第70話 城内鬼ごっこと浅井長政

「お慶様、こちらです」

「ありがとう」

 わざわざ案内してくれた男に笑顔でお礼を述べ、地下の牢屋に入る。男は前に出た俺に黙って後ろについてくる。邪魔だなこいつ。だがこの格好で無下にするわけにもいかず、ついてくることを黙認する。

 俺はたくさんの牢屋の中から利家を探す。

「お」

「え、えっとどなたで」

「しーっ」

 名前を訪ねようとする利家をジェスチャーで制し、連れてきた男に

「この人出してくれる?」

と告げる。

「本当によろしいのですか? 罪人ですよ?」

「前お世話になったことがあるって言ったでしょ? いいからお願い! 父上には私から言っておくから」

「……わかりました。そこまで言うなら」

 男が懐から鍵を取り出し、利家の牢屋を解錠する。

「あ、ありがとうございます。姫様」

 俺の設定にとっさに適応した利家が俺を姫と呼び跪く。もしくは気づいていないだけかもしれないが。

「この人は荷物を返して城から出してあげて」

「御意」

「じゃあ戻りましょうか」

「はい」

 そして牢屋がある地下を出たところに10人ほどの武器を構えた兵士が。そしてその真ん中には俺が先ほど服を剥ぎ取ったお嬢様。

「捕えなさい!! 私の格好をした男は殺してもいいわ」

「え? お慶様が二人?」

「?」

 俺たちを連れてきた男が混乱している。利家もまだ状況が理解できていないようだ。お前は気づいてほしかった。

 ここで俺がとる行動はカッコよく正体を明かして戦闘に移ること、ではなく

「みんな騙されないで!! そいつは偽物よ!!」

と本物を偽物扱いすることだった。

「な!? 私が本物よ!!」

「なら私のほくろの数を言ってみなさい!!」

「簡単よ!! 口の右側、左腕の付け根、右足の太ももの3か所よ!!」

「ぶっぶー! 右足の裏と背中もあわせて5個でした!!」

「え?嘘!? 足の裏にもあったの!?」

 驚いて自分の足の裏を確認するお嬢様。つーかそれで自分の足確認したら俺が偽物だってバレるやろがい。

「利家、逃げるよ」

「え、えっと」

 あ、声もどすの忘れた。っていうかそろそろ察しろよ。

「いいから来い!!」

「あ!大助!」

「気づくのが遅え!!」

 声を戻して利家の腕を引いて敵のかたまりを突破する。

「走れ走れ走れ!!」

「待ちなさい!!」

 お嬢自ら追いかけてくる。鬼ごっこin小谷城のスタートだ。やっぱ服剥ぎ取ったのはまずかったか……。


 小谷城の中を走り回る。すれ違う浅井の家臣がお慶が二人走り回っている状況を見てギョッとする。

 牢屋のある山王丸と中心の本丸はもう抜けて、あとは城門から脱出するのみ。

「利家、あとちょっとだ! 走れ!」

「おう!!」

 もう城門は目の前だ。お慶とその従者はしつこく追ってきている。だが全力で城門を走り抜けて町に入ればなんとか撒けるだろう。問題は城門をどうやって突破するか。中からなので開けられないことはないだろうがもたもたやってる時間もない。俺だけならどうとでもなるが利家は城壁を超えられる身体能力はないだろう。

「利家、壁走れるか?」

「何言ってんだお前!」

 念のため聞いてみたがやっぱダメだった。

「城門、どうするよ?」

「できるだけ急いで開けるしかないだろ」

 構造も知らんくせによくそんなことが言えるな。ん?

