第18話 かつての友

 父上は俺に「実力を見せてみろ」と言った。そこで試練をすることになった。坂井大膳配下で最も腕の立つ10人の兵士との戦闘。それで俺の技量を測るらしい。


 結論から言おう。余裕でした。忍者である丹波や橘先輩と訓練してきた俺からすれば武士の動きはわかりやすすぎた。馬鹿正直に声出しながらまっすぐ剣を振ってくるし、火遁なんかのちょっとした小細工にも面白いほど引っかかってくれた。そりゃあもう瞬殺でしたよ。殺してないけど。こうしてみると剣聖がどれだけおかしかったかよくわかる。同じような流派でも動きのキレが全く違う。あのただ飯ぐらいの爺さんが異常だった。あいつ、弾丸はじいて刀を真っ二つに斬ったし。



「どうですか?父上」


 俺は今の試練(蹂躙)を見て驚きが隠せない父に話しかけた。


「ああ、恐れ入った。お前ほど強い奴はこれまで見たことがない。まさか、俺の息子がこんなバケモノになっていようとは」

「バケモノとは失礼ですね。それに僕は僕なんかより強い人を何人も知ってますよ。伊賀忍者の皆や剣聖とかは僕とは比べ物にならないバケモノでした」

「類は友を呼ぶということか・・・」


 本当に類と言っていいのか?あいつらは俺なんかとは比べ物にならないぜ?


「わかった。お前のいう通り、那古野に行き信長に降る。頼むぞ?千代松」

「はい!父上」



 家に戻り、支度をする。完全武装だ。


「ご主人様、那古野へ戻るのですか?」

「ああ、すぐに戻る。でも危ないかもしれないから祈はここで待ってくれる?」

「危ない、というと?」

「父上が道中狙われる可能性があるから。俺はその護衛」

「護衛ならいくらでもいるでしょう!なぜご主人様が?」

「それは、、俺が強いからだよ。俺が行くのが1番確実だ」

「っ!でも、、」

「大丈夫だよ。俺は強いから。心配いらない」


 祈は俺がわざわざ行くのが心配なようだ。そのちょっと怒ったようでちょっと不満そうな顔がとても可愛い。


「わかりました。ご主人様、ご武運を」

「戦うって決まった訳じゃ無いんだけどね?」

「とにかく!無事で帰ってきてくださいね」

「ああ、わかったよ」


 死ぬわけにはいかないな。



 俺が先頭で馬。俺のすぐ後ろに父上の乗っている馬車。そしてそれを囲う護衛が俺の他に10人ほど。


「父上、もうすぐ那古野の街に入ります。護衛の皆さん、ここから一層注意深くお願いします」

「おう」


 襲われるとしたら那古野の街に入る直前か直後だろうと予想している。そして、その予想は見事に的中した。



 那古野の街に入った直後、襲われた。



 突然、弓が飛んできた。四方八方から。屋根の上に多くの兵士がいる。30人ほどか?護衛が何人かやられた。護衛が減ったのを見て次々に屋根から飛び降りて来る。何やらリーダー格の男が先頭の俺に刀で襲いかかってきた。その刀を弾きながら相手の顔を見る。その相手は……


「恒興?」

「っ!?千代松!?」


 襲ってきたのは俺もよく知っている相手。そして心のどこかで信長が父上を殺したりなんてするはずないって思ってた俺の甘い考えを打ち砕く相手。かつて俺に剣を教えてくれた信長の小姓の1人、池田恒興だった。


 しばらく俺と恒興は睨み合う。恒興はどうするべきか考えているようだ。信長の命令を遂行し俺を殺すか、信長の命令に背きかつての友を助けるか。そして恒興が選んだのは……前者だった。


「ごめん……千代松」


 そう呟き、刀で俺を切ろうとする。とっさに銃を向ける。この銃に入ってるのは実弾だ。撃てない。おれには友達を殺したりなんてできない。斬撃を避け、銃のグリップで恒興の後頭部を殴った。倒れた恒興に銃を突きつけ襲ってきた人たちに大声で告げる。


「お前ら!今引けば許してやる。さっさと引かない場合はこいつを即座に撃ち殺す」

「な?恒興さま!?」

「さっさとしやがれ!本当に殺すぞ!」


 そう大声で脅すと襲ってきたのは奴らは一目散に逃げていった。



「誰か!こいつ拘束してその辺の家に入れておけ!」

「え!?殺さなくていいんですか?隊長の首ですよ?」


 確かに殺せば報酬が貰えるだろう。だがそんなものより大事なものがある。


「ああ、殺さなくていい。友達なんだ」


______________________________________


〈那古野城内〉

「若殿!坂井大膳殿がお見えです」

「何!?恒興が失敗したのか?」

「大膳殿がここに現れて恒興が帰ってきていないという事はそういう事なのでしょう」

「むう、ならば仕方ない。又左、お前が大膳一行を殺せ」

「はっ!!」

「やるタイミングは大膳が面会に来る直前の控室だ、いいな?」

「はっ!」

「よしでは準備しろ」

「は、失礼します」


 前田又左衛門利家は槍を持って主人の部屋を出る。向かう先は坂井大膳の控室。親友千代松の父親を殺さなければならないことに心が痛むが全て我が主人のため、そう思いためらいをなくす。足音をできる限り消し槍を強く握り部屋に近づく。

(ごめん…、千代松)

 最後に親友に心の中で謝罪してから、前田又左衛門利家は部屋の扉をあけた。


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