第197話 銃の話と顕蔵の苦悩

 銃の話をしよう。


 幼い頃、俺が信長様の元で作り上げた銃。弾薬式の単発ライフルは当時の俺と俺付きの鍛治師の技術力で製作可能な銃の中で最高峰の出来だった物だ。あれは前世の時代の銃をそのまま作るのは無理だと察し、何世代も前の型の銃なら作れるだろうと考え、前世の趣味の知識を総動員してやっと作り上げた物だった。


 その型とはアメリカウィンチェスター社のM70。かつて(この時代から見たら未来だが)アメリカ海軍で正式採用されていた歴史に残る名銃だ。


 俺の記憶にある古い銃の中で最も気に入っていたからこれを作ったのだが、結果的には大成功だったと言っていいだろう。あのM70はスコープが搭載可能で後に伊賀で俺が作ったスナイパーもどきの原型にもなったのだ。汎用性が高く、扱いやすい。俺が最初に手を出すのに相応しい銃だったと言える。


 あの銃なら精度も良いしこの時代の兵でも扱いやすいだろう。そう考えて俺は隊の兵にあれを配るために、その製作をする顕蔵の元へ訪れていた。


「もう一度、もう一度言ってもらってもいいですかい?」

「これと同じ物を最低でも3000丁作って」


 設計図を差し出され、二度そう告げられた顕蔵は固まってしまった。俺はお茶を啜りつつ、回復するのを待つ。


「さ、さ、さささ3000!?」

「お、戻ってきた」

「旦那! 3000って……?」

「聞き間違いじゃない。3000」

「聞き間違いであって欲しかったですよ」

「もちろんお前1人で作れって言ってるわけじゃない。時間がかかるのもわかってる。でもそろそろ隊をそのランクにあげてもいいんじゃないかって思ってね」


 浅井朝倉の討伐戦の功績で加増された影響で動員できる兵が増えた。今、徴兵すれば俺の隊は1万を超えるかもしれない。もうそれは一つの軍と言ってもいい規模だろう。その俺の軍で正式採用する銃はこの銃しかないだろう。火縄銃を卒業する時が来た、と勝手にそう思っている。


「那古野とか清洲でも鍛治師を集めてくるつもりだ。特に最初にこの銃を作った、名前は忘れたけどあの人は絶対に呼びたい。伊賀の俊兵衛も呼びたいけどあいつは伊賀の北の里唯一の鍛治師だから引き抜けないだろうな……。で、集めたそいつらの指導をお前にしてほしい」

「なるほど……わかりました。その任受けましょう。責任をもって作ります」

「ああ、頼む。お前も知り合いで腕のいい鍛冶師がいれば呼んでくれ」


 ということで顕蔵は頼もしく任されてくれた。本格的な軍を作るというのが現実味を帯びてきている。


「あと、俺も新しい銃を作ってほしくてな」

「えッ……!?!?」


 前世で俺が愛用していたのは高威力のリボルバーである『S&W M500』だが初めからそれを使っていたわけではない。

 最初は定番のオートマチック型の拳銃『Steyr M1912』、続いてゲームなんかで憧れのあった『レミントンM870』という旧型のショットガン、高射程のスナイパー『M2010 ESR』、バースト機構付きの高性能アサルトライフル『Steyr AUG』などなど、就職してからは給料の一部を使って3か月に一丁くらいの頻度で有名なゲームに出てくる銃や海外ドラマに出てくる銃なんかを買いあさっていたわけだが、その中でこの時代でも作れそうな銃があったのだ。


 ついに高速で連射できる銃を作る時が来た。


 リボルバーの早撃ちには自信がある。だがどう頑張っても装弾数以上の連射は出来ない。俺は今、猛烈にフルオートの銃で弾幕を張りたい。誰も近づけない、壁から出てこれないレベルの弾幕を。


「でもマガジンが無理……あれはガス圧で弾を自動装填して薬莢の排出まで自動でやってるからな」

「すいやせん。ちょっと何を言ってるかわかりません」

「あー、まあ無理なものを考えても仕方ない」


 だが俺はアサルトライフル、あるいは機関銃を使いたい。とにかく連射したい。


「それで、どんなものを作るんですかい?」

「よくぞ聞いてくれた! 今から俺たちが作る銃の名は……『トンプソン・サブマシンガン』だ!」

「は?」

「あ、言い方が悪かったな。通称『トミーガン』だ」

「は?」


 言い直しても理解されなかった。何故だろう。

 トンプソン・サブマシンガン、通称トミーガンとは第一次世界大戦の終結後あたりから出現した短機関銃だ。

 なぜ俺がこれから作る銃にこいつをチョイスしたのかというと、もちろん最新型の銃じゃないから構造が比較的簡単で政策の実現性が高いというのもある。だがそれ以上にこの銃のマガジンがドラムマガジンであるという点だ。こいつはゼンマイによってマガジンが回転することで連射を可能にする。これなら今の俺たちの技術ならギリギリ作れるはずだ。

 

 もちろん懸念点はある。リボルバーは6発、SAS12は8発、それに対し今作ろうとするトミーガンは50発あるいは100発。文字通り桁が違う。構造が単純なものを選んだとはいえ、今まで作ったモノより難易度は上がる。


「とにかく設計図は書いておいた。これでもうまく行くかわからない。研究が必要だ」

「……………………わかりました」

「長い葛藤があったな」

「ありますよ。ですがこれは……面白い」


 設計図を見た瞬間から顕蔵の目が輝いているように見える。そりゃあ未来の技術だからね。わくわくするのもわかる。俺もユナの宇宙船を見た時はわくわくうきうきしてたし。


「明日から早速研究だ」

「はい、旦那!」


 この日から顕蔵はしばらく、というか数年休む暇もなく働き続けることになる。

 とはいえ顕蔵のこの運命は大助に捕まった時点で決まっていたと言える。大助の銃に対する熱意に永遠に振り回されることになるのだから。

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