第47話 プロポーズと義兄
「それで、どうしたんですか?急に来て」
俺と信長、そして祈の3人は清州にある新築の丹羽長秀邸を訪れていた。
「それがな、千代松改め大助がお前に大事な話があると言うから連れてきたのだ」
「ほう」
丹羽長秀が俺を見る。やめて!そんな見ないで!俺はそんなこと言ってない!勝手に連れてこられただけなんだ!
ど、どうしよう......。今、「祈さんと結婚させてください!!」なんて言えたら苦労しねぇよ!!まだ好意すら伝えてないんだぞ!!
「元服したんですね。おめでとうございます」
俺がなんて言おうか悩んでいると先に長秀に声をかけられた。
「ありがとうございます。これからは坂井長之丞大助と名乗ることになります」
「いい名前ですね。ご自分で考えたんですか?」
「いえ、信長様が考えてくださいました」
「はは、ご冗談を」
冗談じゃないんだけどね。
「それで私に何か用ですか?」
「ええ、まあ」
「お聞きしましょう」
待って欲しい。まだ心の準備が……!!
それに祈にも何も言っていない。ここで長秀に「妹さんを僕にください!!」っ言って祈にフラれるなんてことが有り得るのだ。
「ちょ、ちょっとその前に、えっと……か、厠に……。い、祈!ちょっと来てくれ!」
「え?ご主人様なんでです??厠なら……」
「いいから!!」
祈の言葉を遮り、祈を連れて部屋を出た。
2人が出ていった部屋には信長と長秀が残される。
「ははぁ、もしやこれはそういうことですかな?信長様」
「ああ、そういうことだ。前々からお前も望んでいただろう?」
「そうですね。でもいざこの時が来ると兄としては少し複雑ですな」
「まだ来ると決まった訳では無いぞ?お前の妹に千代松、じゃなくて大助がフラれるかもしれん」
「それは無いでしょう。あの子はいつも千代松殿のことを楽しそうに語りますからな」
「では後は大助の勇気しだいか」
「ですな!ハハハ」
「フハハハハハ」
何かをわかりあった二人の主従の笑い声が大助と祈の出て行った部屋に響いた。
「ど、どうしたんですか?ご主人様!急に」
「ちょ、ちょっと大事な話が……」
「大事な話、ですか?」
「あ、ああ」
「なんですか?わざわざ兄さんの家まで来て」
「それは信長様に無理やり……」
「ふーん……それで話とは?」
「あ、あのえっと……」
脳をフル回転させ続く言葉を考える。心臓が高鳴る。心音が祈に聞こえてないか心配になるほどに。
「……俺は祈が好きだ。だから、け、結婚しないか?」
前世であれだけラブコメを見ていたのに出てきたのはそんな単純な言葉。
その言葉に祈の顔は赤く染まる。祈はたじたじになりながらも言葉を何とか紡ぐ。
「わ、私でいいんですか?正妻の子じゃなくて、家でも厄介者扱いされてて」
「いいんだよ、祈以上に俺にふさわしい人はいない」
「ふぇぇ」
「俺は祈と一緒に生きたい」
「ふぇぇぇ!?」
「だから、俺と結婚してください」
そう言い切った。祈はたじろいでいる。
「これからも祈を守っていきたい。できれば祈に支えて欲しい」
「……嬉しいです、とても。……私も、ご主人様が好きです。こちらこそ、よろしくお願いします」
祈は笑いながら涙を浮かべて、そう言った。
信長と長秀がいる部屋に戻り、俺は長秀に頭を下げた。
「妹さんを僕に下さい!!」
はっきりと、そう言った。ちょっと古臭いセリフかもしれない。でもそうとしか言えなかった。
長秀の表情には優しい笑みの中に少しの驚きがあるように見えた。
「ええ、もちろんですよ。前々から言っていたように私はそれを望んでいましたから」
「え?いいんですか?そんなにあっさり」
「ええ、あなたになら何の心配もなく妹を任せられます」
そんなに信用されるようなことをしただろうか。
「ご期待に沿えるよう、頑張ります」
「ええ、祈に何かあったら私が許しません」
ふぁっ!?今一瞬めちゃめちゃ怖かった。表情は変わらないのに、言い知れぬ圧力があった。
「もちろんです。任せてください」
だがその圧力に負けず、俺はそう言い切った。
その言葉に長秀は微笑むと、
「では、妹をよろしくお願いします」
「はい」
「兄さん、その、今までありがとうございました」
「うん。祈、大助殿のもとで頑張るんだよ」
「はい」
「おめでとう、二人とも」
「ありがとうございます。信長様」
信長様の言葉にお礼を言い、祈も頭を下げた。
こうして俺と祈は、結婚した。
「そういえば大助殿に聞いてみたいことがありました」
「何でしょう?」
「祈の服装のことですが」
あ!?そういえば俺の趣味でずっとメイドの格好だった!!見慣れすぎて忘れてた!?
もしかしてこんな格好させたことに怒ってる?それで婚約破棄とかないよね?
一つ言い訳するとこの格好は祈の意志でもあるんだ!!最初に着せたのは確かに俺だけど、それ以降は強制してない!!
「この服……」
「あ、あのえっとこれは……」
「すごくいいですね!!」
「え?」
「なんというかこのすかーと?のひらひら具合というか、この白いタイツもスタイルの良さを引き出していて……!!」
「ですよね!ですよね!」
この服を着せた時から思っていたんだ。こんなにメイド服が似合う人はいないと。きっと千年に一人、いや一万年に一人の逸材だ。
「胸が強調されているのはいただけませんが」
ヒィィィ!?!?
「この服、何着かいただけませんか?うちの従者にも着せてみようかと」
「あ、はい。今度持ってきます」
その後、丹羽長秀の館がメイドカフェのような様相になったのは言うまでもない。だがこの事実は当然のごとく、歴史書から抹消された。
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※丹羽長秀の館がメイド喫茶の様相になったという事実はありません。
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