9.私のテキトーな創作論④~物語の喜怒哀楽を思い出せ~


 物語の喜怒哀楽って、なんでしょ?



 起承転結が物語にはお大事なのよと昔の人は言うけれど、毎日が忙しくてカルシウム不足ならぬ慢性的時間不足の現代人は、結だけをさっさと知りたいのです。


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 こんなふうに、コンテンツの消費が著しいこの世界の濁流に飲み込まれて、私たちはどこで一息をつくのでしょう?


 大きく息を吸って椅子にもたれ掛かっているうちに、酸素はあぶくとなって、遥か空の上。

 疲れたなと座り込んで足元見れば、靴紐ほどけて靴下の裏には大きな穴が開いています。



 はぁ~。

 もっとゆっくり生きたいなぁ。



 でも、ゆっくり生きるってなんだろうと思い出したとき、いつの間にか、人生の中にあったはずの、喜怒哀楽の感情ですら忘れているような気がしてなりません。


 私は、何に怒ってるの?

 私は、何で哀しいの?

 何をやっても楽しくない。

 久しく心の底から笑っていないような気がする。




 だからこそ。

 こんな世の中だからこそ。


 物語の主人公がどんな境遇にたたされて、どんな過去があって、どんな仲間に出会って、どんな敵にどんな手段で立ち向かっていくか。


 その「どんな」の中身に対して、はらはらドキドキ刺激的な興奮の味を料理して、たまにはクスッとした笑いのスパイスをひとふり添えて、すべてを一気に飲み干すような甘い涙のジュースを傍らに置くのが、私たちエンターテイナーの役割なのです。



 そのために、私たちは小説を書いているのですよ。



 結だけを知りたいだなんて、そんなことは言いなさんな。最初から最後までじっくりと読んでくださいよ、是非とも。



 ランチの時間に近くのコンビニへ行って、自分の席で独りぼっち、ただただお腹を満たすために、たまごサンドを咀嚼して飲み込むだけの毎日なんて、想像するだけでも悲しいと思いませんか。



 それって、栄養になるんすか?

 仕事をするためにご飯、食べてるんすか?



 フレッシュな新入社員の後輩が尋ねてきます。



 いいえ。違うでしょう!

 生きるためにご飯を食べてるんです。

 笑って怒って悲しんで、毎日を楽しむために生きているんです!



 思い出せ。あなたの感情を。生きている理由あかしを。




 思い出した?





 では、次回から物語の構成について語っていきたいと思います。



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