04
「……この下衆共が」
使用人や母、そして姉妹とその婚約者たちが、伯爵家の広間で強制的に膝を付けさせられている。
そんな広間に、地獄から這い上がって来た悪魔のような憤怒の声が響いた。
私じゃないわよ?
今言ったのは、この国の王太子であられる、ホーネスト殿下。
「保護されていたプリュフォール嬢……いや、現カース女伯爵を、国王と共謀して強制帰還させた後、劣悪な環境である地下牢にて監禁。その後は執務室から一歩も出さず、再び監禁を続けた。挙げ句伯爵の名を不正に使い散財。それも母娘だけでなく使用人まで。それだけに留まらず、不名誉な嘘を言い触らし、彼女の名誉まで貶めた。そしてこの、伯爵への殺害計画書なる物。全てにおいて到底許されぬ。問答無用で全員連行する!」
「待って下さい!! 僕は彼女らに騙されただけなんです!!」
「そうです!! まさか監禁されているなんて、わからなかったんです!!」
「百歩譲って、もし知らなかったのだとしても、だ。この殺害計画を企てた中に貴様らも含まれている。筆跡鑑定もして確認済みだ。勿論、他にも共犯者だとする証拠を揃えている。言い逃れは出来ないぞ。愛する婚約者共々地獄に堕ちるんだな」
「そんな……プ、プリュフォール!! 僕が悪かった!! だから僕を助けてくれ!!」
「ちょっと!! 私たちを捨てようっていうの!?」
「そうよ!! 一緒に楽しく計画してたじゃない!!」
「うるさい!! そもそも君たちが嘘なんて吐くからこうなったんだ!!」
「だってお母様がそう云えって、何を言って貶めても大丈夫だからって!」
「大体、アンタたちだってお母様からお金もらって婚約破棄劇場に加担してたじゃない! それなのに、私たちだけ悪く云うなんて卑怯よ!!」
「そうよ! それに私たち、アンタたちに身体まで差し出したのよ!? しかもお母様も交えて五人でしたいだなんて……とんだ変態だわ!」
「ハッ、処女じゃない女が何云ってんだか」
「そもそも僕等と婚約した後も他の男と寝てじゃないか!!」
「アンタたちだって他の女と寝てたくせに!!」
「何だと!?」
「何よ!!」
何とも五月蝿い責任の擦り付け合いが始まってしまった。
見て。王太子殿下の顔が益々険しくなっちゃったじゃないの。
「おい、そいつらを黙らせろ。それと、前伯爵夫人。貴女には先程の所業とは別に罪状がある。貴女の父母への、事故に見せかけての殺害に、夫である前伯爵の毒殺。遺体は葬儀屋に扮した使用人に燃やさせたようだな」
「それ、それは何かの間違いで……!!」
「前伯爵の熱意と人望が勝った証だ。父母殺害に関して、手伝わされたという者を見付けた。そこの執事の祖父と、侍女長の娘だ。貴女に処分される前に逃走し、今もなお追われながらも逃げ延びていたよ。
罪を犯した故、早く出頭したかったが、その前に捕まれば罪を告白する事も出来ないと、苦渋の決断で逃げていたのだと二人は云っていた。『伯爵様には悪い事をした』と、涙ながらに打ち明けてくれたよ。処罰は免れないが、脅されていたので多少情状酌量の余地がある。
では次に、前伯爵への殺害の件だ。
夫殺しは他国の毒を使ったのだろう? プリーズィング家の人脈は我が王家より幅広い。毒を売った商人を見付けて下さった。商人は目に見える証拠を残す。自分だけが不利にならないようにな。毒を販売した家や人物の詳細をしっかり保管してあったぞ。言い逃れは出来ない」
「か、買っただけじゃ罪にはならないじゃない!!」
「買っただけならな。だが己の夫に対して使ったではないか。証人はいるぞ? 貴女が茶を淹れた際に側にいた、行儀見習いのため働いていた伯爵家の二女だ。彼女は罪の意識から閉じ籠るようになってしまったが、女伯爵の境遇を知り力を貸してくれた。前伯爵にも恩があったみたいだしな」
「物的証拠がないじゃないの!!」
「ある。毒は即効性のものではなかったのが救いだった……彼は自身の体調に違和感を覚えて、我が叔父上の紹介で病院にて検査を受けていた。その時採血した血液と唾液が、最新技術で生まれた“冷凍庫”という、物を凍らせて保存する箱に保管されていたよ。もしかしたら、前伯爵は毒殺されると予想していたのかもな。当時の診察内容が病の類いだったため検査方法が違い、当時は毒物反応が出ていなかった。だがこの度ちゃんと毒物検査をしたら出てきた次第だ。言っただろう? 彼の熱意と人望が勝った、と」
「私が飲ませた証拠はないじゃない!!」
「お揃いのカップを使っていたのだろう? それは伯爵家の二女だけでなく、多くの元侍女が証言している。そのカップで茶を淹れるのは、妻である貴女だけしか許されていなかった、と。使用していたカップと毒の入った瓶は庭に埋めるよう元庭師に指示したな? 夫人自ら渡して来たと、元庭師が証言した。その庭師がずっと現物を取っておいてくれていたぞ。そこから毒の成分も、貴女の指紋も検出された。これも前伯爵の人望の賜物だな」
「……あの国王の息子だとは思えないな」
私の隣でなかなか終わらない断罪劇を眺めながら、ライド伯父様が苦笑いを浮かべてそう言った。
「きっと母親の方に似たのよぉ。良かったじゃない、これでこの国の次世は安泰よっ」
そう返すのはアンネマリー伯母様だ。
伯母様は私の状況を把握するため、侍女として潜入してくれた。思い切りが良くて頼もしい。
「私のために、ありがとうございました」
二人に頭を下げる。ライド伯父様たちが私の欲する者たちを送ってくれたから、今日こうして開放的されたのだから。
「可愛い姪を助けるためなら、使える執事も侍女も送らせるさ」
「プリュフォールが無事ならそれで良いのよ。それに、侍女もどきも面白かったからねっ」
私が手紙に書いたのは、なんとはない日常。
その中で求められているモノを正確に捉えてくれた二人には、感謝してもしきれない。
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