第44話 槍の又左と戦国の砲術家
3対1。しかも相手は槍の又左、戦国の砲術家、そして織田家の頭領。
利家の槍の実力は2年半前に身をもって知っているし、師匠は言わずもがな。信長は剣も達人級だし、銃も免許皆伝を貰っている。過去一厳しい戦いになるかもしれない。
3人と向かい合う俺。前衛が槍を装備する利家、中衛が刀と銃を持つ信長、後衛が銃を装備する一巴師匠。それに対する俺はリボルバー、刀、焙烙火矢、煙玉などなど。俺は相手を観察しながらどう戦闘を展開するか考えた。
「じゃあ、15秒後に始めようか。開始のタイミングで銃を空に撃つ」
そう一巴師匠が発言し、互いに構える。
・・・・・・・・・・・パァァーーン!!
合図の銃声とともにお互いが動き出す。
利家が突っ込み、信長が銃の引き金を引く。
だが俺は多人数と戦う術を知っている。分散させて、各個撃破。単純だがこれにつきる。俺は煙玉を複数個、利家と俺の間にたたきつける。これで銃は使い物にならない。まずは利家からだ。
正面の煙に影ができ、その直後に利家が現れる。
「援護は期待できないぜ?1対1だ」
「望むところだ」
俺はリボルバーの引き金に手をかけ、利家は槍を構えて走り出した。
「あああぁぁぁ!!」
利家が大声を出しながら、大きく槍を振る。俺はそれをジャンプで利家を上を飛び越えることで回避。利家の真上のタイミングでリボルバーの引き金を引く。この距離だ。外れるわけがなかった。なのに避けられた。軽く一歩下がっただけで、最小の動きで回避された。
「マジかよ?」
「どうしたんだよ?そんなに驚いて」
利家が槍をくるくるとまわしながら聞く。
「いや?なんでも?」
「じゃ、次行くぜ?」
「ああ」
俺は右手に刀、左手に銃という丹波と戦った時のスタイルで向かってくる利家を迎えうつ。突き出される槍を刀で弾き、銃を撃ちこむ。利家の槍は以前よりはるかに早く、研ぎ澄まされていた。だがそれは俺も同じ。いや、成長幅で言えば俺の方がはるかに上だった。
1分経つ頃には利家はボロボロだった。だがまだ戦う意思はあるようだ。槍を構えて大きく振って構える。
「おおおぉぉぉ!!」
また大声で利家が突っ込んでくる。また槍と刀で打ち合う。その次が今までとは違った。利家は俺との体格差を活かし槍で俺の動きを封じ込める。
「なっ!?」
(この方法は使いたくなかったんだがな……)
利家は何かを小さい声で呟いてから、大きな声で叫んだ。
「信長様!!ここです!!」
「よくやった!又左!!」
薄れた煙の中からそう叫びながら飛び出してくるのは、刀を振り上げた信長。慌てて回避しようと利家を押しのける。その瞬間、左手の二の腕に衝撃を受けた。見ると赤いペンキが付いている。撃たれた。師匠!! なんで!?煙がいつもより明らかに早く消えかかってる。さらにその衝撃のせいで刀を避けきれず左腕に浅く切り傷を受ける。
「クソっ!!」
「「まだだ!!」」
利家と信長が息ぴったりで俺との距離を詰めてくる。師匠もこっちを狙っている。煙玉はもうない。ガチやべぇ。
信長と利家の連携による連撃。さらに師匠による狙撃。俺が防戦一方になるのは必然だった。煙があれば違うんだけど……。おそらく利家が普段より大きく槍を振ったりしたことでいつもより早く消えたのかな?とにかく煙に入らないと師匠の狙撃がやばい。ということで俺はまだ煙が残っている方を信長、利家コンビの攻撃をいなしながら目指す。
「どうした千代松!!下がってばっかだなァ!!」
「そろそろ、仕留める!!」
勢いに任せ突進してくる2人。
「甘い!!」
俺は身を低くし、素早く二人の足をはらう。体勢が崩れた信長の背中に銃の持ち手のあたりをたたきつけ、信長は地面に落ちる。これは前にさくらがもみじを倒した技だ。今回は利家がいるため捕まえには行けない。
俺はリボルバーを遠くで狙っている師匠に威嚇の意味で放ち、そのまま煙の残っている場所に入る。
これでひとまず安心だ。一度落ち着いてリボルバーをリロード。とはいってもこのままここにいても煙が消えて負けるだけだしどうにかしないとな。
パァァーーン!!
