第110話 木曽川での急襲
「光秀殿、申し訳ありませんでした。あの、父の仇の男と似ていたもので……」
「いえ、そういうことなら仕方がありません。今後ともよろしくお願いします」
「……はい」
とりあえずいきなり銃を向けた件は光秀が父の仇に似ていた、という嘘をついて許して貰った。便利な言葉だね。俺だってそう言われたら許してしまうと思う。
ともかく明智光秀の話は一旦置いておいて、上洛の話の戻る。信長率いる織田軍は小牧山城を出陣し、京へ向かうとき障害となる南近江六角氏討伐へ出陣した。ルートとしては小牧山城を出陣して西美濃から南近江に入る予定だ。斎藤氏との同盟があるからこそ取れるルートだ。
「これが木曽川です。ここを越えれば美濃に入ります」
「3年前を思い出すな」
3年前、ここで竹中半兵衛にボッコボコにされた苦い記憶が蘇る。俺と並んでいた長秀も同じ光景を思い出したのだろう。表情が硬くなっている。
「まあ、今回戦わずにここを越えられるのを感謝しましょう」
「ですね。おっ、意外と川の流れが速いな」
「昨日の大雨のせいでしょうか。気を付けてください」
木曽川は流れが速く、足を取られて流れていく者や溺れてしまっている者がいる。
「焦る必要はない!! ゆっくりでいいから落ち着いて渡れ!!」
この辺に橋をかけるのも急務だな。同盟が成立したのなら不可能じゃないだろう。
そんなことを考えていると何やらいち早く川を渡り終えた最前線のあたりが騒がしくなっている。
「ん? なにかあったのか?」
「ここからではわかりませんね。それより今は早く川を渡り終えてしまわないと」
「そうですね」
ここは尾張と美濃の国境。何か起きるにはまだ早い。でも、何か胸騒ぎがした。そして、その予感は的中した。
対岸に近づくにつれなぜか尾張側に戻ってくる兵士が現れた。しかも大慌てで。
「おい! なにがあった!?」
「ひッ!? て、敵が」
「敵?」
「森からいきなり現れて……先陣が、壊滅した」
「は? 壊滅!? おい、それはどこの敵だ!!」
「さ、斎藤の旗印だった」
斎藤……!! 同盟が結ばれたばっかだってのに!! いや、そんなことよりこの状況はまずい。こんな流れのはやい川で敵に襲われたらひとたまりもないぞ。
「急ぎ後列の信長様に尾張側の岸まで戻るように伝えろ!! 急ぎだ!!」
「ハハッ!!」
「俺たちは前列の撤退の援護に行くぞ!! このままだと第二陣の利家、勝家隊が危ない。長秀殿、協力していただけますか?」
「無論。我らは右側から行きます。大助殿は左側を」
「おう!! 行くぞ!! 利家を助けに!!」
「長秀隊は勝家殿の救出に向かう!! ついて来い!!」
第三陣の俺と長秀の隊が第二陣の救出のため、木曽川を越え美濃国に足を踏み入れた。
第二陣は川岸に追い詰められ、包囲されていた。第一陣は本当に全滅したのか? 姿が見えない。とりあえず俺は部隊長である利家の所へ向かう。
「利家! 無事か?」
「ああ、助けに来てくれたのか! 本当に助かった」
「信長様は尾張側に戻るように伝令を送った。俺たちも一旦尾張側に戻るぞ。勝家殿の方は長秀殿が行ってる」
「待て、今、川に入るのは敵に背を撃たれるだけだ!!」
「ここにいても追い詰められて全滅するだけだろ? 殿は俺の隊の鉄砲隊で……」
「馬鹿か。水場で鉄砲なんてすぐに火薬が塗れて使えなくなるぞ。殿は2隊合同の弓隊でやるぞ。まずは使い物にならない鉄砲隊から尾張側に逃がせ」
「……わかった」
鉄砲隊から尾張側に逃がしていく。最前線は槍隊、その後ろから弓兵が敵を迎撃していく。
