第86話 鉄砲隊と殲滅作戦
俺たちは破竹の勢いで犬山城に向かって勝ち進んだ。
もちろん士気の高さだけで突き進んだわけではない。士気の高さは大きな要因のひとつだが当初の想定通り兵の熟練度でも大きな差が出た。こっちの兵は日頃から鍛えてますから。
そしてこっちに大きく有利になった要因が、もう一つある。それは鉄砲隊である。
俺の隊は俺の意向により1番隊彦三郎の500人隊の半数が弓、もう半数が鉄砲を持つことになっている。さらに4番隊隆康の300人隊のうち100人は鉄砲隊だ。そして俺の直属の部下も含めると約400人が鉄砲を持っている。これはこの時代だと最大規模なんじゃないかな。
犬山城側の遠距離攻撃が高台からの弓矢しかないのに対し、射程で圧倒できるこっちの鉄砲隊が輝いたのである。
「殿、儂の出番はさっきので終わりではないだろうな?」
この戦は最初、城外の一部隊を倒しただけであとは鉄砲隊の1、4番隊に任せきりである。近接戦闘向きの2番隊の大吾は最初にちょこっと戦っただけ。そんな状況に口をとがらせて大吾が言った。
「そんなわけないだろ。銃だけ撃ってても城は落ちねえ。城落とすのはお前の役目だよ。その時は頼むぜ?」
「がはは、儂に任せておけ!!」
「ああ、頼りにしてる」
たまたまこの戦はその力を活かせる場面がまだ来ていないだけで大吾率いる2番隊は間違いなく我が隊の主戦力であり最高戦力。ドンと命令されるのを待っていればいいのだ。
「常道、この先敵はどう動くと思う?」
「そうですね、この撃ちあいは明らかにこちらに有利すぎます。敵からするとこの状況を長く続けたくはないはずです。ですが敵の小高い丘上から弓で攻撃するという戦法は本来の戦い方ですから……」
「まずはこっちの鉄砲隊を潰して弓が有利を取れる状況に変えに来る」
「その通りです。ですが敵が城のある丘から降りてくるというのはこちらの銃撃の餌食になることを意味します。なので何かしらの策を使ってくるはずですが……」
その時、砂煙と大きな足音を立て城のある丘から騎馬隊が駆け下りてきた。比較的重装備の騎馬隊。しかも全員が手持ちの盾を持っている。日本の武士は盾を持たないことで知られており、事実、川中島の武田や上杉、桶狭間の今川と織田の際は手持ちの盾に限る話であればだれも持っていなかった。置くタイプはあったんだけどね。
「噂をすれば、だな」
「はい、どうしましょうか?」
「そうだな……そこに戦いたくて仕方ない奴がいるからな。大吾!!」
「は!!」
「今出てきた騎馬隊を鉄砲隊に近づけさせるな。可能なら壊滅させろ」
「任せておけぃ!! 2番隊、出るぞぉ!!」
「「オオオォォォ!!」」
大吾が2番隊を率いて、出てきた騎馬隊に横撃を仕掛け始めた。これでしばらく大丈夫だろう。
「常道、今ので敵の近接部隊は減ってるよな?」
「まあ、そうでしょうね」
「隆康の所の200人と俺の100人で突入したら落とせると思うか?」
「……城攻めにおいて大吾の突破力無しは相当きついでしょう。若個人の戦闘力はすごいですが城を制圧しきれるかというと微妙な所です」
「だよなぁ、大吾が戻ってくるのを待つのが安全策ではあるよなぁ。でも敵もそう思ってると思う」
「かもしれませんね」
「なら裏をかいて今っていうのは?」
「それは信清と犬山城を舐めすぎです。たったの300で落とせるほどあの城は弱くない」
「いや、突入まではこちらの鉄砲隊や弓隊の援護が受けられる。城内を制圧するのは300でもできるんじゃないか?」
「……ですが制圧できなかったら全滅することになります。さすがにリスクが高すぎます」
「やっぱ大吾がいたほうがいいよな。安心感も違うし……いっそ俺も大吾の所に行って速攻で出てきてる部隊を壊滅させてそのまま城攻めっていうのは?」
「……ありですね」
常道は少し悩んだ後、俺の意見を肯定した。
「俺と隆康の近距離部隊で大吾の戦場の敵を壊滅させてからすぐに城攻めを始める。城攻めに行くときの援護を頼む。彦三郎にもそう伝えてくれ」
「了解」
それだけ常道に伝えると俺は4番隊隆康を連れて大吾を追った。だが大吾が向かった方向に2キロ以上走っても大吾たちは見つからなかった。
「どこまで行ったんだあの脳筋!!」
「……確かにおかしいな。もう結構走ってる。もうすぐ犬山城も見えなくなるぞ」
「あ、歓声が聞こえてきましたね」
その言葉通り、戦による刀や槍のぶつかる音と戦独特の歓声が聞こえてきた。
おそらく左側の森の奥だろう。
「行くぞ、隆康」
「は!」
森を迂回し、ついに大吾と信清軍の戦場にたどり着く。戦況は五分といったところか。
「隆康、左側に回り込め!! ここで敵を殲滅する!!」
「は!! 殿は?」
「大吾を見つけ次第、殲滅戦に参加する。この戦はスピードが命だ。とにかく早く殲滅して犬山の城攻めに取り掛かるぞ」
「は!!」
こうして意気込んだ俺達だったが、ここでの戦は思わぬ形で終結することになる。
大吾とも合流して敵の殲滅戦に入った俺達はあっという間に敵の半数ほどを殲滅、無力化した。そしてこの敵の大将と思われる奴が姿を現した。
「信長方の将、坂井大助殿とお見受けする」
「ああ、俺が坂井長之丞大助だ。貴様は?」
「この軍800を預かる将、津山家晴と申す」
「わざわざご丁寧に。一騎打ちでもやりに来たか?」
「いえ、我と我が隊800、大助殿に降伏いたす」
「は? 降伏?」
「ええ。このまま無駄に兵の命を散らせるよりここで降伏したほうが良いと考えました」
まあこのまま戦っても俺たちに殲滅されるだけだしね。正しい判断といえるだろう。
「わかった、受け入れよう。全員から武器を没収し、犬山の俺たちの陣まで来てもらう」
「了解いたした」
こうして犬山城から少し離れた平地で行われた戦は信清軍が降伏という形で幕を閉じた。
俺たちは降伏した約500の兵を犬山の俺たちの陣まで連れていくことになった。そしてこのことが俺たちを思わぬピンチに追い込むことになるのである。
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