第4話 師匠

 俺はあの後、信長と名乗る男に連れられ清洲城付近の自宅から那古野城近くに引っ越した。そしてその家の隣には専用の工房と専属の鍛冶師をいただいた。約束は果たされたわけだ。

 そして那古野の民に聞いたのだがやはりあの信長を名乗る人が織田信秀の息子でうつけ者の織田信長で間違いないらしい。本当に後の天下人に拾われたらしい。ラッキー・・・なのかな?


 俺はいただいた工房でしばらくの間、鍛冶師さんと協力して弾薬の開発に励んだ。俺一人の時とは違い、金属の扱いに慣れた鍛冶師さんたちがいると効率が桁違いで、あっという間に弾薬と呼べるものができてしまった。

 今はその弾薬にあう火縄銃を製作中である。それももう試作品は出来ていて、弾薬が問題なく発射されることも確認済みだ。信長様からは何か成果が出れば見せに来いと言っていたので、近々見せに行かねばなるまい。


 そんなある日、俺の工房に信長様が竹千代と前田犬千代を引き連れて尋ねてきた。


「これは信長様、如何いたしましたか?」

「おう千代松。研究は進んでおるか?」

「はい。先日ようやく目指していたものが出来上がりました」

「ほう、見せてみよ」


 俺は弾薬と試作品の火縄銃を手渡す。


「この弾薬を銃の上の蓋の所から装填し横のレバーを引きます。そして引き金を引けば弾丸が発射されます。これならば撃ってから次に撃つまでの時間が大きく短縮できるでしょう」

「ほう、これは・・・素晴らしいものを作ったな!!よくやった千代松!!まさかこんなに早く成果を出すとは!!まだこちらに来て1月ほどだというのに!!」

「ハッ!ありがとうございます」


 信長は満面の笑みで俺の制作した銃と弾薬を眺めている。


「千代松殿、素晴らしいものを作ったな。若がここまで喜んでいるのを久方ぶりに見たぞ」

「ありがとうございます。犬千代様」

「犬千代でよいわ。私もこれから千代松と呼ぶことにする。いいな?」

「はい。い、犬千代」

「そうだ、それでよい千代松」


 犬千代はそう満足そうに笑った。

 この少年が後の加賀百万石の祖先・前田利家だということはまだその時の俺は知る由もないのであった。



「千代松よ。俺たちはこの後、火縄銃を習いに行く。今日はそれにお前を誘うために来たのだ。ということでお前もついてこい!!」

「え?あ、はい。わかりました」


 ということで信長の銃の先生に銃を教わりに行くことになった。


「お前の銃を見ていたら時間が経ってしまった。少し急ぐぞ。あ、そのお前が作った銃は持っていけ」


 そういいながら信長は外に止めていた馬に飛び乗った。犬千代も同じように馬に乗る。竹千代は犬千代の後ろだ。

 っていうか俺馬持ってないんだけど。そう考えていると信長が


「何をしている!早く乗れ!」


 そう自分の馬の後ろを指さしていた。

 慌ててそこに飛び乗る。すると馬はすぐに動き出した。慌ててバランスをとる。


「犬千代ッ!!飛ばすぞッ!!」

「はい!!若!!」


 凄いスピードだ。俺は乗馬の経験がなく、めちゃくちゃビビッて馬にがっしりと捕まっている。そんな様子を見て信長が


「千代松、馬は初めてか?」

「は、はい」

「そうか。馬はな、足の力を使って体勢を保つのだ。足で馬の腹を強く捕まえる感覚だ。やってみろ」

「は、はい」


 言われた通りやってみる。確かにさっきより安定した。


「できたな。だがお前はまだ小さいから安定しないな。ほら、俺にしっかりつかまってろ」

 うわっ、凄いイケメン台詞!!このイケメンがこんな台詞言ったらだいたいの女の子落ちちゃうよ。俺も危うく落ちるところだった。

 主人に捕まるなんて家来落第だがここは遠慮なく捕まらせてもらおう。


「もう怖くないか?」

「はい!」

「じゃあ飛ばすぞ!!」

「えッ!?」


 さらにスピードが上がった。まじかよ!?