「おわっ!?」
弾丸が俺のちょっと前を飛んで行った。闇雲に撃ってきた。
「見つけた!!」
「やばっ!?」
利家が槍を突きだしてくる。さっきの弾丸に驚いて声出しちゃったから位置がバレたっぽい。それを避けるとその時には後ろで信長が刀を振り上げていた。
「取った!!」
「……っ!!」
慌てて刀で受ける。だが受けてしまっては後ろに隙ができる。そして後ろには利家。
そこで俺の取った行動は愛銃を投げ捨て、
「火遁!!」
術でその場を脱出する。煙から飛び出し、さっき弾丸が飛んできた方向に向かって大きく跳躍する。まずは師匠を!!師匠に焙烙を投げつけ、俺は爆発に巻き込まれないように一歩下がる。
「おらァァァ!!」
「はぁッ!?」
追ってきた信長の剣を慌てて避ける。そこに利家の槍が突き出される。
過去一の大ピンチ。だというのに俺は冷静だった。俺の体勢は避けた直後にもかかわらず一切乱れていない。ここから繰り出される最速最強の剣技。
「”一之太刀”!!」
きらめく剣閃が利家の槍の柄を両断する。
「なッ!?!?」
利家の顔が驚愕に染まる。俺も驚いているよ。叫んだはいいものの本当にできるなんて思わなかったんだ。俺は2人と距離を取り、刀を構える。
「又左!!」
「っ!?心得た!!」
利家の後ろにいた信長が叫び、利家と意思を疎通させる。何だ?
利家はしゃがみ、斬られた槍を頭の上に固定する。信長はそこに走り寄り、足をかけ大きくジャンプする。小学生男子が誰もが憧れる連携技の定番のアレ。実際見てみると感動するところもあるが、そんなことをしている場合ではない。俺は刀を構え、先ほど同様”一之太刀”で撃墜を試みる。
パァァーーン!!
そんな考えは銃声とともに背中に走った衝撃でかき消された。狙撃された。誰に?一人しかいない。
「師匠!?」
直後信長の刀が俺に振るわれ、俺は吹き飛んだ。
「安心せい、峰打ちじゃ」
あ、それ本当に言うんだ……
そんな考えを最後に俺は気を失った。
「マジ強かったな」
「ああ、あんなの1対1で勝てるやついるんでしょうか」
「だね。弟子の成長が嬉しいはずなんだけどなんかすごく複雑な気分だ」
そんな話声で目が覚める。
「あ、起きた」
「あれ?俺……」
「俺たち3人に負けたんだよ」
「ああ、そっか」
「千代松もまだまだだな」
「そうですね。これからも精進します。イテテ」
胸についた赤い痣。峰打ちで助かった。
「千代松、強かったぞ」
「利家も。何回危ないと思ったか」
「だろう?俺も槍の修業だけは毎日欠かさないからな」
「最後の連携技カッコよかったな」
「ああ、あれは……」
「だろ!!あれは俺と又左の必殺技だ!!」
恥ずかしそうにする利家と逆に自慢げにする信長。
「へー!!」
ちょっと幼いような気もするが。
「千代松は剣も上手くなったな!」
「僕も驚いたよ。”一之太刀”だっけ?」
信長の誉め言葉に支障が追随する。
「ああ、あれは剣聖様に教えてもらった技だ。俺もまだ2回しかできたことない」
「2回?初めては?」
「俺が帰ってきた日に信長様に向けて振ったときのです」
「ああ!!あの時も早かった!!」
「お前っ!なんてもんを信長様に向けて使ってんだ!!」
「そ、その節は大変……」
その日は3対1の勝負の反省と様々な雑談をして大いに盛り上り、家に帰るころには外はすっかり暗くなっていた。
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戦闘シーンって書くの難しいですよね……
次回は久しぶりの竹千代回!!お楽しみに!!
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