「大助は先に行け。殿は俺が率いる!!」
「助かる」
鉄砲隊たちと一緒に俺は尾張側へ向けて再び川に入る。だがそんな俺たちに向けて敵の矢が降り注ぐ。
「うわっ!?」
「あ”ッ!?」
「早く盾を持っている兵を連れて来い!! 足元にも気を付けないと流されるぞ!!」
俺の隊は鉄砲隊や弓隊を運用しやすくするため、置く盾を持ち運ぶ隊がある。もちろん、置く盾だからこうやって持ち上げて上からの攻撃を防ぐには適していないが盾は盾だ。重くて運びずらいが今、矢を防ぐには十分だ。
盾で頭上を守りつつ、川を渡っていく。時折、川が深く、足がつかない場所などがあったりしたがなんとか渡り切れそうだ。
だが……
「ぜ、前方敵襲!!」
「は? 前方!?」
「あっ!! あいつらこんな激流を馬で!?」
敵の騎馬隊が俺達の行く手を阻む。川底の深さなどをあらかじめ調査していたのだろうか。敵は馬で川を強引にわたり、俺たちを先回りすることに成功していた。
「あれは……氏家直元……!! 報告にあった強軍だな」
「どうする? 殿」
「こんな時こそ、お前の役目だろ、大吾?」
「おう、任せておけぃ!!」
俺たちは突然の強軍の登場にこちらも強軍の大吾率いる二番隊を前に出すことで対抗した。両者は激しくぶつかり、力は拮抗した。力だけなら拮抗していた。こちらは水上に対してあちらは陸上。普段我々が生活をしているのがどちらかを考えれば、どちらが有利になるのか一目瞭然だろう。
「ひっじょーにまずい」
屈強な二番隊の兵士が次々と討ち取られていく。援護を送らないと。
「すぐに悠賀に二番隊の援護に行くように伝えろ!!」
「は、はい!! ……え?」
「ん?」
悠賀と五番隊が敵の氏家直元隊の横に現れた。敵の氏家直本隊の横腹に突撃し、敵の動きが大きく鈍る。
「僕の観察眼、甘く見て貰っちゃ困りますよ!! 行くぞ、ジョー!!」
「は!!」
「悠賀!! あいつ、俺からの指示の前に……さすがだな。助けられた。今が好機だ!! 一気に正面の敵を攻めろ!! 今なら尾張側へ抜けられる」
悠賀の攻撃に合わせ、残りの俺の隊全員で氏家直元に突撃を仕掛ける。兵数はこっちの方が上、練兵だってこっちの方が上のはずだ。いける、これは抜ける。
敵兵を薙ぎ払い、ついに、この川岸を守っていた敵を抜ける。
「よし!! 今抜けた道を確保し続けろ!! 全員が抜けるまでだ!!」
抜けた道を確保し続けることで後続が続けるようにする。そしてついに利家含め第二陣、第三陣の脱出が成功した。
「次は信長様の所に……」
「待ってくれ、大助」
信長に合流しようと歩き出そうとしたのを利家に止められる。そして利家の視線の先には……
「あっち、苦戦してるな」
「ああ、あっちは勝家殿と長秀殿がいるはずなのに……」
ユナが言っていた信長四天王のうちの2人。ここで失うわけにはいかないよな。
「利家」
「ああ。利家隊と大助隊、今からこの2隊合同で長秀隊と勝家隊の救援に向かう!!
負傷した兵は信長様の本隊に合流して治療を受けろ!! まだ動けるものはついて来い!!」
利家がひと際長い槍を掲げてそう叫ぶ。 勝家と長秀を包囲しているのは美濃三人衆の残りの二人、稲葉良通と安藤守就。強敵だ。だが逆転の発想をすれば、ここで利家と勝家、長秀そして俺の4隊で美濃侵攻の際、最も生涯となる美濃三人衆のうち二人を討てるチャンスだ。十分勝てる戦力だ。
ここで、美濃三人衆のうち二人を討ち果たす。
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