第2話 戦国の銃

 あれから少し時が経ち、俺は3歳になった。

 この3年でわかったことは今は天文12年、場所は尾張国の清洲城の近く。つまりは愛知県の名古屋の近くだね。天文ってのがいつなのかわかんないけど室町か戦国、安土桃山もしくは江戸時代この辺じゃないかと思ってる。

 そしてこの家は下級武士の1家で父は坂井大膳というらしい。少なくとも高校までの教科書には出てこなかったためあまりすごい人物では無いだろう。母は梅という。

 兄弟はおらず、そこそこ大きな日本家屋でいつもいる家政婦とも含めて4人暮らしだが、門には父の家来がいつもいたりしてよく遊んでくれたり、いろいろなことを教えてくれたりする。


 あとは俺の名前だ。新しい俺の名は千代松ちよまつになった。坂井千代松。だがこれは幼名で15歳前後で元服してまた新しい名前になるらしい。ややこしいシステムだね。

 

 その年の末、父が何やら面白いものを持って帰ってきた。


「父上、それは何ですか?」


 一応聞きはしたが俺には薄々それが何かわかっていた。

 筒状の金属部分に木でできた持ち手に丸い金属の引き金。


「これはな、火縄銃というものだ」


 やっぱり!!銃だ!!

 撃ってるところが見たい!!


「これはどうやって使うものなのですか?」

「よし、では庭で見せてやろう」


 そう言われ父と俺は庭に出た。


「千代松よ、あそこの藁をよく見ておれ」


 そう父が指をさした先にはいつも父が剣の練習に使っている藁の棒が立てられている。


「では、いくぞ」


 父が銃口に火薬と弾丸を込め、長い棒で押し付け、装填する。

 火蓋に火薬を詰め、火蓋を閉じる。

 火ばさみを半分開け、火のついた縄をはさむ。

 火ばさみを完全に上げ、狙いを定める。

 引き金を引く。

 パァァーーン!!!

 甲高い銃声が響き渡る。

 藁を見ると、藁には穴がきれいに空いて、弾は貫通していた。


「おおおぉぉぉ!!!すごいです父上!!」

「そうであろう?なんでも今年の夏に南蛮人が種子島に持ってきたらしい。なかなかに見どころのある兵器じゃ」

「父上!私もその火縄銃が欲しいです!!」

「駄目だ、お前にはまだ早い」


 やはりか、だがこれで諦めるわけにはいかない。

 秘儀「子供の可愛すぎるおねだり」発動!!


「ちちうえー、どうしてもだめですか?」

「ああ」

「おねがいします、ちちうえー」

「・・・」


 お、効いてる効いてる。あと一押しだ。


「あとで肩たたきしてあげるから」

「…わかった!もう千代松はわがままなんだからー!」


 そういう父の顔は緩みっぱなしだった。

 こうして俺は本物の銃を手に入れた。

 それとさっきの会話から今が何年かが分かった。1543年だ。鉄砲伝来した年だから覚えていた。戦国時代真っ盛りだ。



 それから俺はしばらく部屋にこもるようになった。

 もちろん銃をいじっていた。

 火縄銃の構造は簡単だった。金属でできた筒に木でできた銃床、シンプルな構造の引き金部分のからくり。

 それから自分でも何度か撃った。だが3歳児には厳しかった。門番の兵士さんに頼んで何度か撃ってもらった。飛距離は50メートルほど。

 

 このようにして俺は戦国時代の銃について調べた。

 そして分かったことがある。この銃、1発撃ってから次撃つまでものすごく時間がかかる。当たり前だ。撃つ前には銃口から弾を詰めて押して、火蓋を開けて、火薬詰めて、火蓋閉じて、火ばさみ開けて火縄はさんで、火ばさみを上げて、狙いを定める。

 このクソ長い手順を丁寧に行わなければならない。門番さんにやって貰ったら1分半ほどかかった。俺は思った、改造するしかないと。


 最初の2年ほどは俺の生前の知識をもとに連射できる銃を作ろうと頑張った。

 目指したのはもちろんリボルバー式の拳銃だ。生前の愛銃を再現しようと頑張った。

 もちろん失敗した。理由は簡単で俺に金属を加工する技術がなかったためである。

 市場などで部品を探したが無かった。そりゃああるわけないんだけど。

 鍛冶師に依頼してみても満足いく品は出来なかった。鍛冶師がただただ自分の手の中で爆発するだけの一見するとリボルバーっぽく見えなくもない品を持ってきたときはブチギレたものである。

 父にシリンダーの絵をかいてこういうの頂戴ってお願いしたときには父は何を持ってきたと思う?レンコンだよ!!!!あの時はものすごく笑った。それと同時にこれは無理だな、と悟った。


 ということで俺は銃本体を作るのは諦めて弾薬を作ることにした。弾薬とは弾丸と火薬をまとめて1つにしたものである。これができれば火蓋のあたりから装填して連射力が多少上がるのではないかと思ったのだ。

 ところが火薬の扱いというのは非常に難しく、これも思った以上に難航した。

 何度も自室を爆発させて怒られた。家を爆発させるなと。

 そのうち家の外にある小屋を与えられて実験はここでしてくれと父に頭を下げられた。それからはその小屋で弾薬の作成に勤しんだ。

 そんなある日だった。あいつが俺のところに来たのは。



 ------------------------------------------------------------------------------------------------

 ある日の家族会議の様子


「俺の息子、物心つくの早いなーと思っていたが、ある日を境に家を爆破するようになった。子どもとはこういうものなのか?」

「まったく、千代松ったらやんちゃなんだから」

 (やんちゃで済むのか??)

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る