第112話 明智光秀と斎藤龍興
「明智殿、助かりました」
「いえ、すべて信長様の指示ですから」
事も無げに答える光秀。こいつに助けられるのはいろいろ複雑な所はあるがまだ信長を裏切ったわけでもないし、救われたのも事実。ちゃんと感謝してる。
「それにまだ安心するには早いですよ。敵の追い打ちが来ます」
「それは俺の隊が引き受けましょう。彦三郎、殿を頼む。大吾は敵が接近した所だけ撃退してくれ」
そう2人に指示を出し二人は「ハッ!」と返事をして最後列に向かっていく。
「これで大丈夫でしょう」
「大助殿は優秀な部下をお持ちですね」
「ええ、特に彦三郎は俺の生まれた時からの保護者のようなものなのです」
「ほう。信頼を置ける者が近くにいるというのはいいことですからね」
「ええ。だから俺らが信長様に信頼されるようにならなくては」
「はい。私は新参ですがこれからそうなれるよう励みます」
「協力して信長様を支えていきましょう」
「もちろんです」
少なくとも現状は信長様に逆らう意思はないように見える。これからも光秀の行動には注意しつつ、今後しばらくは協力して信長の天下統一戦を戦うことになるかな。ユナの言う通り、本能寺の変が起こる1582年になってからでも殺すのでも遅くないしな。
信長と合流し支持を乞う。信長の下した命令は当然、撤退だった。今回はこんな所で斎藤と戦う予定ではなかったのだ。斎藤と戦うならもっとちゃんと準備が必要になる。
それに今回は奇襲されたためこちらに被害が大きく、溺死者も出た。今は何とか持ちこたえているが、ここは敵の狩場。この先何をされるかわからない。
「信長様、殿は我が」
光秀が進んで殿に名乗り出る。だが殿は重要な役割だ。光秀1人に任せるわけにはいかない。実力もまだよくわかっていないし、裏切る可能性だってある。
「俺も殿をします。鉄砲隊は役立つはずです」
「よし、大助と光秀に任せる」
「「ハハッ!!」」
最後尾に鉄砲隊を並べ、迎撃の体勢を整える。光秀には近づいてきた敵を迎撃するようにお願いしておいた。いつもの大吾の役割だがさっきの戦いで大吾の二番隊はボロボロだからね。
「それにしてもすごい数の鉄砲ですね……これほど並んでいるのは初めて見ました」
「日の本一の鉄砲隊だと自負しております。実際、隊の3分の1が鉄砲隊ですから」
2500の隊のうち1000人が鉄砲隊。日本に鉄砲が伝来してから25年。武田にも上杉にも今川にも鉄砲隊はいなかった。信長は早くから鉄砲に注目していたが、まだ鉄砲を重要視している武将は少ないのだろう。1000の鉄砲隊を備えている大名は他にはいないだろう。
「私の隊にも50の鉄砲隊がいるのですが、まだ実力が全く足りていません。できれば大助殿の鉄砲隊に混ぜてその御力を拝見させたいのですが」
「見るだけですよ。鉄砲隊に連携は必須です。決して邪魔だけはしないよう」
「当然です。厳しく言い聞かせておきます」
敵の氏家直元、安藤守就の激しい追撃は俺の鉄砲隊、弓隊の活躍で近距離戦にもつれ込むことはなかった。今もついてきてはいるが射程内には入ってこない。これ以上、敵はついてくると尾張の奥深くに入ってしまうことになる。そろそろ美濃に戻り始めるころだろう。
(ん?)
俺がふとちらりと左を見るとそこには大量の旗。そして軍。その旗印は……二頭立波!! 斎藤氏の旗印だ。そしてそれが近づいてくる。
「四番隊を左、いや北側に回せ!! 早く!! 間に合わないぞ!!」
どうする!? 間に合わない……!! 大吾はいない。そうだ、光秀……!!
「すぐに明智殿に使者を……ん?」
近づいてくる二頭立波の旗印と俺の坂井氏の旗印である丸に立ち沢瀉の間に他の旗印の軍が割り込んでくる。水色の布に桔梗の門の旗だ。明智の旗印。
状況を察してくれたのだろう。窮地を救われたのはこれで二度目だな。
「あっちは任せて大丈夫だ。四番隊は明智殿の後方の援護を、残りは引き続き後ろの氏家直元と安藤守就の対応だ」
《明智光秀》
「あれは……斎藤軍の本軍……まさか、龍興さま自ら……?」
「光秀さま、お下がりください。まもなく敵が来ます」
そう光秀を止める家臣を手で制し、光秀は一人馬で前に出る。そして敵の方からも一人、馬に乗っている武将が出てきた。
「光秀、こんな所で会うとはな!!」
「龍興さま……」
光秀は前に出てきた将を強く睨む。出てきた将は斎藤龍興、敵の大将にして光秀とも因縁深い人物でもある。
「朝倉に逃げたと聞いていたが、今は織田にいるのか。父上を裏切った貴様のようなゴミには織田のような腐ったところがお似合いだ」
「……義龍さまを裏切ったわけではありません。我はもとより道三さまの家臣。義龍さまが道三さまと戦うなら主を守るため道三さまに味方するのは当然のことです。それに……」
光秀がぐっとこぶしを強く握る。
「我の主を腐ったような所と言われるのは我慢なりませんね」
「私もすぐころころと主を変える貴様は気にくわん。ここで信長もろとも貴様らを屠ってくれるわ!! お前ら、こいつを殺せえ!!」
「光秀さまを守れぇ!!」
話し合いの時間は終わり、明智隊と斎藤龍興の本軍が激しくぶつかり合う。形勢は明智軍がやや不利か。だが崩壊するほどではない。撤退するのには十分だ。
少しずつ斎藤軍と距離を取りながら撤退していく。最後に光秀は斎藤軍の弓の射程外に離れたことを確認してから斎藤軍の前に出て宣言する。
「龍興さま、いや、斎藤龍興。あなたは必ず私が殺します。信長様と道三さまのために」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます