第3話 運命の邂逅

 そう、あいつは、あのお方は唐突に来た。

 あれはいつも通り俺が弾薬作りに励んでいた日のこと。

 その日も俺は家から少し離れた小屋で作業していた。そして少しミスって手元にあった弾薬の材料の火薬が爆発してしまったんだ。火薬というのは扱いが非常に難しく、すこしの熱や衝撃でも爆発してしまうのだ。もうこんなことにはここ数年で慣れたものなので流れるような動作で床に伏せて耳をふさぐ。


「あーあ、またやっちった」


 もう最近は父や母たちも爆発しても慌てて飛んでくることは無くなった。

 夕食の時に気をつけなさいと言われるくらいだ。



 だが、その日は違った。爆発の少し後、少し煙い小屋にその男は遠慮もなしに入ってきた。


「おー、たびたび自分の部屋を爆発させる大うつけ(大バカ者)がいると聞いて、面白そうだからやってきたらまさか本当に爆発させるとは!なあ?お前ら?」

「そうですね、若。私も驚きました」

「え、えっとその、そうですね」


 誰だこいつらは?

 外見は最初に話した声の大きい若と呼ばれた男は14歳くらいに見える。上半身は着崩した和服に下半身は父が来ているような袴と違い短めの袴に、縄を撒いている。

 ちょっと濃い顔のイケメンだ。

 次に話した男も年齢は同じくらいだろう。こちらは動きやすそうだが、小綺麗な和服を着ている。さわやかな感じのイケメンだ。

 最後に小さな声で何か言っていた明らかにコミュ障だと思われる少年は多分俺と同じくらいだろう。6,7歳くらいに見える。こちらは丁寧に和服を着こなしている。まだ幼いが将来はイケメンになるだろう。

 何者だ?


「え、えっと・・・どちら様で?」


 恐る恐る尋ねてみる。


「ん?俺の名か?俺はな織田吉法師だ!」

「若、もう吉法師ではありますまい」

「ん?あ、そうだったな。俺の名は織田上総介、信長だ」


 へ?織田上総介・・・信長!?

 こいつがあの有名な織田信長!?教科書の絵と全然違うじゃん!?っていうか本物?時代的にはあってるのか?


「私は前田犬千代。以後、お見知りおきを」

「た、竹千代です」


 ほかの二人も名乗ってくれる。俺も名乗る流れだろう。


「坂井千代松です」

「ん?坂井?お前もしかして坂井大膳の息子か?」


 信長を名乗る男の顔がちょっと怖くなる。


「そ、そうですが?」


 恐る恐るそう答えると信長は


「はっはっはっは、あの今や尾張守護代織田家を乗っ取ろうとしている坂井大膳の息子がたびたび部屋を爆破させる大うつけ(大バカ者)とはな!!はっはっはっは」


 と、爆笑している。っていうか歴史に名を刻むうつけ者(バカ者)に大うつけ(大バカ者)って馬鹿にされたんだけど!?


「大うつけとは失礼な」


 ボソッと反論してみる。すると信長は


「家をたびたび爆破させる者が大うつけ(大バカ者)ではないはずがないであろう、はっはっは。俺もさんざんうつけ(バカ)呼ばわりされておるがさすがに家を爆破したことは無いぞ?」


 くっそぉ、反論できねぇ!!確かに常識的に考えて家を爆破はバカのすることだわ。認めるしかない。


「そうですね、それでこの大うつけに何の御用でしょうか?」

「別に特に用があってきたわけではない。なんか家を爆破する面白い奴がいると聞いてきたまでだ。ところでお前はなぜ家を爆破しておるのだ?」

「私は家を爆破するのが目的ではありませんよ。たまたま結果的にそうなっているだけなのです」

「ほう、ではなぜ家を爆破するに至ったのだ?」

「これですよ」


 俺は信長と名乗る男に部屋の隅に立てかけてあった火縄銃を見せた。


「これは…種子島か。これがなぜ爆破につながる?」


 知っているのか。なら話は早い。


「その前に一つお尋ね致しますが、信長様はこの種子島の欠点はどこだと思われますか?」

「1度撃ってから次に撃つまでに時間がかかることだ。これなら弓を使う方が効率も精度も段違いだ」


 ほお、わかってるじゃないか。


「その通りです。では信長様はこれを改善するにはどうすればよいと考えますか?」


 信長は少し考えたのち、


「多くの兵に持たせて、交互に撃たせれば良い。そうすれば絶え間なく撃ち続けられ、敵は近づけぬ」


 なるほどね。確かにそれも良い案だ。


「なるほど、ですが私はこう考えました。銃の連射を早くすることができぬのかと」

「ほぉ」

「そうして考えた結果がこれです」


 俺は信長様に1枚の紙を手渡す。それは俺が考えた・・・ということになっている弾薬とそれに対応する銃の設計図だ。そこには弾薬の構造や各部位の詳細まですべて書いてある。


「うーむ……犬千代!見てみよ!」


 信長はしばらくうなった後、それを犬千代に渡す。


「っ!?これは!?」


 犬千代が信じられないものを見たかのように俺の書いた設計図と俺を見比べる。

 そりゃあ驚くだろう。俺はまだ7歳だからな。


「若、これは……」

「うむ、こいつは……」


 二人でうなっている。竹千代は理解が追い付いていない様子。


「よし!千代松よ!俺の家来になれ!さすればお前には専用の工房と腕のいい鍛冶師をつけてやる!その代わりお前の技術を俺のために使え!!」


 いきなりなんだ?と思ったがこれはものすごい好条件なのではないだろうか。現代で言うところのいきなり管理職みたいなものだ。それにこの人が本当にあの織田信長だとするなら後の天下人だ。約束された将来のある会社にいきなり管理職では入れるっていうならすごくいいのでは?

 そして俺は……


「わかりました。これからよろしくお願いします」

「うむ!」


 信長様に頭を下げた俺に対し、信長様は満足そうにうなずいたのだった。


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 ある日の家族会議の様子

「俺の息子、早くも親元を離れて最近話題のうつけ者の配下になっていったんだが」

「なんですって!?あの織田信秀の嫡子のうつけ者に!?あなた!なんで止めなかったのよ?」

「大丈夫さ、あの子は賢い。きっと何かあっても自分の力で何とかするさ。」

「でも・・・」

「それに織田信秀とその一族は後に倒さなければならない相手。その戦になったとき、何か情報とかをもってきてくれるかもしれないだろ?連れ戻すのはその時でも遅くない」

「!?あなたそこまで読んで!?・・・あなたには敵わないわ。さすが尾張守護家を乗っ取っただけのことはあるわ」

「そうであろう。ひとまず我らはあの子の成長を見守るとしよう。幸い月に一度は帰ってくると言っていたしな」

「ええ、そうね」

(それにしてもあの気性が荒いと噂されるうつけに一日で気に入られるとは、我が子ながら末恐ろしいわい)


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