第69話 小谷城侵入と紳士的

 さすがに利家を置いていけるわけもなく、俺たちは小谷城の城門に来ていた。

「あの、ですから彼は本当に攻めようなんて考えているわけではなくてですね、その、そういうのを考えるのが趣味なだけなんですよ」

 と、謎の言い訳をかましつつ門兵さんの表情をうかがう。

 門兵さんはさっきからと何も変わらぬ表情で

「うるさい!! ここではそういう決まりなのだ!!」

 と怒鳴るばかり。

「ご主人様、これは何を言っても無駄なのでは?」

「だな。また出直そう。あの、死刑の可能性はさすがにないですよね?」

「ああ、ない。5年投獄くらいだろう」

 ちょっとした雑談で5年かよ。そうツッコみたくなったがまた怒鳴られるのでやめておく。俺たちは頭を下げて宿へ戻った。


「どうしよ? あれ何言っても出してくれないやつだよ」

「そうですね。さすがに5年は可哀そうです」

 2人でも良い案は出てこない。

「やっぱ俺が潜入してこっそり救出してくる?」

「確かにご主人様なら牢屋まではバレずに侵入できるでしょう。ですが戻る時は利家様が一緒です。ご主人様と違って忍者の修業を受けていない利家様がバレずに脱出は不可能でしょう」

「そうなんだよな~」

「やっぱり置いて……」

「いや、さすがにダメだろ」

「ですよね。じゃあ城主の浅井久政殿にお願いしてみるというのは?」

「信長様の使者ってんならともかくさすがに素性も明かさない俺達だと会ってくれないだろうな」

 今回の旅はあくまでもお忍びだ。信長様に迷惑はかけられないし、もちろん利家を置いて帰るわけにもいかない。

「やっぱり俺がこっそり行って救出してくるよ」

「でも見つかりますよ? どうするんですか?」

「なんとかするよ。祈は町の入り口で荷物まとめていつでも出れるようにしておいて」

「わかりました。万が一死にそうになったら利家様を置いてでも逃げてきてくださいね」

「わかったよ。大丈夫さ。利家もちゃんと連れ帰ってくるよ」

「はい。旦那様」

「っ!?」

 唐突な旦那様呼びに少し驚いた。祈はニコッと微笑むと

「では、ご武運を」

とだけ言った。

「いや、戦うって決まってるわけじゃないから。じゃ、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃいませ」

 いざ、小谷城へ。

 

 小谷城は山のいろんなところに建物が立っている城である。その中で牢屋がどのあたりにあるかわからない。そこで俺は一つ作戦を立てた。堂々と城の中を歩き回れる策だ。

 俺は作戦通りこっそり城内に入ると城主たちの居住スペースにやってきた。天井裏から部屋の様子を伺い、目的の部屋に侵入する。そして誰もいない部屋で戸棚や押し入れを開け、目的のものを……あれ?ない。戸棚という戸棚を開けて回るがない。そして俺はそのものを探すあまり部屋に入ってくる人に気づかなかった。

「ふう、つかれt、え? 誰?」

 部屋に入ってきたのはこの城の城主、浅井久政の次女・お慶。彼女は彼女の部屋を漁っている俺に疑惑の目を向ける。

 俺はとっさに従者を演じることにする。

「あ、失礼しました。実はある所でお嬢様の服に危険物が仕込まれていると聞きましたのでお嬢様が気づかぬうちに取り除こうと……」

「あ、あらそうなの? ちなみにあなたどこの所属?」

 まだ疑惑は晴れない。

「あ、私は……」

 浅井の武将、浅井の武将……誰かいたっけ? 全然知らねえ!!

「久政様の直属ございます」

「父上の、ねぇ? あなた、嘘つき」

 な、なぜバレた? 表情は一切変えなかったし、まさか久政の家来を全員覚えているとか? そんな馬鹿な。こいつお嬢様だぞ?

「い、いえ本当です。先日配属された……」

「誰か!! この人侵にゅッ!?」

 叫んで人を呼ぼうとしたお嬢様を慌てて抑える。口をてぬぐいで縛り猿轡替わりとして、寄ってきた従者に声まねで「なんでもないです」と伝える。

 俺の高度な声まねに驚いているお嬢様を見て、俺は尋ねる。

「ねえ、服ってどこにある? 俺探してるんだよね」

「んんんんんんんーー!!」

 だめだ、全然わからん。でも猿轡とると叫ぶしな~。どうしよ。

「あの、猿轡とっても叫ばないって約束できます? 叫んだら刺すってことだけは言っておきますけど」

 全力で頷くお嬢様。

「聞かれたこと以外喋らないでくださいね?」

 再度、全力で頷くお嬢様。それを見て猿轡を外す。

「誰かー!! 侵にゅッ!?」

「あ、なんでもないです!!」

 猿轡外した途端、叫びやがったこのクソ女!! 慌てて声まねでごまかす。

「あー、どうしよ。ってか服が欲しいなら」

 目の前にあるじゃん。

 俺は黙ってお嬢様の上着に手をかける。

「んんん!?んんんんん!!」

「大丈夫、俺は紳士的だから。服を取るだけだ」

「んんんんんんんんーー!!」

「ごめん、ちょっと何言ってるかわかんない」

「んんん!!」

 そんなことをしている間にも俺はお嬢様の帯に手をかけ、ほどく。一枚ずつ丁寧に服を脱がしていく。そして現代で言う下着姿になったお嬢様を縛り上げ、押し入れに入れた。最後に寒そうだったので俺の着ていた上着をかけてあげる。ね? 紳士的だったでしょ? ちなみにこの間全く変な気は起こしていない。

「じゃ、ありがとね。そのうち見つけてもらえると思うよ」

「んんんんんんー!!!!」

「じゃあまたいつか」

 俺はそう言い残し、押し入れを閉める。そのまま天井裏に戻り今剝ぎ取った服を身に着ける。髪や顔を頑張って再現し、廊下に出る。今の俺は浅井お慶。これなら城内を自由に歩き回れる。

 偶然通りかかったそこそこいい恰好をした男に聞いてみる。

「あの、今日城下町で捕まった長身の男を知らない?」

「あ、お慶様。申し訳ありませんが存じ上げませんなぁ」

「私が以前、世話になったことのある人なのかもしれないの。でももし違ったら怖いから牢まで一緒に来てくれない?」(可愛い感じを出しながら)

「は、はい。では行きましょう」

 顔を赤くした男が先導して歩き始める。

 ご苦労ご苦労。

 さぁ、救出しに行きますよ~~


______________________________________


 俺は黙ってお嬢様の上着に手をかける。

「ちょっと!? 何すんのよ!!」

「大丈夫、俺は紳士的だから。服を取るだけだ」

「どこが紳士的だーー!!」

「ごめん、ちょっと何言ってるかわかんない」

「死ねー!!」


「じゃ、ありがとね。そのうち見つけてもらえると思うよ」

「死ね死ね死ねー!!!!」

「じゃあまたいつか」



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