第104話 北伊勢侵攻 開戦の銃声

「雇い主は誰だ?」

「……」

「大吾」

「ハ。オラァァ!!」

「ガフッ!?」


 俺の聞くことに一切答えようとしない忍者に大吾が腹パンで制裁を加える。心優しい大吾にこんなことをやらせてしまうのも心苦しいし、もう隆康を殺した罪で断罪するか。いや、でも他の忍者がいるかどうかだけは聞いておきたい。拷問以外で吐かせる方法は金だけどこいつは断罪が確定しているから金なんて意味がない。うーん、あ! あれを使えばいけるかも。


「おい、これを知っているよな」

「ッ!?」


 俺が見せつけたのは上忍の証の短剣。中忍のこいつは上忍の命令には絶対服従だ。俺の短剣を見て敵の忍びは息をのんだ。


「あ、あなたは何者、ですか?」

「伊賀の上忍・坂井大助」

「こ、これほどの軍の将が……上忍!?」

「ああ。これ以上の質問は禁止だ。聞かれたことだけ答えろ。まずは敵軍にお前以外の忍びはいるか?」

「……3人」

「その中に上忍は?」

「1人」

「よし。次は敵の作戦は? 知りうる限り答えろ」

「敵の将を暗殺して、将がいない部隊を攻め崩す。それ以上は知りません」


 始めこそ渋っていたものの、一つ答えるとぼそぼそと答え始めた。それからもいくつか質問し、答えを聞いた。


「よし、もういいぞ。大吾、連れてけ。最後まで油断するなよ」

「ハ」

「あ、あの上忍殿……」

「ああ、ご苦労だった。もういいぞ」

「えっ?」

「俺たちの隊長を殺したんだ。当然だろ?」

「あ、あ、ああああああ”あ”あ”ぁぁぁ!!」


  敵の発狂する。縛られた手足で暴れ、顔がぐちゃぐちゃになる。いくら忍者でも死に直面すればこうなる。まあ、苦しみを与えずに殺してやるのが一番だろう。リボルバーで眉間を撃ちぬいて一撃で絶命させる。


「殿……隆康は……」

「大吾、もう戦だ。俺は4番隊に入る。大吾は悠賀と協力して正面を頼む」

「……ハハッ」


 大吾にとっては隆康は仲が悪い同僚だったがさすがにこんな別れは思う所ではなかったらしい。あるいは一度は本当に殺し合いしたような仲だが今では死んでほしいほど嫌いなわけではなかったのかもしれない。

 

 俺は隊長不在の4番隊に入り西側の戦場を指揮することになった。さっきの忍者の話が本当だったならば敵が最も集まるのは西側のはずだ。ここに俺の鉄砲隊と4番隊の鉄砲隊を集めて殲滅する。


「お前が副隊長か?」

「はい、隊長森川隆康の弟・森川秀隆と申します」

「辛いと思うが……」

「問題ありません。兄も武人でしたから、こういうこともあるとわかっていたはずです」

「そうか。隆康は良く仕えてくれた。お前も期待しているぞ」

「は、ありがたいお言葉です」

「では、今日の作戦を伝える。丘を下りた場所で俺の鉄砲隊と4番隊の鉄砲隊が迎え撃つ。丘上からは鉄砲を撃てないからな。西側の敵は丘上で戦闘になるだろうからそっちはお前が4番隊の近接部隊の半分を率いて迎え撃て。こっちは足場も悪いから大軍が攻めてくることはないと思う。俺たちの戦場に流れ込まないようにさえしてくれればいい」

「お任せください」

「一応聞いておくけど、本当に大丈夫か? 今まで軍を指揮した経験は?」

「兄上によく任されていましたら、4番隊はまとめて見せますよ」

「そうか、頼むぞ」

「ハ」


 俺は後ろを隆康の弟に任せ、遠距離部隊と近接部隊の半分を率いて丘を降りた。鉄砲隊を前線において敵を待ち構える。ここに攻めてくるとわかっているのだから守るのは容易い。


「ここの正面の敵は副将の神戸具盛っすね」

「要注意、人物。あるじ様、気を付けて」

「ああ、わかってる。天弥は中央寄りの鉄砲隊の指揮、頼めるか?」

「お任せをっす!!」


 ここ数年で天弥は50人くらいの部隊なら率いれるくらいに成長した。中央寄りは俺の部隊だし顔見知りも多いだろうから問題ないだろう。


「あるじ様、私は?」

「氷雨は近接部隊を後方でまとめて防御線を突破した所をカバーしに行ってくれ」

「かばー?」

「援護ってこと。頼めるか?」

「ん、任せて」


 氷雨は実を言うと天弥より優秀だ。個人の戦闘力も天弥よりはるかに高く、指揮もはるかに的確だ。柔軟な判断力が必要な後方予備隊にぴったりだ。


「二人とも、頼りにしてるぞ」

「あざーっす!!」

「ん」


 とにかく二人は優秀な俺の側付きとして活躍してくれている。川中島で連れてきた4人の教育もしていたりする。いずれは部隊長も目指せるかもしれない、特に氷雨。女部隊長ってのもカッコいい。


「じゃあ、二人とも武運を祈る」

「ん」

「はいっす!」


 俺は最も激戦になると思われる西側の鉄砲隊を率いる。設置型の盾を用意し、そこで鉄砲隊が構える。


「来るぞォォ!!」

「鉄砲隊、構えッ!!」


 敵の騎馬隊が迫ってくる。おそらくここは将がいないと思って余裕で倒せると踏んでのことだろう。敵が油断しているときが最大の好機だ。


「引き付けろ」


 あと100メートル。


「まだ撃つな」


 あと50メートル。


「もっとだ」


 あと25メートル。


「まだだ」


 あと10メートル。


「今だぁ!! 撃てェェ!!」


 俺の号令と共に銃声が鳴り響き、周囲の山で反響する。勢いよく走ってきていた敵騎馬隊が馬の泣き声と共に一気に崩れる。俺の持ち場以外の所でも銃声が鳴り響き、敵の最前列が倒れた。


 開戦の銃声が荻野の地に鳴り響く。

 



 

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