第105話 北伊勢侵攻 荻野の戦い1日目
「絶え間なく撃ち続けろ!!」
俺の指示通り、鉄砲隊は迫ってくる敵騎馬隊に向けて弾丸を放ち続ける。その銃声が止むのは敵の第一陣が完全に壊滅した時だった。
「敵の攻撃が止みましたね」
「ああ、今のだけでこっちの被害はほぼゼロであっちは500人ほどだろ。敵の指揮官がよっぽどアホじゃない限り次は何か策を立ててくるだろうな。警戒は怠るなよ」
「はいっす」
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「こちらの第一陣騎馬隊が全滅だとッ!?」
「は、はい。織田勢の鉄砲隊によりこちらの第一陣500人がほぼ全員討ち死に、それを率いていた武久殿も討ち死に!!」
「クソっ!! 敵は指揮官がいなくなったのではなかったのか、保正?」
伊勢軍の副将・神戸具盛は第一陣全滅という衝撃の報告に怒りと動揺を隠せない。そして暗殺のために雇った忍者の頭を問い詰める。
「配下の忍者から作戦成功の狼煙は届いていたのですが、その者が戻ってきていません。こちらの作戦がそこから漏れたという可能性があります」
「なんだと!? ……これは貴様の失態だぞ、保正。何のために高い金を払って貴様らを雇ったと思っている!?」
「もちろん、伊賀忍者の名にかけて挽回させていただきます。新しく入ったと思われる指揮官を私自ら殺してきましょう。今日の失態を忘れさせるほどの成果を上げてみせまする」
「ふん、最初から貴様が行けばよかったではないか。まあ、いい。だが次失敗したら貴様も配下も全員首を刎ねる」
「そんなことにはなりません。上忍の私が出向くのですから」
藤林保正。伊賀の南の里の上忍。かつて大忍術体育祭で坂井千代松を敗北寸前まで追い詰めた百地丹波と並ぶ若き天才。伊賀でも最強に近い人物が動き出した。
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開戦初日はそれ以上敵が襲ってくることはなかった。今も敵の第二陣と睨み合いが続いているが、今日はもう戦闘がおこることはないだろう。
「報告です!! 中央の悠賀様からです」
「申せ」
「戦況は五分、ですが大吾さまの隊だけは優勢を保っていると」
大吾と悠賀の中央の戦場はここと違い近距離部隊同士の乱戦になっている。人数的には敵方の方が優勢なのにもかかわらず、大吾は優勢を保っているらしい。だが中央を突破して敵将を討つところまではいけないだろう。本来は五分でも十分な戦場だ。勝負の決め手になるのはあくまでもここ、西の戦場と彦三郎たちのいる東の戦場だ。左右どちらかの戦場から中央に兵が雪崩れ込めば、一気に形勢がこちらに傾く。もちろん、逆もまた然り。
「東の戦場の彦三郎様から報告です。東の敵は防御が固く、抜けない、と」
「そうか。ご苦労だった」
東の敵は高い防御力で彦三郎たちが中央に行くのを阻止しているらしい。できれば東側に頑張ってもらいたかったが、防御だけを考える敵を抜くのは難しいことだ。なら、今最も戦いを優位に進めている俺たちがやるしかないか。
「中央に各隊長を集めろ。明日に向けて軍議を開く」
「ハハッ!!」
俺は天弥と氷雨を伴い、中央の本陣へ向かった。空はもう赤くなりつつある。丘の下を見ると大吾たちと敵中央軍が退いていくのが見える。初日はこれで終わりそうだな。
「うわっ!?」
「んッ!?」
「え?」
2人の小さな悲鳴に即座に反応し、俺が振り向くと喉元に短剣が突き付けられていた。
「ッ!?」
慌てて飛びのいた。それと同時に短剣が振るわれた。リボルバーを相手に向け、睨みつける。
「おっ、いい反応してんな。おま、え?」
「いきなり、なんだ? え”っ!?」
そして、互いの顔を確認した俺たちは驚きを隠せなかった。
「保正!?」
「千代松!?」
「な、なんでお前がここに?」
「お、お前こそ!」
そこらの間者なら余裕だと思っていたのに、よりによってこいつかよ!? 俺が今まで会った中でも有数の実力者だぞ。こいつが刺客なら俺は勝てないかもしれない。できるだけ戦わない方向に話を持っていきたい。
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まさか臨時で部隊に入っているのが千代松だとは思わなかった。ただ敵の西部隊に臨時で入った武将を殺しに来ただけだってのに、予想外の難敵だ。確かに千代松は織田へ行ったって聞いていたけどまさかこんな所で会うとは……どうする? 千代松は簡単に倒せる相手ではない。何なら負けれる。むしろ最後に戦った大忍術体育祭では連射できる銃と焙烙なんかで敗れている。それに顔なじみを殺すのはちょっと躊躇われる。
「と、とりあえず、ひ、久しぶりだな、保正」
「お、おう久しぶりだな。千代松」
「お前、今は伊勢の雇われか?」
「ああ、まあな。お前は?」
「俺は今は織田の軍隊長だ」
「ぐ、軍隊長!?」
マジかよ!? つまり敵総大将坂井大助っていうのは千代松のことらしい。元服ってやつか。そんな大物になっていたとは。
「単刀直入に聞くけど、お前いくらで雇われた?」
「え? 何のつもりだ?」
「その倍額だすから手を引いてくれないか? 今お前とやるのはちょっと勘弁してもらいたいし」
千代松もどうやら俺とは戦いたくないらしい。でも伊勢からの信頼を失いたくないな。それに……少し大忍術体育祭のリベンジもしたい、殺さないくらいにボコボコにして伊勢からの信頼を失わずに千代松を殺さない方向で頑張りたい。
そうと決まれば……いや、もうちょっと面白い展開にしたいな。本気の千代松を倒さないと意味ないしな。こういう時は……!!
「無理な相談だな。俺は誇りある伊賀の上忍だ。任務を放棄などするわけないだろう」
「ほ、保正?」
「かかってこい、千代松。お前には悪いがここで死んでもらう。任務だからな」
「……ま、マジかよ……!?」
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