第68話 関東の情勢と3人の旅
今川義元が織田信長に桶狭間の戦いで敗れ、討たれた。この事実は日本中に大きな衝撃と影響を与えることになった。その中でもとりわけ影響が大きかったのは関東甲信越であった。
この地域は甲斐の武田、相模の北条、駿河の今川の甲相駿三国同盟と関東管領の上杉憲政、そしてそのバックにいる越後の長尾景虎が以前からバチバチにやり合っていたのだが、織田信長に三国同盟の一角たる今川義元が討たれたため、その敵の越後の長尾景虎を勢いづかせることになった。
1559年、越後の長尾景虎は今日の足利義輝に正式に関東管領に任命され翌年に関東へ出陣した。相模の北条氏康討伐のためである。景虎は10万の大軍で北条氏康の居城である小田原城を取り囲んだ。だが結果は失敗。小田原城の守りが想像以上に堅く、その間に甲斐の武田晴信が川中島に海津城を築き、越後方面が脅かされる可能性がでてきたからである。長尾景虎は鎌倉の鶴岡八幡宮で上杉政虎と改名し、関東管領の就任式を行なった後、越後へ帰還した。次は武田晴信との戦である。
「川中島の戦いが見たい」
年は明けて1561年の春。まもなく越後の上杉と甲斐の武田の戦が始まるという話を聞いて俺はそう思った。川中島の戦い、戦国の戦の中でもトップクラスに有名な戦いのひとつである。甲斐の虎と越後の龍、現代では戦国武将の中でも最も人気な2人の直接対決。せっかく見れる時代にいるのに見ないてはないだろう。そう思い、俺は自分の心のうちを祈と銃を教わりに来ていた利家に打ち明けた。
「見たいって言ってもな〜、川中島って結構遠いぞ?」
「それに戦場は危険です」
2人は反対よりの意見のようだ。
「それに川中島の戦いっていうとなかなか戦闘にならないって有名だぞ?」
「え? そうなの?」
っていうか川中島って何回もあんの?
「これまで3回あったけどどれも決着がつかないでお互い撤退してるんだ。派手な戦闘も起こったことはないし、期待してるようなものは見れないと思うぞ?」
「うーん」
そうなのか。川中島の戦いっていうと上杉謙信と武田信玄が一騎打ちする像が思い浮かぶけど。上杉謙信が馬の上で剣を振り上げてるやつ。
「ご主人様はなんでそんなに見たいんですか? 去年の小田原城攻めの時はそんな事なかったのに」
「いやだって! 甲斐の虎と越後の龍だよ!? その直接対決!! これは見るしかないでしょ!」
「うーん」
「あー、まぁ」
なぜ伝わらない!?
「お願い!! 見るだけだから!!」
「えー」
「ほ、ほら! 利家! 信長様が天下を目指すならどっちもいずれ戦うことになるだろ? 偵察しといてもいいんじゃないか?」
「まぁ、確かにそうかもな。でもそれは偵察兵とか草の者とかでいいんじゃ」
「や、やっぱり自分で見るのが1番確実だろ? それに俺は特別上忍だ。今ならこんな頼りになる俺がタダで!!」
「あーもう、わかったよ! 行けばいいんだろ行けば!!」
「よっしゃ! 祈は?」
「いや私は遠慮・・・・・・」
「俺、祈がいないと生きていけない」
「あーもう! 仕方ないですね!」
チョロ。
「祈ちゃん、チョロすぎない?」
「そっ、そんなことは!」
呆れる利家。否定する祈。
「よし! じゃあ明日出発だ!」
「「おー」」
棒読みすぎん?
翌日、俺たちは信長に連休を貰って信濃に旅立った。移動手段は荷台みたいのが付いた馬車だ。俺か利家が操縦して残りの2人が荷台に乗って移動。片道一週間弱の旅だ。
ルートはまず大垣から琵琶湖沿いの都市、長浜へ。琵琶湖沿いに北上して敦賀、日本海沿いに越前、加賀、越中と進んでいき、越後から信濃へ。かなり遠回りだが東海道は今川、中山道は斎藤がマークしていて庶民ならともかく、俺や利家はリスクが高いという判断だ。近江はまだ織田への警戒があまりされていないのだ。
「おー、これが琵琶湖か」
近江の長浜に到着した。今日はここで宿を取ることになる。
「湖、なんですね。海かと思うほどです」
「っていうか長浜って城なかったけ?」
「聞いたことないな」
「私もです」
あれ? 長浜城ってなかったっけ? 俺の記憶違いだったか。それかまだ築城されてないとかかな。
「とりあえず宿を探すか」
「そうですね」
俺たちは長浜で一泊し、翌日は琵琶湖沿いに北上し始めた。
翌日、俺たちが到着したのは浅井氏の拠点、小谷城である。小谷城は標高495メートルの小谷山に築かれた巨大な山城である。
「これが日本三大山城のひとつ、小谷城か」
「なんというか、すごいですね」
山にいくつかの建物が立てられていて。それが繋がっている。
「これ、攻めるのは相当厄介だぞ」
「おい利家、攻めるとか言うなよ!! そういうこと言うと……」
「おいお前たち!! 今何と言った!?」
あー、この展開は……。
「お前たち!! 怪しいな、どこの者だ?」
「いや、あの僕たちはただの旅人で……」
「この近江、小谷の地に怪しい奴はいてはならん!!」
「今すぐ城に連行する!!」
「ちょ、ちょっと待って。俺たちはただ旅の道中ここに立ち寄っただけの……」
「そうです! ご主人様は何も悪いことしてません。変なこと言ったのは利家様だけです!!」
「え? っちょ!? 祈ちゃん?」
嘘やん。とっさに利家だけを生贄として差し出す祈。
「お前何者だ?」
「あ、あのえっと俺は……」
信長の名前を出して迷惑をかけたくないのだろう。利家はなんというか言葉を選んでいる感じだ。
だがそんなことをしている間にも浅井の兵と思われる者たちに利家が後ろ手で縛られ、連れていかれる。
「と、利家~~!!」
「ご、ご主人様、どうしましょう?」
「何とかして救出しないとな」
「でもここであまり問題を起こしたくないですね」
「そうなんだよな。信長様に迷惑はかけらんないし」
「そもそも問題を起こしたのは利家様なのですからご自分で何とかされるのでは?」
「まあ、それが一番いいんだよな」
祈の言う通り、変なことを言って捕まったのは利家である。自業自得だ。
「置いていきませんか? ご主人様」
「え?」
「利家様ならきっとご自分で何とかされるでしょう。それにこんな所でもたもたしていたら戦を見るという今回の目的が果たせなくなります」
とんでもないことを言い出す祈。
「いや、それはさすがに……」
「私と二人きりじゃ……ダメですか?」
ぐはっ!? 可愛さに負けた。
「……置いていくか」
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