第46話 元服と至上命題

「ほう、そう来るか……。やるな、千代松」

「ありがとうございます」

 ある日、俺は信長の遊び相手として清洲城に来ていた。今は囲碁で遊んでいる。囲碁っていうゲームは小学生の頃、昔の遊びに触れてみようみたいな授業でやったとき以来。ルールすら怪しいレベルだったが、信長が暇なときに呼び出され続け、今ではそこそこの実力になりつつある。

「ところで千代松。お前に一つ相談というか提案?があるんだが」

「なんです?」

「千代松、そろそろ元服しないか? もう17だろ?」

「元服?」

元服。現代風に言うと成人である。15歳くらいでする人が多い。17は相当遅い方なのだが……

「何か思うところがあるのか?」

「元服するとなれば名前を変えなくてはならないでしょう?でも名前って父上が決めるじゃないですか……」

元服すると幼名を捨て、新しい名を名乗ることになる。例えば信長の幼名は吉法師だし利家は犬千代だ。そしてそれは父親が決めるものらしい。だが今俺の父親は行方不明である。

「ああ、それなら問題ない。俺が付けてやろう」

「え?」

確かに主君が名前を付けるケースもあるらしい。だが信長につけられるのは勘弁してもらいたい。何故なら、信長はネーミングセンスが壊滅的なのだ。あれは1月ほど前のこと。信長に嫡男が生まれた。信長がその可愛い赤子につけた名前は何とびっくり”奇妙丸”。理由は顔が奇妙だから。生まれた赤子が可哀そうである。この流れで行くと俺はきっと射撃丸とかにされてしまう。しかも幼名と違って一章名乗る名だ。それだけは何としても避けなくては!!

「いや、えんr」

「よし、千代松に俺の”信”の字をあた……いや、やっぱりやめた。うーん……」

何か悩みだした。そうだ、せっかくつけるならちゃんと考えろ!

それから約3分後。

「よし!千代松!お前は俺を”大”きく”助”けるで大助だ!!」

ほう、なかなか悪くないんじゃないですか?

「一応、大膳の大の字も入れてやろうと思ってな。最初は俺から信の字を与えて信縄のぶつなにしようかと思ったんだがな……。ほら、火縄銃の縄からとって」

「なら大助の方がいいですね。なんか優しそうな印象を受けますし」

「そうだな。じゃあ次は仮名(簡単に言うと呼び名。例・源義経、坂本直柔など)だ。そうだな……」

「多いのは太郎とか左衛門とですかね?」

「それだと普通過ぎる……」

普通でいいんだけど!?何ちょっと捻ろうとしてんの!?

「それに信か長のどっちかを入れたい」

「……なるほど?」

「”長”の字を与えて長之丞というのはどうだ?」

「長野城みたいっすね」

「うーむ……。では長之進は?」

どうやら之進や之介、之丞というのは最近のトレンドらしい。まあありかもな。いや、なら長之丞のほうが響きがいいな。

「やっぱり長之丞でいきましょう」

「いいのか?長野城みたいだぞ?」

「響きがいいので」

「……よし。では千代松、今日から坂井長之丞大助と名乗るがよい」

「はっ!素晴らしい名前をありがとうございます!!」

こうして俺は元服した。


「で、結婚はどうするんだ?」

「はい??」

「いや、だから結婚。長秀の所の妹はどうなんだ?」

がはぁッ!?いきなりど真ん中をド直球で撃ちぬいてくる。

「う、上手くやってますよ」

 今の俺にはそう答えるのが精一杯だった。そんな俺に信長は容赦しない。

「いや、だからそうじゃなくて結婚だよ。どうなんだ?相手としては?」

「……あんないい子とは初めて会ったっていうくらい、素晴らしい人だよ」

きっと俺の顔は赤くなってると思う。だって熱いもん。

「そうか、ちなみに俺の妹の市はどうだ?美人だぞ?」

そういえばあったなそんな話。

「市ちゃんまだ10歳とかでしょ」

「もうそろそろ結婚もできる年だ。俺と家のつながりができるのは悪くないのではないか?」

「あれは父上が裏切る可能性があったための政略結婚という話では?」

「まあ当時はそうだったが。お前なら妹をやってもいいということだ」

悪くない話なのだろう。でも祈は? それに祈と祈じゃない人の二人妻にして伊賀に戻ったとき、もみじはどう思う?そう考えると答えは一つだった。

「俺は、好きないのりと結婚したいです。俺は家のつながりなんてなくても信長様に一生仕えます。それじゃ、ダメでしょうか?」

俺は今日1、いや今年1、いや生まれて1番真剣にそう言った。その声は弱々しかったけど、その意志はしっかりと信長に伝わった。

「そうか、市をいらんと申すか」

「け、決して市様が嫌とかそういうわけではありません!!た、ただ……」

「ああ、わかってる。わかったよ。俺は家のつながりなんてなくてもお前が裏切るなんてこれっぽっちも思ってない。だが、改めてよろしく頼むぞ!!」

「はい!!俺が必ず、信長様を天下まで守り続けます!!」

 明智光秀なんかに信長様は殺させない。本能寺の変は阻止する。

 これが俺の至上命題。俺が必ず信長を救い、俺の知る歴史では叶わなかった信長の天下の夢を叶えるんだ。

 

「よし!では長秀の所へ行こうか!!祈も連れてな!!」

「え、ちょ!!」

急展開。俺は信長の後を慌てて追う。果たして信長は何をする気なのか。大方の想像はつく。でもちょっと待って欲しい。心の準備がぁぁぁ!!!!




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