第116話 稲葉山城攻防戦 弐

 信長の読み通り、信長が稲葉山城に近づくと城から斎藤軍が出てきて信長に攻撃を仕掛け始めた。これは軽くいなすだけでいい。重要なのは美濃三人衆の動きだ。美濃三人衆が斎藤に裏切れば信長は危機に陥り、逆にこっちについていたら斎藤軍を殲滅できる。

 俺と利家、そして信長は敵の攻撃に対処しつつ美濃三人衆の動きを注視する。


「お前はどう見る、利家?」

「そうですね……藤吉郎に聞いたところ、彼らはすでに斎藤龍興との仲が悪くなっているようでした。特に安藤守就は竹中半兵衛の稲葉山城占領にも同行していました。少なくとも安藤守就はこっちにつくと思います」

「残りの二人も主と不仲ならこっちにつきそうだな。おっ、動いたぞ」


 信長の質問に利家がサルから聞いた情報を伝える。俺も推測を述べる、それとほぼ同時に美濃三人衆の1人・安藤守就が動き出した。斎藤の旗を下げ、織田木瓜の旗を掲げる。さらにその中から一本、鋭い矢が斎藤軍に向かって飛んで行った。斎藤軍の中から悲鳴が聞こえた。

 そしてそれを合図に残りの美濃三人衆の二人、稲葉良通と氏家直元も斎藤軍に向かって攻撃を開始した。


「よしッ!!」

「これならもう不安要素はない!! 下がって包囲網を敷きなおせ!! 今出てきた軍は利家と大助は美濃三人衆と協力して殲滅しろ!!」


 信長の指示を受け、俺は利家の隊に入り斎藤軍に襲い掛かる。斎藤軍は美濃三人衆と俺たちに挟撃される形となり即座に撤退を開始した。


「判断が速いな」

「ああ、敵にそんな武将がいたか?」


 敵の動きのキレがいい。優秀な武将が入っている証拠だ。だがそんな武将の情報は入ってきていない。


「わからないがここで兵の数を減らしておくことには意味がある。追撃をかけるぞ」

「ああ、同意見だ」


 俺と利家の意見が合致し兵に追撃をかけようと命令を出そうとした直前、前方から一人の騎馬に乗った武将が現れる。


「利家はん、大助はん、お待ちぃを!!」

「ん?」

「誰だ、名を名乗れ」

「織田家家臣・氏家直元や!! 覚えといてくださいよ、軍議で一回会ったやろがい!!」


 織田家家臣、そう名乗った。美濃三人衆の1人、氏家直元。


「すまんすまん、で、なんで待つ必要があるんだ?」

「今出てきてるんは敵の大将、斎藤龍興や!! 半兵衛はんがおったせいで目立たんかったけどあいつも十分バケモンや!! この数で取れる相手やない!!」

「えっ」

「んな馬鹿な!! たとえどれだけ強くてもこっちにはお前ら美濃三人衆も大助もこの俺もいるんだぞ!! 兵力もこっちが上だ。逆に敵総大将を討ち取る好機だ!!」


 俺が何か言う前に利家が一気にまくしたてる。ちなみに俺もほぼ同意見。追記するとすれば斎藤龍興に関しては良い噂は全く聞かないということくらいだろうか。


「討ち取れたとしてもこっちの被害は絶対大きなる、やめとくんが吉や!!」


 氏家直元がここまで言うのか。これまで斎藤龍興に仕えてきたこいつがそこまで言うのだから本当にすごい敵なのかもしれない。俺や利家の龍興に関する情報は情報源がしっかりしているとは言えない。


「利家、ここは直元の言う通りにしよう。包囲を再構築したほうがこっちの被害を少なく城を落とせると思う」

「そやそや、大助はんの言う通りや!! 利家はん、ここはひとつ、大助殿に免じて……」

「それはお前のセリフじゃねえだろ!!」


 俺の顔に免じてならわかるけど、そこで他人を使うなよ!!


「わかった。被害を減らすのは将としての役目だしな」


 ということで利家も合意し俺たちは的に追撃はかけず、陣まで戻った。美濃三人衆も包囲に参加した。今回のことで信長の信頼を得られたらしい。


 その翌日は戦闘は起きず、睨み合いが続いた。そしてそれはその翌日も翌々日も続いた。

 そして包囲が始まって一週間たったある夜、信長から呼び出しを食らった。包囲してるだけなのに何かやらかしたか?と思って内心ビクビクして集合場所に行くとそこには柴田勝家、丹羽長秀、池田恒興、前田利家と信長家臣団のそうそうたる面子が集まっていた。


「お前で最後だ、大助」

「あ、すみません」


 一応これでも集合時間の5分前なんだけど、主人である信長にそう言われたらおとなしく謝るしかない。


「今日ここに呼んだのは美濃に関係がなく、俺が信頼する者たちだ。ということで早速本題に入らせてもらうが……」


 ここに美濃三人衆や明智光秀がいないのは美濃と関係があったかららしい。

 それより信長の本題というのはここ最近、美濃三人衆の面々がたびたび稲葉山城に使者を送っているらしい。内通の可能性もあるため看過できないとのことだ。


「美濃三人衆と肩を並べて戦った大助と利家に意見を聞きたい」

「そうですね……氏家直元に関していえば裏切っているように見えませんでした。こちらの被害数や敵将の情報など有益なことも多く言っていたと思います」


 信長の問いに利家が答える。

 利家は間違ったことは言っていない。だがあの状況は今思えば多少被害を出してでも斎藤龍興を討ちに行った方がいい状況だったんじゃないかと思える。俺たちは氏家直元の言葉で敵将を討つ好機を逃したという捉え方もできるんじゃないか?


「大助はどうだ?」

「利家の言葉に間違いはありません。ですが見方を変えればあの時、氏家直元は俺たちが斎藤龍興を討つのを阻止したという風に捉えることもできます」

 

 あくまでも推測ですが、と最後に付け加えておく。信長は俺と利家の言葉を聞いてうーんと唸る。直本の行なった行為は捉え方によっては利敵行為だ。だが明確な敵対行為ではない。こっちに被害が出るのを防いだのは事実なのだし。そんな中で信長の出した結論は、


「明日から長秀、利家、大助に各々、稲葉良通、氏家直元、安藤守就の監視を命じる。不審な行為をしたらその部隊の隊長を捕らえろ。いいな?」


 ひとまず監視をつけて放置、泳がせておくことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る