 俺は信長の着物にしわが付くくらい強く信長にしがみついて到着を待った。



 俺の家から馬の全力疾走10分ほどの所にその先生の家はあった。


「大丈夫か?千代松?」

「ええ、なんとか」

「あ、あのこれ」

「あ、ありがと」


 馬に揺られすぎて気持ち悪くなった俺を犬千代が心配してくれる。(ギリ吐いてない)竹千代もヒョウタンの水を差しだしてくれる。俺はそれを一口飲むと竹千代に返した。


「ほら、行くぞ」


 信長が門を指さして待っている。彼は待つのが嫌いなのだろう。イライラしたように足を動かしている。俺たちは慌ててそれを追いかけた。


「初めまして。私が信長様の銃の講師を務めさせていただいている橋本伊賀守一巴はしもといがのかみいっぱです」


 そう俺にあいさつしたのは橋本一巴と名乗る30歳くらいの高身長イケメン。


「どうも、初めまして。坂井大膳の長男・坂井千代松です」

「坂井大膳の・・・?」


 父のことが気になるのか?何か言った方がいいだろうか?


「え?どうかしましたか?」

「あ、いやなんでもありません。」

「一巴、こいつはこの前、俺が新しく家来にした。なんでも7歳なにもかかわらず火縄銃を改造しようとする面白い奴で、実際に改良してみせた、見どころのあるやつだ。一緒に銃を教えてやって欲しい」

「なるほど。わかりました。ですがその前に改造した火縄銃とやらを見せていただけますか?」

「もちろん。そのために持ってこさせた」


 その言葉に犬千代が反応し、銃を一巴に手渡した。


「これは・・・」

「千代松、説明してやれ」

「ハッ!」


 俺は先ほど信長にいた説明を橋本一巴にそのまま話した。


「なるほど、確かに素晴らしい。いいでしょう。私が教えます。では手始めに少し出かけましょう」


 そういうと橋本一巴は家から出て馬に乗り、広い草原にきた。


「見ていなさい。」


 橋本一巴は一言そう言うと、火縄銃をもって草原を歩いた。

 そして遠くに獲物を見つけると、撃つ準備をして、狙いを定めた。

 火縄銃の射程は50メートルほどといわれている。それ以上は弾が重力によって落ち、狙いが定まらなくなるのだ。なのにここから獲物までは100メートルほどはある。こんなの当たるのか?

 パァァーーン!!!

 銃声。そして獲物が倒れた。

 当てた!?最大射程と言われている距離の倍はある距離は離れている獲物に命中した!?

 俺の驚きはそれだけでは終わらなかった。

 橋本一巴が打ち取った獲物を見ると、そのオオカミは脳天を一発撃ちぬかれて死んでいた。

 て、的確過ぎる!?!?この人はヤバイ。俺は背筋がゾクッとするのを感じた。そして無意識に土下座しながら言っていた。


「一巴先生!!俺を弟子にして下さい!!」


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 ある日の橋本一巴と織田信長の会話

「若殿、勘弁してくださいよ。この前三河からの人質を連れてきてこいつにも銃を教えてほしいと言ったばかりなのに、またですか。しかも今度は坂井大膳の息子ですか?だいたい坂井大膳と若殿の父である信秀様は敵同士ではないですか」

「まあそう言うな。大膳は敵といっても爺やが何とかできるであろう。それに千代松はすごい才能の持ち主だ。伸ばしていずれは俺の優秀な部下にしてやる。」

「とにかく!これ以上私の生徒を勝手に増やさないでくださいね!!」

「ああ、わかっておるわ」

 しかし、今後信長により生徒がさらに増えることはまだこの時の橋本一巴には知る由もなかった。


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