第17話 結婚と信長の思惑
那古野を出て次に向かったのは俺の生まれ故郷である清洲である。もちろん向かうのは実家。そこそこ大きい家だから祈も泊まれると思い、祈の宿は取らずに二人で向かうことにした。
「ただいま」
「お、お邪魔します」
久しぶりの実家。
「あ、え、千代松?」
「ただいま、母上」
「あれ?千代松は伊賀にいるんじゃ?」
久々の母様は俺が突然帰ってきたことに驚いている。
「ちょっと用事があって帰ってきました。父上は?」
「そ、そう。あの人はここ最近はずっと帰ってきてないわ。お城で忙しいみたい」
「そうですか」
「あ、あの千代松、そ、その可愛いお嬢さんは?」
さっきから固まっている祈を見て母上が尋ねる。
「ああ、彼女は俺の世話をしてくれてる…」
「世話をしてくれてる!?てことはもしかして彼女!?お、お嬢さん、お名前は?」
「あ、えっと祈です」
「ちょ、母上!?」
母上の様子がおかしい。
「祈ちゃんっていうの!いい名前ね!千代松はどう?ちゃんと優しくしてくれてる?」
「は、はい。千代松様は優しいです」
「そう!でも千代松は昔っから危なっかしい子なのよ。よく家を爆破してはあの人に怒られてたわ。そういうことはない?」
「え、えっと工房は爆破してますが家ではそのようなことはないかと」
「でもあなたはそんな危なっかしい子でいいの?」
「は、はい」
母上の勢いに祈がたじたじになっている。祈が助けを求めるような目でこっちを見てくるが俺もこんな母上初めて見たからどうしたらいいかわからない。
「ちょ、母上。そのくらいで」
「あ、千代松、安心して。こんな子なら大歓迎よ!ちょっと早い気もするけどこのくらいの例もないわけじゃないもの!」
「ちょ、何言ってるんです?」
「母は祈ちゃんと千代松の結婚を認めます!!」
け、結婚!?!?!?
「「はぁぁぁぁぁ!?」」
母の言葉に俺と祈は夫婦顔負けの息ぴったりさで叫んだのだった。
それから母上を落ち着かせて誤解を解くのに小一時間かかった。
「ごめんなさい。千代松がかわいい子を連れて、用事があるとかいうからてっきり結婚の報告かと。すみませんね、祈ちゃん」
「い、いえ」
「それで千代松はあの人に用事があるんでしょ?使者を送ったからもうそろそろ帰ってくるはずよ」
その時、ちょうど父が帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえりなさい、あなた」
「おかえりなさい、父上!」
「お、お邪魔してます」
「おう、ただいま。久しぶりだな、千代松。そのお嬢さんは?」
「彼女は祈、僕の世話係です。伊賀に行くとき、信長様にいただきました」
「そ、そうか。信長様に…」
父の返事は歯切れが悪い。戦になっているから気まずいのだろう。
「その信長様と戦になっているんですよね?」
「…ああ」
「僕はそれを止めるために帰ってきました。単刀直入にいいます。信長様に降りましょう。そうすれば、戦はせず、罰を与える事もなく、領地もそのままにして下さるそうです」
父が難しい顔をする。
「本当にその条件を信長が提示したのか?」
「?…はい」
「信長はずっとこの清洲の地を欲しがっている。尾張の中心であり戦をするにしても重要な拠点だ。そこをこの坂井大膳に任せたまま? そんな訳あるまい。信長がこの清洲を手に入れたら尾張国はすぐに信長に統一される。尾張が統一されたら次は三河を攻めるだろう。そんな時、清洲の坂井大膳はどうすると思う?すぐに今川に裏切って那古野を攻める!! 信長がいない那古野などこの坂井大膳は簡単に落とせる! 信長は今川とこの私に挟み撃ちにされる。と、ここまでは容易く想像できる。この上で考えてみろ。明らかにおかしい。信長は坂井大膳を清洲に置いたままでは絶対に他国を攻められない」
その通りだよ。俺もそう思う。この下剋上の世の中、信長が父上を清洲に置いたまま家来として使うのはあまりにも危険すぎる。でも本当にこの条件なんだ。なら信長がこの条件を提示した理由は?
「お前の顔を見るにきっと信長は本当にその条件を提示したんだろう。じゃあ信長がそんな危険な和平案を出した理由はなんだと思う?」
俺の父親だから?いや、信長はそんな甘い奴では無い。じゃあ、なんだ?
「おそらく…俺の命だろう。俺が家臣になるため那古野へ出向いた時に暗殺するつもりだろうな」
「信長様がそんな事・・・!!」
「無いと言い切れるか?」
信長様が父上を殺すつもり?そんなまさか?…でも思い当たる節はある。歴史で学んだ織田信長という人物は比叡山の焼き討ちや伊勢長島一揆の皆殺しなど残虐な人物だと学んだ。しかし転生して実際にあった信長はヤンチャでフレンドリーな人物という印象だったから忘れていた。だが転生して実際に会った信長と比叡山焼き討ちや伊勢長島一揆皆殺しの信長は同一人物のはずだ。ならありえないとは言えない。でも……!
「俺は信長様を信じます。俺と一緒に那古野へ行きましょう。今の俺なら信長の近臣数十人襲ってきても問題なく撃退できます。絶対に父上を守りきれると約束します」
「…本気か?」
「はい。おそらく俺がいれば襲って来る事もないでしょうが」
それでも父は悩んでいる。そうだろう。俺が失敗すれば父は命を失うんだから。
しばらく悩んだ後、父はこう言った。「まずはお前の実力を見せてくれ」と。
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