順番を復習しておく。お前は真っ先に村長の家を探して、フィーレで一気に焼き尽くせ。そして、すぐに住民たちがパニックになって家から飛び出したり叫んだりするだろうから、そしたらマスク、お前が一人ずつ捕らえていくんだ。基本的に殺すことはするなよ、だが、もし危険があればフィーレで殺すことも認める。レイ、お前はマスクの援護だ。無抵抗だが負傷した住民がいたら手当てしてやってくれ。俺は学校と適宜連絡をとりつつ、ダランの教員らが来ないか確認しておく」


 リーダー的な男は一通り説明して、他のメンバーたちと顔を見合わせた。


「わかったな? きっとコート・ヴィラージュはすぐそこだ。くれぐれも油断はするな」

「わかってるよ、カイ。完璧にやってやるよ」


 マスクと呼ばれた男が答えた。話の流れから察するに、彼は火炎魔法専攻生なのだろう。そして、レイは医療魔法だろうか。


 四人は小屋の方を少しだけ見遣ったが、誰もいないと思ったのか、足を止めることもなくそのまま通り過ぎていった。シーナたち四人は互いの顔を見合わせていた。


「今の……」とグレアが声を出したところ、ジェイクが頷いた。

「カクリスの連中が、どういった理由かは知らないが、アールベストの一部に攻撃しようということだろう」

「止めないと」


 四人のうち、一番窓に近い場所に座っていたシーナは立ち上がった。


「いや、シーナ、待って。まずは先生たちに報告しよう。彼らより先に村長の家に到着して、ダランに連絡を取るんだ」

「ダランに連絡したところで、先生たちがここに来るのは遅くなってしまう」


 シーナはすかさずジェイクに言い返した。だが、彼は首を横に振るばかりだった。


「仕方がないよ。先生たちに適切に対処してもらうんだ。僕たちがするには荷が重すぎる」

「じゃあ、彼らがコート・ヴィラージュを破壊するところを黙って眺めておけって言うの? 先生たちだって、私たちからの連絡を受けて数秒後に来ることなんてできないはず。早くても人員の配置などで五分はかかると思う」

「……僕たちができることは、他にない」

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