第196話 論功行賞と宇宙船

「此度の第一功、羽柴秀吉! 其方に旧浅井領と小谷城を与える」


 今回の浅井・朝倉の討伐戦。その第一功は羽柴秀吉だった。朝倉攻めでは追撃戦で敵の足止めをし、朝倉本隊の殲滅に繋げた。そして小谷城攻めでは京極丸を落とし、本丸や小丸の攻略の足掛かりを作った、ということらしい。

 いくらなんでもそれで近江の半分の褒賞というのは大きすぎると思うが。まあ敗戦の地と燃えカスの小谷城、別に羨ましいわけではないのだが。


「第二功、坂井大助! 其方の清州の領土を加増する」


 第二功は俺。俺の功績は朝倉の将を3人討ち取り、追撃戦の大将を務める。小谷城攻めでは市ちゃんと浅井三姉妹を救出した。

 ……やっぱり俺、サルより活躍してるよね。首3つだよ? 朝倉の重臣の首。小谷城を落とすっていう点では確かに功績はないけど朝倉攻めでは比類なき活躍って言ってもいいくらい。


「第三功、柴田勝家! 越前国北ノ庄城一帯の領地を任せる」


 柴田勝家、丹羽長秀と続き、論功行賞は終わった。


 

 俺の領土は以前からの清洲一帯の領土に加え、越前に国替えになった柴田勝家領が支配下に入ることになった。地理的には清洲の北西に広がっている。北は美濃との国境まで、西は伊勢との国境まで、東は那古野一帯との境界である庄内川まで、南は海沿いが一益殿の領土なのでそことの境界までだ。林秀貞(那古野城)と滝川一益(蟹江城)と俺の3人でほぼ尾張を牛耳っていることになる。こう見ると俺も大物になったものだ。


 市ちゃんと浅井三姉妹は金華山麓の信長の屋敷の離れに一時的に住むことになった。できるだけ急いで屋敷を用意すると信長も言っていたし、浅井長政が懸念していたように冷遇されるということはなさそうで一安心だ。妹の無事の帰還に信長は心の底から喜んでいたように見えた。



 足利義昭追放と浅井・朝倉の滅亡により信長包囲網は崩壊した。武田は信玄が死んで以降動きを見せない。

 信長はこの情勢を見て、包囲網に加わった敵の残党の処理のために動き出した。目下の問題は長島一揆だ。その討伐のために信長は10万規模の兵を興す準備を始めた。



 そしてそれまで暇になった。


 これまで戦続きだったのが嘘みたいに出陣する機会が無くなった。近畿地方の小さな反乱は光秀や荒木村重があっという間に鎮圧するし、北陸方面は丹羽長秀、柴田勝家という名将が揃っている。俺が援軍で呼びだされることはなかった。


 やることがないわけではない。信忠たちの稽古は元服しても続いているし、その中に葵丸も加わった。時間が出来た俺は今までよりも頻繁に城に出向き、指南役として厳しく稽古した。

 祈との時間も長くとれるようになった。デートで熱田神宮に行ったり、家族3人で釣りに出かけたりなど充実した日々を送っている。


 ある日、俺は戦中に決めたことを実行に移すべく、尾張那古野近くの海岸に来ていた。

 

「あんた本気? 本気でこれを直すって言ってるの?」


 俺とユナの前にはユナが乗ってきた時を超える宇宙船がある。原理は知らない。どんな理屈で光速を越え、どんな理屈で時を超えたのか見当もつかない。

 でも俺は未来人のユナがこれ以上この時代で好き勝手することを良しとはしない。信長の天下の障害になるアイツを排除する。未来に送り返すという形で。


「あぁ。お前の居場所はここじゃない。お前も未来に帰りたかったんだろ?」

「帰りたい。でもどうやって直すの? あんただってあたしから見たらかなり過去の人、技術的にもこの時代の人よりはマシ程度よ」

「それでもいないよりはマシだろ」


 産業革命の前と後だしだいぶ変わると思うんだけどな……確かユナは2199年とか言ってたな、百数十年あればそれほどに技術力が上がるのか。さすが人類。


「壊れてるのは時空移動の箇所でお前でも手も足も出ないんだろ? 前々からの修理でその他の箇所は大体直った。ようやくそこに手を付けるんだ。ちょっと時空移動の機械に興味もあるし、俺にもちゃんと手伝わせてくれ」

「……この前結構言い合った後だから、ちょっと怪しいんだけど」

「お前に無事に未来に帰ってほしい。これは本心だ」

「…………」


 まあ結構ちゃんと喧嘩したからな。でも今のは間違いなく本心だ。


「お前の悲願だろ? それに協力する」


 ユナは熟考の末、首を縦に振った。俺は正式に協力者としてユナの時空間移動機能付き宇宙船の修理に付き合うことになった。


 俺は清洲の屋敷に滞在し、朝から夕方まで海岸で宇宙船の研究をする。そんな生活が始まった。


「そもそもアイテムが少なすぎるんだよ。ドライバーとハンマーくらいしかまともな工具ないってどういうことだよ……」


 宙づりになった宇宙船の下で痛くなってきた首を回しながらユナにそう文句を言う。


「文句言わない。手伝いたいって言ったのはそっちでしょ?」


 そりゃあ装備が同じだったら文句は言わないよ? でもユナが持ってるのは宇宙船の中に入ってた謎のハイテク工具じゃん。俺は高いとこからネジを落として梯子を上ったり下りたり大変なのに、ユナのハイパー電動ドライバーはネジがドライバーの先にくっついて絶対落ちないじゃん。なのに作業箇所は俺が外側でユナは内側。内側ならネジを落としても手を伸ばせば届くじゃん! その高性能なやつ貸してくれよ……


「文句言わない。男でしょ?」

「それ、俺の時代では男女差別って問題になるんだけど、未来ではどうなの?」

「男女は生物的に別の生き物なんだから男女平等なんて馬鹿らしいと結論が出たわ。男女で力も違うし生物学的に役割も違う。それで差が出るのは当然のことでしょ?」

「まあ、差別はともかく差があるのは当然だわな」

「そ。未来では完全に実力主義よ。女でも実力があれば力仕事もするし、男でも実力があれば……」

「あ、話の途中に悪いんだけどこの部品って何のためについてるかわかるか? いらないようにも見えるんだけど」

「あー、多分それは……」


 こんな感じで雑談を交えながら作業は進んでいく。当人が言うのもあれだが俺とユナの関係は思ったほど悪くなかった。思えば戦中で意見の反対から対立することはあったが、まだ確信的な敵対関係には至っていない。ユナを未来に返せばお互いハッピーエンドなはずだ。そう思い俺はハンマーを握り直す。


 再び金属同士がぶつかる音が鳴り響く。その音を立てている男、大助をユナが鋭い目線で見つめていた。

 

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