 利家の考慮してないことが多すぎる意見に脳内ツッコみを入れていると城門がギィッと音を立て、開かれる。

「大助!!」

「ああ、ラッキーだ!! このまま突破するぞ」

 城門が開いたのはもちろん俺たちが通るから看守さんが開けてくれたわけではない。城の外から入ってくる人を通すためだ。

 城の外から入ってきたのは馬に乗った若い将とその従者4人。肩に鷹が乗っているところから察するに鷹狩にでも行っていたのだろう。

 だが俺と利家はそんなことはお構いなしにすれ違って城門を抜けようと試みる。

「!? 何事だ?」

 その若い将は俺たちを認識すると同時に刀を抜き、一閃。俺と利家はギリギリでそれを回避した。

「え? 姉上?」

 俺を見てそうつぶやく若い将。お慶のことを姉上と呼べる人間は限られている。そこから察するにこの男は、

「あ、長政」

 お慶の弟、浅井長政。高校の教科書にも出てくる有名人だ。

「なんでそんなに急いで? それに今の身のこなし……」

「あ、えーと」

「あ、長政~!! そいつ捕まえて!!」

 俺が何か言う前に本物のお慶が城の方から走って追い付いてきた。

「え? 姉上が二人?」

「そいつ偽物よ!! 早く捕まえないと逃げられる!!」

「ッ!? わかった!! 行けっ!!」

 長政が従者に指示を出す。従者が俺と利家を取り囲み、剣を構える。

「大助」

「大丈夫、この程度どうとでもなる。さっさと脱出しよう」

「おう」

 俺と利家の短い会話が終わると同時に長政が仕掛けてくる。

「いけっ!!」

 長政のセリフで従者が動くのかと周りに気を配るが従者が動く様子はない。なんだ? 

クェェェッーーー!!

「は? おわっ!?」

 襲い掛かってきたのは長政の方に乗っていた鷹。予想外の展開に思わず体勢が崩れる。その隙を逃すまいと長政のその従者が一気に攻撃を仕掛けてくる。

「大助!!」

「大丈夫だ。ちょっとびっくりしたけど、問題ない」

 俺は5人の攻撃を掻い潜り、峰打ちで敵の意識を刈り取っていく。まあこんなところで殺生はさすがに問題になっちゃうからね。

 そして最後に残ったのは俺と利家と長政。2対1という状況まで追い詰められた長政に俺は要求を告げる。

「俺たちはここから無事に出してくれればそれでいいんだけど。これ以上はお互いによくないと思うしここらでお互い手を引くっていうのはどうかな?」

 誰も死んでないうちに平和的解決。なんてすばらしい案なのでしょうか。それを長政は

「いや、罪人と話す価値はない」

とその一言で切り捨てた。

 せっかく人が平和的解決にしようって言ってんのに。

「じゃ、仕方ない。力で解決するとするか」

「望むところだ」

 俺と長政が刀で切り結び、利家はお慶の方の兵士を警戒する。

「今だ、こいっ!!」

 剣戟の最中、長政が唐突に叫ぶ。その結果、俺を後方から襲ってきたのはさっきの鷹。俺はジャンプで後ろに下がって長政を距離を取りつつ、鷹を刀で真っ二つにした。

「貴様ぁぁ!! 僕の阿修羅丸がー!!!!」

 今の鷹そんな名前だったん?

「貴様、ぶっ殺してやる!!」

 そういった直後、涙を流した長政がさっきと比べ物にならない速度で俺に接近し、刀を振るう。俺は命の危険を一瞬で感じ取り、大きくジャンプで下がりながら腰のリボルバーを抜いてとっさに長政に撃ち込んだ。

 パァァァーーーン!!

 銃声が鳴り響き、長政が腹を抑えて蹲る。

 あ、やべ。殺しちゃった? こんなところで殺人事件なんて起こしたら信長にめっちゃ怒られちゃうよ。

 俺は慌てて、お慶の従者たちに長政を治療するように命じる。お慶は弟が撃たれてあたふたとしている。

「大助、今のうちに逃げよう」

「あ、ああ。そうだな。お、お前ら、ちゃんと治せよ!!」

 俺は懐から薬を取り出し、長政の所へ集まる兵に投げ渡す。

「あ、そうだ」

 俺は拝借していた服をお慶に投げ渡し、

「助かったよ!! ありがとう!!」

 俺はそう言い残し利家と共に小谷城を後にした。

「ふ、ふざけんじゃないわよーーー!!!!」

 お嬢様の叫びが小谷城下町に木霊した。さらにその直後撃たれた長政がお嬢様に続いて叫んだ。

「その二人を捕らえろ!! いや、殺せェェ!!!!」

「ご、ごめんなさ~い!!」

「し、失礼しました~!」


 もちろん、それで見逃してもらえるはずがなく城下町を二時間ほど逃げ回ることになった。祈の所に連れて行くわけにはいかないしね。

 長い鬼ごっこの結果、俺と利家は半ば追い出されるように小谷城の城下町を後にした。いや、半ばどころかほぼ追い出されたんだけど。


 後に聞いた話だが浅井は一時は結構危ない状態になったが、結果的には助かったらしい。そしてどこの者かもわからない俺に復讐を誓って鍛錬を続けているらしい。


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 10万PV突破ありがとうございます!!

 まさかこんなに伸びるとは……。

 これからも精進いたしますので応援していただけると幸いです。

 

 



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