4 教師たちの会話 ②
翌日、朝日が部屋に差し込むと同時に目が覚めたシーナは、ゆっくりとベッドから起き上がった。洗面台で顔を洗いローブを羽織ると、シーナはいつもと同じように階段をゆっくりと下っていった。
途中、後ろから彼女を呼ぶ声が聞こえた。
「シーナ、シーナ。僕だよ」
「元気? 最近は、あまり嫌がらせとかない?」
踏み込んだ質問だったが、実はというと、シーナはとフローラは恋仲になっていた。というのも、シーナの可愛さに惚れたフローラの押しに負けてしまったというものだった。
この頃、すでにシーナは彼を信用しており、逆もまた
「前みたいなことはないよ。二年の差が嫌がらせを受けることに繋がるなんて、全く考えてもいなかった」
「そうだよね。とにかく良かったよ。ここ最近あまり会えなかったし、ちょっと心配してたんだ」
シーナとフローラの仲は、言ってしまえば、誰にも悟られたくない仲だった。フローラはシーナより二年歳上のため、年下と恋仲であるなどと思われたくないと思っていた。一方のシーナは、以前より状況が改善したとは言っても、やはり周囲の目が怖かったのである。したがって、二人は頻繁に会うことはなかったし、むしろ、会わないことが日常だった。
それでも、なかなか会わないことが、会ったときの感動を最大限に高め、彼女らの関係性を築いていたとも言えただろう。
フローラは、言うまでもなく、シーナの初恋の相手だった。彼に会うたび、ときめきが彼女の頭を埋め尽くしていて、冷静になどなれなかった。
「明日、エマーソンに行ってみない? 今の時期、花畑がきれいなんだって聞いたから、見に行こうよ。待ち合わせは……校門前だね」
「絶対行く。ありがとう」
シーナは頬を赤くしながら笑顔を返した。その顔を見て、フローラも頬を赤らめながら微笑む。
エマーソンというのは、ダラン総合魔法学校から出て真っ直ぐ北側に向かい、馬車でおよそ一時間の場所にある地域の名前だ。アールベスト地方の中では、ほとんど名も挙げられることがないほどに小さな田舎町だが、花の観光名所として一部のファンに知られている。
翌日は休日だった。休日であっても、ダランの近くから馬車などに乗ってどこかに出掛ける生徒は少なかった。基本的には、歩ける範囲に遊びに行って、夕方に帰るのが普通だった。しかし、フローラは馬車で行くべき距離の提案をしてきた。つまり、普通の気持ちではないということだった。
その夜、シーナは自室のベッドに横になると、満面の笑みで枕を抱き締めながら足をばたつかせていた。心臓が激しく高鳴っていたために、なかなか眠ることができなかった。
◇◆◇
翌朝、シーナは時計のアラーム音が鳴った瞬間に飛び起き、早速寮を出る準備をした。
遊びに行くときでもローブを着ることが多いが、この日は特別な日だった。いつもと同じようにローブではなく、数週間前にアールベストの中心市街地にリリアと出掛けたときに購入した、白地に花柄のワンピースを着ることにした。足元には、ガーゼできれいに汚れを落としたいつものショートブーツを履くことにした。
ダラン総合魔法学校の校門に駆けてきたシーナは、まだフローラがいないことを確認すると、すぐ前にある噴水に腰をかけた。
寮は学校の敷地内、壁の内側にあるので、学校を出るときの待ち合わせといえば校門がほとんどだ。休日ということもあり、待ち合わせをしているのであろう退屈そうな人が数名見られた。
「シーナ、ごめん、待たせちゃって」
フローラが駆けてきたので、彼女は飛び跳ねるように立ち上がった。そして、人目も気にせず彼に飛びつくと、早速並んで学校を出て行った。
「フローラ、馬車はどこから乗るの?」
「あっちに広場があるでしょ? その脇に
「いいね、いいね」
シーナはこの上なく上機嫌だった。
二歳でダランに入学した頃、彼女はこのような感情溢れる子どもではなく、むしろ鉄の
シーナの顔色は、初等部にいたときとは大きく異なり、とても明るくなっていた。入学した直後は感情のない真っ黒な影を帯びていたが、今はそのような影はどこにもなく、陽に照らされたような眩しい笑顔を輝かせていた。それに伴い、それまで他の生徒から敬遠されがちだったシーナだったが、いつの間にか多くの生徒に囲まれるようになった。残りの一部が、いまだに彼女に嫌がらせをしようとする
シーナは、最初のころは顔色が悪くあまり気付かれなかったが、実際のところ、誰もが認めるほどの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます