7 校外実習(二) ①
ルアに連れられて二階の寝室に戻ったシーナだったが、やはり気分が落ち着くことはなかった。願わくば、単なる夢であってほしかった。
シーナはベッドに横になった。すぐにルアもその隣に寝転がった。
「…………」
両者の間に沈黙が生まれた。シーナはこの状況が全く理解できないでいるし、ルアにとっては、シーナは何か奇妙なことを言っている人になっている。
「そういえばさ……」
ルアが口を開いた。シーナは体勢を変えることなく「うん」とだけ答えて続きを促した。
「あの二人、シーナのこと好きかもよ」
「そうなんだ」
シーナが素っ気ない返事をしたからか、ルアは一瞬言葉に詰まった。
「……シーナはさ、どっちがいいとかある?」
「ない」
無論、シーナにはフローラという相手がいる。ルアはその事実に知らないようだが、それをここで
「そ、そっか……」
自分は、他の三人が勝手に家を出ていったから探しにいっただけ、とシーナは理解している。一方で、ルアたちは同じ認識ではなく、むしろ勝手に出ていったのはシーナで、ルアたちが不必要な心配をしていたのだと言わんばかりの状況に納得できずにいた。それゆえ、何があったのか、どうしてそうなったのか、などといったことを考えるために、ルアの取るに足りない話に付き合う余裕などなかった。
「もし、二人のうちどっちか、いや、どっちもが、もし、もしだけど、万が一私のことを好きだったら、どっちがいいと思う?」
「ルアが気になる方でいいんじゃない? それに、選択肢を二択にする必要もないと思うけど」
シーナの声は依然低いままだった。ルアは気分を変えるためにこんな話を持ち出しているのだろうが、シーナはそれに乗っかることができるほど気分を取り戻していない。
それに、すでに深夜も半分が経過している。少しだけでも寝なければ、明日やっていけない。つまり、彼女の話に付き合う時間など、すでにないのだった。
「もう寝よう? 私の気分を取り戻そうとしてくれているのはわかる。けど、もう大丈夫だよ。……ルアがしたいなら、その話は明日しようよ。眠たいから」
「……そうだね、ごめんね。明日、がんばろうね。……おやすみ、シーナ」
ルアはそう言うと黙った。シーナも「おやすみ、ルア」と答えると、黙って目を
翌朝、目を覚まし部屋の内部を見回すと、暖かい陽の光が部屋の内部に優しく差し込んでいた。前夜には何もなかったかのように、気持ちよさそうにルアは寝ている。陽の光に誘われるようにシーナはベッドから立ち上がり、窓に向かって歩いた。
風は吹いていないようだ。木々は静かに立ち並んでいる。漁業用の網を
彼女はルアがまだ寝ていることを確認すると、そっと下階へ向かった。ジェイクとグレアの声が聞こえないことを考えると、彼らもまだ寝ているのだろう。彼女は昨晩のことをもやもやと考えながら玄関を出た。
朝の風が心地よい。村の色彩が豊かに、輪郭もはっきりと見て取れる。この村の空気感は好きだ、シーナは直感でそう感じた。
畑に向かって歩く男たちがシーナに「おはよう」と声をかけたが、シーナは頭を軽く下げるのみで、真っ直ぐ海に向かった。
複数の漁師たちが遠くの浜辺で網を広げせっせと作業をしているのを横目に、シーナは昨夜の例の場所に向かった。朝の海はそれほど青くはない。思えば、朝は白みがかったように見えるし、夜は黒っぽく見える海を、簡単に青色だと想起してしまうのはなぜだろう、などと考えていた。
昨夜の場所に到着したが、やはりどこにも異変は感じられない。一体、ここで繰り広げられたことはなんだったのか、単なる
シーナは崖の下を覗き込んだ。ちょうどその真下に、例の狭い洞窟があるはずだ。無論、シーナのいる場所からは見えるはずもないが、彼女はそっと覗き込むに努めた。
何も異変がなく、シーナは成果を得られないままに家に戻ると、すでに三人は起きてリビングでシーナを待っていた。昨日と同じ光景だった。
「シーナ、今日もまた、どこ行ってたの?」とルア。
「いや、また海の方に……」
「もうすぐ出るよ」
そうだった、今日は実習日だ。昨日は到着日だったため何もしていないが、今日は作業をする。まずは指定の時刻に村長の家に行くことになっている。
「すぐ準備するから、待ってて」
シーナは駆け足で階段を上っていった。
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