3.私の頭の中には、小人が住んでいる②


「やなやつ、やなやつ、やなやつ!」

 映画『耳をすませば』より引用。



 皆さんご存じ、アニメ映画『耳をすませば』の主人公・月島つきしましずくの名言(?)でございます。

 私、このシーン大好きです。



 ドラマでもよくありますよね。

 2人の出会いは下げに下げて落とす、みたいな。


 だからこそ、その後の二人の展開が映えるのです。



 この映画を初めて見たのは、まだ中学生くらいだったかなぁ。金曜ロードショーで放送されていたものを、「なにこれ、めっちゃおもしろい!」と食い入るように見たのを覚えています。


 このときはまだ、小説という表現をよくわかっておらず、物語を形にすることを夢としてがんばる雫ちゃん、かわいいなー、かっこよーと思っていたくらいでした。


 私と言えば、漫画を描くことに目覚め、夏休みや冬休みとなれば、机に向かって大学ノートを広げて、ひたすら絵を描く。朝まで描く。朝日に願いをかけて眠りにつく。



 そんな毎日を繰り返していました。

 要は雫ちゃんに憧れて、創作の真似事をしていたのです。



 雫ちゃんのように夢を持ちたい。

 物語の主人公になりたい。

 世界を動かす人間になりたい。



 物語の中では誰でも何者にもなることができて、世界のどこへだって私を連れていってくれるのです。




 が、しかし。




「私ってば、絵、下手すぎだってばよ?!」




 うずまきナルトもびっくりぎょうてん。

 まるで螺旋丸らせんがんをもろに受けて吹き飛んだぐちゃぐちゃな絵。



 星のカケラやハートを集めるちぃかわのようなマスコットキャラクターは、寸胴鍋のような不細工な妖精。

 神様に選ばれた伝説の長剣ラグナロクは、どこからか拾ってきたふにゃふにゃなヒノキの棒。

 推しの子・アクアのようなイケメンキャラは、左向きの顔しか描けないし、身体の輪郭はバランスが悪すぎる。



 私が想像しているのは、ドラクエに出てくるかっこいいモンスターのグレイトドラゴン(シーザー)とか。

 テイルズ・オブ・ジ・アビスの音楽の伝説を起源にしたオリジナリティ溢れる幻想的な世界とか。

 バイトハザードのおどろおどろしくて、強そうなクリーチャーとか。

 ゲド戦記の壮大な世界観、紅の豚のイタリア・アドリア海の風景、耳をすませばの恋する女の子の表情etcetc。




 どうやったら、こんなに生き生きとしたキャラを描けるのだろう。

 どうやったら、本物のような風景や世界を描けるのだろう。




 絵の才能って、どうやったら手に入れることができるの?

 どこに売っているの?




 物語の切れ端は、こんなにも頭の中に転がっていると言うのに!




 それらを表現するすべが、私には皆無であることに気が付いたのです。





 小人が頭の中でしゃべりかけてきます。




「描いて描いて、描きまくる。それしかないんだよー」




 魔女の宅急便のウルスラのようなことを言ってきます。

 当時の私は「ひたすらに絵を描いていればきっとうまくなる」という努力が自分にいつか返ってくるなんて世迷い事を、微塵も信じていなかったのです。



 深夜、窓から流れ込んでくる冷たい風に吹かれて膝を抱えていると、目の前に開かれたノートが、現実を叩きつけてきます。まぶたに涙がにじんできます。瞬きをすると悲しみがあふれます。




 ――私は神様から与えられるギフテッドなんて、これっぽっちも持っていないのか。




 ついに高校の成績も徐々に落ちてきて、ヤバイなと思い始めてきた時期でした。


 悔しくて悔しくて、泣きたくなりましたね。

 創作が楽しすぎて、学校へ行く気も無くしていましたし。



 でも、青春の時間は留まることを知らず、いつの間にか私は高校三年生になっていました。




 あー、受験か。

 大学、行きたくないなー。




 センター試験の過去問とか予想問題集とか。

 三角関数とか、力のモーメントとか、オームの法則とか。

 否応にも頭のなかに入り込んでくる受験生たちの会話。




 はぁ。

 仕方がないから、気分転換に勉強でもするかー。



 流石に大学受験が近づいてきて、勉強をしようと重い腰をなんとか椅子に乗せたある日、しぶしぶ机の上で分厚い参考書を開くのでした。





 そんな私に、創作人生を変えるような痛烈な出会いが訪れるのです……!




 つづく。




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