第9話

残り香のしなくなった地面に、私は言ってやったのだ。


「逃げても無駄ですわ。それが『運命の赤い糸ストーカー』ってヤツなのですから!」



……。


剣士様が消えた虚空に、愛の告白をしてやった。


悪役令嬢ふうに。



――どうせ、夢。だったら、現実では 恥ずかしくて デキない事をやってやろう。



あの頃にハマった花澤はなざわ香姫かいさんの小説の数々。


そこに出てくる イケメン王子 たち。

そういう男性キャラに、どれだけ 恋焦がれただろうか。



それがいま、目の前に現れたのだ。


一度しかないチャンス。また会うだろう、なんてバカな考えは 捨てなければ。



「この私から、逃げられるなんて、思わないで!」




恥は『夢の中』に 好きなだけ 捨てていけるのだから、ぐいぐいと行こう!


(オーバードーズ状態みたいに、気分がハイになっている?)




…ざんねん。実際には、走り疲れて 高揚した気分になっているだけであった。




―― ランナーズハイ ――。


(ランナーズハイをもたらす物質は、β-エンドルフィンという脳内麻薬であり、内在性オピオイドであることが知られています。ただし、2015年頃からの研究により、ランナーズハイをもたらす物質はβエンドルフィンではなく、体内で生成される脳内麻薬の一種である内在性カンナビノイドに属する化学物質であるとする説が提示された)



きっと、そうだ。


現代知識をつかって無双する、異世界転生系の夢に違いない。



「困ったなぁ。私って、そんなに子供じゃないんだけどな……」



そうは言いつつも、

顔がニヤついていることが 表情筋から伝わってくる のであった。



◇ つづく...

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