第5話 猪と大蛇の沼
「一巴先生!!俺を弟子にして下さい!!」
土下座して叫ぶ俺に一巴先生は「ふぁ?」と気の抜けたような声をだす。突然の土下座に驚いたのだろう。だが暫く固まったあと一巴先生は優しく微笑んで
「もちろん、信長様に紹介されて、あの銃を見せられた時からそのつもりでしたよ。これからよろしくお願いします。我が弟子よ」
「は、はい!!」
こうして俺は尾張国一の銃の使い手・橋本一巴に弟子入りしたのだった。
俺たちはそのままその草原で練習して帰ることになった。
「じゃあまずはあそこの猪を仕留めてみようか」
一巴先生は40メートルほど離れたところにいる野生の猪を指さして言う。
「わかりました」
早速持ってきた銃を取り出し、素早く弾薬を装填し構える。
隣で火縄銃の装填をしている信長と犬千代はまだ弾込めをしている。やはり弾薬を作ったことで大幅に装填時間が短縮されている。
「千代松!構えはもっと右肩の力を抜け!それだと力みすぎて狙いが定まらないぞ!」
「は、はい!」
一巴先生が後ろからアドバイスをくれる。
「よし、そうだ。それでいい。その体制のまま引き金を引け」
俺は狙いを定める。だが獲物が動いてうまく定まらない。
「千代松!狙いが定まったと一瞬でも思ったら即座に撃て!!お前はわざわざ獲物が止まるのを待つのか!?戦場ではそんなのは通じないぞ!」
「は、はい!!」
再び狙いを定め、言われた通り即座に引き金を引いた。
パァァーーン!!
草原に鳴り響く銃声と同時に薬莢が銃身から飛び出す。
俺の作った銃は火縄銃というより、単発ライフルの形で威力が火縄銃といった感じだ。
弾丸は猪に向かって飛んでいき、猪の腹あたりをかすめた。
そしてその猪はこちらに突進してきた。
「おわっ!?」
「・・・!?」
「千代松ッ!?」
信長と犬千代が火縄銃で撃つが全力疾走している猪には当たらない。猪はまっすぐ俺の方に向かってくる。慌てて弾薬を装填し構える。即座に発砲。
前足に当たったが勢いは衰えない。やばいやばいやっばい。慌てて腰に何時も差している短刀を抜く。
その時、パァァーーン!!と甲高い銃声が草原に響き渡る。
そして俺の1メートル弱前方で猪が倒れた。その額には風穴があいている。そして後ろを振り返ると一派先生が銃口から出ている煙を息で吹き飛ばしているところだ。
かっけぇぇーーー!!!
「千代松、ケガはないかい?」
「はい!ありがとうございます!」
「千代松、向かってきたときに即座に装弾して撃ったのはいいけど、慌てすぎてちゃんと狙ってなかったよ?命の危険がある時こそ冷静に、だよ。」
「は、はい」
まったく持ってその通りだ。さすが師匠だ。
「あと若殿と犬千代も構えの形がなってなかったよ。ああいう時こそ基礎を忠実に。助けられるものも助けられないよ?」
「・・・」
「はい」
信長は黙っているが、犬千代は神妙な顔でうなずいた。
信長様は上から目線で何か言われるのが嫌いなのだ。
そんなこんなで今日の訓練は終わったのだった。
馬で来た時と同じように信長の後ろに乗って帰る。
だが、その帰りにさらに事件が起きた。
何やら池の周りに子どもやら老人やらが集まっていた。
そして信長はこういうトラブルっぽいものに目がない。(犬千代と竹千代談)
犬千代と竹千代はこれまでも苦労してきたのだろう。二人を見ると「はぁ、またか・・・」といった感じだった。
信長がその池、というより沼に集まっている農民に話を聞いた。
農民曰く、この沼には大蛇がいるらしい。現代っ子の俺からすればそんなもの居る訳ないと思うのだが、農民たちはマジで信じているらしい。
信長は
「そんなのがおるわけないだろう。ただの迷信だ」
というのだが、ある農民の子供は
「信長様、そんなことを言ったら寝ている間に連れ去られちゃうよ?」
とか言っている。
「だから大蛇なぞおらん。なんなら俺が確かめてやろう」
「え?どうやって?」
そして信長は宣言した。
「今からこの沼の水をすべて出し、干上がらせる!!」
はぁぁぁぁああぁぁ???
なんて大胆で無茶な!?
現代日本でもそんなことをすることは少ないだろう。確か何かのテレビ番組であったような気もするが。
「ちょ、信長様!?沼を干上がらせるって・・・無茶ですよ!結構深そうですよ、この沼?」
「そうですよ、若!さすがにそれは・・・」
「うるさいぞ、千代松、犬千代。大蛇などいない。それを証明するだけだ」
こうなった信長は止まらない。(犬千代談)
これまでも苦労してきたのだろう。
こうして、信長とゆかいな仲間たちによる沼干上がらせる大作戦が始まった。
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