第114話 速攻勝負と親の仇

 1567年、坂井大助率いる2500の軍が伊勢国桑名城から南進し、四日市にて北勢四十八家の赤堀軍と対面した。数は敵の方がやや多いが勝ち目がないほどの差はない。むしろ兵の質のいい俺たちが有利かもしれない。


「短期決戦で行くぞ」


 俺は軍議に集まった隊長たちにそう告げる。この赤堀との戦は美濃侵攻のための北伊勢侵攻、その一部に過ぎない。その程度の戦にダラダラ時間をかけるわけにはいかない。隊長たちも異論はないようだ。


「敵は三滝川周辺に布陣しているが一つだけ川のこちら側に布陣している隊がある」

「中野秀盛ですね」

「ああ、まずはそれを徹底的に叩く。川の反対側に逃げようとしたらこれに追い打ちをかける。川さえ渡れば後はこっちのもんだ」


 これも異論はないらしい。俺はそこで軍議は解散にして明日の戦に備えるため少し早いが寝所に入った。


「行くぞ、今日中に敵を討つ! 全軍出陣!!」


 流れとしてはいつも通り。彦三郎らが鉄砲、弓で攻撃を仕掛け、大吾が突っ込んで敵部隊を粉砕する。一益の証言によると中野秀盛は攻撃に長けた若武者だが防御はお粗末とのことだったので先に仕掛けてみたが、本当にその言葉通りだった。あっという間に敵本陣が崩壊し、中野秀盛は捉えられ俺の前に連れてこられた。

 中野秀盛は自ら戦ったのだろう。身体中に刀傷があり、ところどころに血がついている。


「くっ、殺せ! 情けはいらん!」


 くっ殺の人だ。大吾が「なら遠慮なく」と矛を振ろうとするのを慌てて止める。くっ殺さんは殺しちゃダメだ。とりあえず信長のところに連れて行くということにして俺たちは先に進む。

 中野秀盛の隊の残党を追いかけて橋を渡り対岸に出る。橋を渡る最中に攻撃されるのが1番嫌だったのだが特にそんなことはなく、河岸を守っている敵軍は俺たちが川を渡ったのを見ると後ろに下がっていった。


「ここで隊を分けるぞ。一番隊と二番隊は左の浜田元綱、残りは俺と右側の赤堀宗近の方へ行く。彦三郎、大吾、頼りにしてるぞ」

「ハハッ!!」

 

 ここからは速攻勝負。どれだけはやく敵の本陣を攻めることができるか。

 隊を分け、半数強と共に敵将赤堀宗近の本陣を強襲する。だがさすがに本陣は守りが固く上手く進めない。


「悠賀、俺が本陣に入れるように援護しろ」

「お任せを。300ついてきなさい! 側面をたたきます」


 悠賀の隊が分離し敵を崩しにかかる。悠賀は敵の本陣を攻めるのではなく本陣を守る部隊を標的にしている。そしてその策は見事に成功した。敵の防御の陣形が崩れ始める。


「今だッ!! 突き崩せ!!」

「「オオオオォォォ!!」」


 俺の声に呼応した兵たちが敵本陣に向かって突撃を開始する。もちろん先頭に立つのは俺だ。だって一番強いから。彦三郎がいれば全力で止めるだろうが本来、俺はこういうのが得意分野だ。


 陣幕の布を斬りついに本陣へ突入する。本陣守備の兵を斬り捨てて奥に座る大将らしき者と向かい合う。


「む、こんなところまで来おったか」


 そういってゆっくり立ち上がる敵将・赤堀宗近、今の一瞬で斬ろうと思えば斬れたのになんでこいつはこんなに余裕そうなんだろうか。自分の立場と今の状況わかってんのか?


「その首頂くぜ、赤堀宗近」

「取れるものなら取ってみよ。餓鬼が」


 そう啖呵を切って刀を抜く宗近。まあ確かに平均以上の強さはありそうだけどそこまで大口をたたくような実力者には見えないな。そもそも俺との実力差を見誤っている時点でたかが知れてるわ。


「かかってくるがいい。餓鬼」

「じゃあ、遠慮なく」


 言い終わると同時に一気に距離を詰め、刀を振るう。慌てて下がった宗近の首にうっすらと赤い線がうかんだ。


「ッ!? 早いな」

「おいおいさっきの威勢はどうした? まだまだこれからだろ!」


 さらに追撃をかける。連続で突き技を繰り出し、僅か数秒後には宗近は傷だらけになっていた。もちろんそれでは終わらない。リボルバーで手足を撃ちぬいて無力化した。


「クソッ!!」

「俺はお前が浜田藤綱たちを尾張に差し向けたこと、絶対に許さない」

「ッ”!!」

「ここで死ね。お前を殺し、伊勢は俺たち織田が奪う」

「ふざけるなよ!! この侵略者どもが!!」

「ああ、そうだな。俺たちは侵略者だ。でもそれが戦国だろ? お前たちだって伊勢の弱小勢力を淘汰してきただろ? それと同じだ。俺たちは、織田はすべての国を淘汰し天下を統一する!!」

「て、天下だと!?」

「ああ」

「そんなもの、夢物語だ」

「信長さまならできる」

「信長など尾張一国の弱小勢力にすぎん。どこにそんな力がある?」

「俺がいる。いずれ戦国一の銃使いになる俺が支えていく」

「……」

「もういいだろ。話は終わりだ。死に方は選ばせてやるよ。切腹だったら介錯はやってやるしこのまま戦って死にたいならそれでもいい」

「……腹を切る」

「そうか。天国か地獄か知らないがとにかくあの世で俺たちの天下統一を見てろ」

「そうすることにする」


 鎧を脱ぎ、正座した宗近。そして小刀を抜き腹に十文字に切り込みを入れる。そしてそれを確認した瞬間、俺は宗近の首に刀を振った。首は宗近の膝の上に落ち、次の瞬間、俺たちの軍の歓声が戦場に響いた。


「お見事です、若様」

「悠賀もよくやってくれた」

「いえ、若様の実力です。大吾と彦三郎さんの方も終わったようですよ」

「ああ、歓声がしてるもんな。つまりこれで北伊勢の制圧は完了した、ってことでいいんだよな?」

「はい。それに、やっと殿の、大膳様の仇が討てました」

「ああ……そうだな。父上も天国で満足しておられるだろう」


 敵将赤堀宗近は自害、中野秀盛と浜田元網は捕えた。つまり四日市でぶつかった坂井大助率いる織田軍と北勢四十八家赤堀軍の戦いはわずか一日で織田軍の勝利が確定したのである。


 


 



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